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第17章 追憶の番人『公』
第235話 不器用な男
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「――っと、以上が俺の知ってるバクトの過去だな~。どうだ~? 記憶を頼りに映像化してみたがよ~、中々すげーもんだろ~? クーカカカ~……」
俺達に映像を見せた機械を自慢しながらバクトの過去を語り終えたフロスト。
あえて笑ってごまかすようなそぶりを見せているが、フロストもバクトとミリアの関係についてモヤモヤしたものを持っている様子がどこか伺える。
バクトと亡くなった女房の間に生まれた、当時まだ赤ん坊だった一人娘――
"スタアラ魔法聖堂"で育てられ、名を"ミリア"――
間違いない。
ミリアは……バクトの娘だ。
「そ、そんな……嘘よ……!? アタシの両親は死んだって……そう教えられて……!?」
「確かにスタアラ魔法聖堂にはそー伝えてたみたいだな~。バクトは万一自らの医療技術で娘のお前に被害が及ぶことがないよう、赤ん坊だったお前をスタアラ魔法聖堂に『両親が死んだ子だ』と、メモだけ残して置いてったからな~。女房を治した後に、何なり言って引き取るつもりだったんだろーが、結局そーはできずに現在に至る……ってことだ~」
激しく動揺するミリアにフロストが補足を加える。
先程の映像が全てバクトを嫌うフロストの嘘だという可能性もあるが、嘘にしては筋が通りすぎている。
それに……"フロスト自身もおかしい"。
「フロスト。お前は昔、"バクトと仲が悪い"わけじゃなかったんだな?」
「いや~、仲は昔から悪かったぜ~。顔を合わせばしょっちゅー『肉と魚のどっちが旨いか?』とか『コーヒーに入れる砂糖はどれぐらいが適量か?』とかでよく言い争ってたしよ~」
喧嘩の理由のレベルが低すぎないか?
だがどうにも、フロストとバクトの仲がより険悪になった原因の一つに、"バクトが変わってしまった日"が関わっている気はするな――
「お前が今みたいにどこかネジの外れた人間になったのもバクトが原因か?」
「だーから違うって言ってるだろーが。だが……俺もあいつの在り方にイライラしてたってーのは事実だ。正直に全部話せばいいものを、あのアホ公爵は『今更言えるか』だのなんだの言って、ぜーんぜん話したがらねーし――」
「それについてはお前が言えた義理でもないだろ?」
「……ゼロラ~。てめーは逐一人の発言に首突っ込んできやがるな~。クカカカ……つくづく面白い奴だ~」
フロストは以前のようにまた俺のことを『面白い奴』だと言って、これ以上言及されるのをごまかしながら拒んできた。
こいつにもマカロンとラルフルの件で隠していることがある。
バクトの態度にイラついていながら俺とミリアの前に出てきたのも、"丁度ラルフルがいなかった"からだろう。
バクトもフロストも、どうにも不器用な男だ。
「とーにーかーくーだ~。俺に言えることはここまでだぜ~。後のことはアホバクトを問い詰めるなり何なりして、勝手にやることだな~。クーカカカ~!」
言いたいことを言い終えたフロストは、俺達の元から去っていった。
「ね、ねえ……ゼロラさん……。あの人がさっき言ってたことって……本当だと思う……?」
「おそらくだがな……。ミリア。お前自身に思い当たる節はないか?」
俺の問いかけに、ミリアは頭を抱えながらも答え始める。
「た、確かにバクト公爵はアタシのことを『貴様』呼ばわりしてない……。"円卓会議"で王宮から脱出する時も、あの人はレイキースの放った光の刃から私を引き寄せて守ってくれた……! そ、それに――脱出の時もアタシの身を優先してて――でも、ア、アタシがラルフルを一人で助けに行くって言って――すごく渋られたけど――けど、最終的にシシバをアタシにつけてくれて……!!」
ミリアは呼吸を乱しながらも、自らのバクトに対する態度について思い当たることを話してくれた。
「そ、それに――ゼロラさんを一緒に治療する時――あ、あの人は――アタシのことを認めながら――アタシに合わせて、一緒に治療を……!」
そうか。俺が助かったのはバクトとミリア、双方の力があったからだったな……。
ミリアと共に俺を治療した時のバクトの心情は複雑だったろうな。
自らが捨てた娘に、自らの正体を明かさず、それでも娘の成長を傍で見ながら――
「……ミリア。お前はこの話を聞いた今、どうする?」
「……バクト公爵と話をする。あの人が本当にアタシの父なのか……確かめたい!!」
「確かめて……どうしたい?」
「……分からない。ただ、アタシはあの人に恨みなんてない……。捨てられたことなんてどうでもいい! 捨てられたとも思ってない! とにかく……真実が知りたい……!」
ミリアは泣きながらも必死に自らの願いを吐露する。
――バクトの抱えてきた思いを無碍にするようなことになるが、このままミリアとバクトの関係が続くのも良いとは思えない。
フロストもそれを狙って俺達にこのことを教えたのだろう。
二人のためにも……俺が動くとするか。
「ミリア。お前はここで待っててくれ。お前が直接バクトに会いに行くと、体よく逃げられちまうだろう。バクトには俺が確認してくる。ラルフルもこっちに戻るように言っておくから、少し待っててくれ」
「わ、分かった……。お願いです、ゼロラさん……。アタシの代わりに、本当のことを確認してきて……お願い……!」
ミリアも知ってしまった以上、このままではいられないようだ。
バクトの傍にはシシバがいるだろう。下手をすれば俺に余計なことを喋らせないためにシシバをけしかけてくるかもしれない。
だがたとえそうなったとしても、俺はバクトから本当のことを聞き出してやる……!
