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第19章 光と闇の交差点

第263話 悪夢の中に残るもの

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 一時は命が危なかったリョウだが、マカロンの光魔法のおかげで一命をとりとめた。
 今は俺の腕の中で寝息を立てながら眠っている。

 やすらかな寝顔だ。これまで本当に苦しかったろうから、今はゆっくり休んでほしい……。

「リョ、リョウ!? リョウは無事か!? おい!?」

 魔幻塔を覆っていた闇が払われたのを確認したためか、ジフウが俺達の元までやって来た。

「ゼェ、ゼェ! な、なんとか別ルートが見つかったと思ったら、闇がなくなっていくし、ジフウの兄さんがすごい勢いで突っ走って行くし……」
「やれやれ……。一時はどうなることかと思いましたが、なんとかなったようですね」

 サイバラとコゴーダも無事にここまでこれたようだ。

「安心してくれ。リョウは大丈夫だ。ただ、相当体に負担がかかっていたから今は眠っている。ゆっくりさせてやってくれ」
「よ……よかった……ほ、本当に……リョウ……!」

 リョウの無事を確認したジフウはその場に泣き崩れてしまった。
 シシバも泣いていたし、リョウは本当にいい兄を持ったものだ。

「マカロン……本当にありがとう。お前がいなかったらリョウは助けられなかった」
「お礼ならラルフルにも言ってあげてくださいね……。元々はあの子の魔力なんですから……」

 マカロンも力を使い果たしてぐったりとしている。
 本当にありがとうな……マカロン。





 眠ったリョウと力を使い果たしたマカロンを連れて、俺達は魔幻塔の外に出た。
 魔幻塔の兵隊も大人しくなっており、ギャングレオ盗賊団とラルフルも一息ついていた。
 正気に戻った黒蛇部隊も無事に戻ってこれたらしい。

「ゼロラさん! 上手くいったんですね!」
「ああ、ラルフル。お前もよくここで踏ん張ってくれた。……それに、お前の魔力があったからリョウを助けることもできた。本当にありがとうよ」

 ラルフルはいつの間にか俺の横に並べる程に強くなってくれた。
 本当に頼もしくなったものだ。もう俺から教えられることなどないだろう。

「ジフウ。リョウの身柄はこれからどうなるんだ?」
「俺から陛下に掛け合って、王宮内で俺の傍で保護できるように頼んでみる。この騒動で魔幻塔も解体へと動き出すだろう。まだジャコウはリョウの魔力に干渉できるが、王宮内なら防ぐ手立てはある」

 リョウの身柄は王宮内で国王とジフウ達黒蛇部隊で保護できるように動いてくれるそうだ。

「今の陛下の力なら無理矢理にでも押し通してくれるだろう。……あんまりあの方に無茶はさせたくないが」
「やはり国王はあえて暴君を演じて――」
「おっと。これ以上は俺からも禁句だ。あまり事情は喋れない」

 ジフウは俺の質問を遮ったが、やはり国王は自ら進んで暴君を演じているのか――

「それにしてもリョウを操っとった闇――<ナイトメアハザード>やったか? 本体っぽい少女の声といい、<ミラークイーン>とかいうバケモンといい、分からん事ばっかりや」

 俺とジフウが話していたのを聞いて、シシバも話に入り込んでくる。
 確かにあれらは全部何だったのだろうか……?



  いや、なんとなくだが、俺には分かるような気がする――



「<ナイトメアハザード>については、今レイキース達勇者パーティーが調査に向かってる。こういう闇魔法関係の事案については、あいつらに任せておくしかないだろう」

 ジフウの言う通り、すでに勇者パーティーが動いてくれているのなら、俺達が下手に手出しをしない方がいいだろう。

「レイキースか~……。俺、あいつのこと嫌いやねんけど。この左目の借りがある相手やし」
「仕方ないだろ。俺達が手出しできる領域じゃないんだからよ」

 シシバはレイキースが動いていることに難色を示しているが、兄のジフウに言われて一応は納得する。

「それともう一つ気になることは――【虎殺しの暴虎】だ」
「やはりジフウも気になるか……。まだジャコウの傍にいるんだろうな……」

 俺とジフウが戦ったルクガイア暗部構成員――【虎殺しの暴虎】。
 奴はジャコウの下僕として、おそらくまた俺達を襲ってくるだろう。

「【虎殺しの暴虎】? なんやそれ?」
「【龍殺しの狂龍】ジフウと並び称される者だ。どうやらジャコウの配下らしい――」

 事情を知らなかったシシバに俺は簡単に説明した。
 シシバはそれなりには聞いていたが、軽く聞き流していた。





 だが、今回のこの状況を見て、俺は改めて【虎殺しの暴虎】の正体に憶測をつける。

 おそらくは……"あの男"しかいない――
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