俺達に映像を見せた機械を自慢しながらバクトの過去を語り終えたフロスト。
あえて笑ってごまかすようなそぶりを見せているが、フロストもバクトとミリアの関係についてモヤモヤしたものを持っている様子がどこか伺える。
バクトと亡くなった女房の間に生まれた、当時まだ赤ん坊だった一人娘――
"スタアラ魔法聖堂"で育てられ、名を"ミリア"――
間違いない。
ミリアは……バクトの娘だ。
「そ、そんな……嘘よ……!? アタシの両親は死んだって……そう教えられて……!?」
「確かにスタアラ魔法聖堂にはそー伝えてたみたいだな~。バクトは万一自らの医療技術で娘のお前に被害が及ぶことがないよう、赤ん坊だったお前をスタアラ魔法聖堂に『両親が死んだ子だ』と、メモだけ残して置いてったからな~。女房を治した後に、何なり言って引き取るつもりだったんだろーが、結局そーはできずに現在に至る……ってことだ~」
激しく動揺するミリアにフロストが補足を加える。
先程の映像が全てバクトを嫌うフロストの嘘だという可能性もあるが、嘘にしては筋が通りすぎている。
それに……"フロスト自身もおかしい"。
「フロスト。お前は昔、"バクトと仲が悪い"わけじゃなかったんだな?」
「いや~、仲は昔から悪かったぜ~。顔を合わせばしょっちゅー『肉と魚のどっちが旨いか?』とか『コーヒーに入れる砂糖はどれぐらいが適量か?』とかでよく言い争ってたしよ~」
喧嘩の理由のレベルが低すぎないか?
だがどうにも、フロストとバクトの仲がより険悪になった原因の一つに、"バクトが変わってしまった日"が関わっている気はするな――
「お前が今みたいにどこかネジの外れた人間になったのもバクトが原因か?」
「だーから違うって言ってるだろーが。だが……俺もあいつの在り方にイライラしてたってーのは事実だ。正直に全部話せばいいものを、あのアホ公爵は『今更言えるか』だのなんだの言って、ぜーんぜん話したがらねーし――」
「それについてはお前が言えた義理でもないだろ?」
「……ゼロラ~。てめーは逐一人の発言に首突っ込んできやがるな~。クカカカ……つくづく面白い奴だ~」
フロストは以前のようにまた俺のことを『面白い奴』だと言って、これ以上言及されるのをごまかしながら拒んできた。
こいつにもマカロンとラルフルの件で隠していることがある。
バクトの態度にイラついていながら俺とミリアの前に出てきたのも、"丁度ラルフルがいなかった"からだろう。
バクトもフロストも、どうにも不器用な男だ。
「とーにーかーくーだ~。俺に言えることはここまでだぜ~。後のことはアホバクトを問い詰めるなり何なりして、勝手にやることだな~。クーカカカ~!」
言いたいことを言い終えたフロストは、俺達の元から去っていった。
「ね、ねえ……ゼロラさん……。あの人がさっき言ってたことって……本当だと思う……?」
「おそらくだがな……。ミリア。お前自身に思い当たる節はないか?」
俺の問いかけに、ミリアは頭を抱えながらも答え始める。
「た、確かにバクト公爵はアタシのことを『貴様』呼ばわりしてない……。"円卓会議"で王宮から脱出する時も、あの人はレイキースの放った光の刃から私を引き寄せて守ってくれた……! そ、それに――脱出の時もアタシの身を優先してて――でも、ア、アタシがラルフルを一人で助けに行くって言って――すごく渋られたけど――けど、最終的にシシバをアタシにつけてくれて……!!」
ミリアは呼吸を乱しながらも、自らのバクトに対する態度について思い当たることを話してくれた。
「そ、それに――ゼロラさんを一緒に治療する時――あ、あの人は――アタシのことを認めながら――アタシに合わせて、一緒に治療を……!」
そうか。俺が助かったのはバクトとミリア、双方の力があったからだったな……。
ミリアと共に俺を治療した時のバクトの心情は複雑だったろうな。
自らが捨てた娘に、自らの正体を明かさず、それでも娘の成長を傍で見ながら――
「……ミリア。お前はこの話を聞いた今、どうする?」
「……バクト公爵と話をする。あの人が本当にアタシの父なのか……確かめたい!!」
「確かめて……どうしたい?」
「……分からない。ただ、アタシはあの人に恨みなんてない……。捨てられたことなんてどうでもいい! 捨てられたとも思ってない! とにかく……真実が知りたい……!」
ミリアは泣きながらも必死に自らの願いを吐露する。
――バクトの抱えてきた思いを無碍にするようなことになるが、このままミリアとバクトの関係が続くのも良いとは思えない。
フロストもそれを狙って俺達にこのことを教えたのだろう。
二人のためにも……俺が動くとするか。
「ミリア。お前はここで待っててくれ。お前が直接バクトに会いに行くと、体よく逃げられちまうだろう。バクトには俺が確認してくる。ラルフルもこっちに戻るように言っておくから、少し待っててくれ」
「わ、分かった……。お願いです、ゼロラさん……。アタシの代わりに、本当のことを確認してきて……お願い……!」
ミリアも知ってしまった以上、このままではいられないようだ。
バクトの傍にはシシバがいるだろう。下手をすれば俺に余計なことを喋らせないためにシシバをけしかけてくるかもしれない。
だがたとえそうなったとしても、俺はバクトから本当のことを聞き出してやる……!
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