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第17章 追憶の番人『公』

第228話 絆、紡ぎし者

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「俺の能力をもう一度測るのか?」
「ああ。ボクの"心当たり"が確かなものかどうか、もう一度あの日以来の確認をとりたいんだ」

 俺が記憶を失って、魔力がゼロであることを確認し、"ゼロラ"という名前に至るために行ったリョウの鑑定能力。
 それをもう一度、俺の<灰色のオーラ>の正体を解き明かすために行うということか。

「分かった。そういうことなら俺の方からも頼む」
「あの時と同じようにしてくれたまえ。……今度は君の能力の奥底にまで入って確認する」

 最初の時は表面的にしか見てなかったってことか。
 それなのに今は俺のために奥底まで確認してくれるとは……こいつとの関係も変わったもんだ。

「ハァアア……!!」

 リョウが俺の体に触れながら強く念じ始める。
 俺に触れているリョウの手の平に魔法陣が描かれ、前回以上に入念に調べているのが分かる。

「す、すごい……。リョウさんって魔法ならなんでもできるんですね……!」
「『なんでも』じゃないよ。ボクはミリア様のような回復魔法は使えない。それでも、【七色魔力の響音】の二つ名に相応しい実力は持ってると思うけどね」

 マカロンの声にリョウは多少謙遜しながら答えるが、【七色魔力の響音】の二つ名の通り、リョウの魔法に関する知識と技量は本物だ。
 今はそのリョウの力を信じよう。

「――見える――わずかだが――ゼロラ殿の内の能力が――ほんの少し――」

 リョウは目を閉じながら必死に念じて俺の能力を読み取っている。



 暫くすると魔法陣が消え、リョウも目を開けた。

「ふむ……。まず分かったことだけど、やはりゼロラ殿の魔力はゼロのようだね」
「そ、それならやっぱりゼロラさんが出してた<灰色のオーラ>は魔法によるものではないんですか……?」
「そうだね。少なくとも<灰色のオーラ>は魔法によるものではない」

 俺の能力を鑑定してリョウが出した結論は、『<灰色のオーラ>は魔法ではない』ということだった。
 マカロンは俺に魔力が宿ったと思っていたようだが、やはり違うようだ。

「……ただ、これで合点がいったよ。ボクはマカロンが見たという<灰色のオーラ>と同じ現象を見たことがある」
「同じ現象?」

 俺が気になってリョウに問い詰めると、そのことを話してくれた。

「ボクの二人の兄。ジフ兄とシシ兄が一度本気で戦いあったことがあってね。まだシシ兄に両目があった時の話さ。ボクもその戦いを傍で見てたんだよ」

 ジフウと両目が健在のシシバの本気の戦いか。それは想像を絶するものなんだろうな。

「戦った切っ掛け自体は大したことないよ。ただお互いに『どちらの方が強いかはっきりさせよう』ってだけの話。二人とも上着を脱ぎ捨てて気合いを入れて、出せる技と力の全てを出し合って本気で戦ってた」

 どちらが上かはっきりさせるためにそこまで全力で戦うとは……あの二人らしい。

「それでね、その戦いを見てたボクは目にしたんだ。ジフ兄の体に<青色のオーラ>が纏われ、シシ兄の体に<赤色のオーラ>が纏われる姿を……!」
「そ、それって……もしかしてゼロラさんの<灰色のオーラ>と同じ……?」

 マカロンと同じことを俺も思った。

「最終的にあの戦いはシシ兄が勝ったけど、お互いの実力は拮抗してた。それはそれは凄まじい戦いだった。魔力を使った技も使っていたけど、二人のオーラ自体は魔法の類ではなかった。そしてここから考えられるのはボクの仮説――」

 リョウは兄二人の戦いの様子を思い出しながら、俺も出していた<灰色のオーラ>について一つの仮説を打ち立てた。

「ジフ兄、シシ兄。そしてゼロラ殿が発したというそれぞれの色のオーラ――それは"人間が本来持つ心技体の力"が、"魔法という神秘的な力"に追いついたものなんじゃないか……ってね」

 人間の持つ力が……魔法に追いついた……?

「魔力や魔法というものは、本来人が生きていくためには必要のないものだ。神が人に与えたギフト――神秘の力が魔力や魔法だと言われている。だけど人が本来持っていて、古来より生きていくために必要な力は別に存在する。心も、技も、体も……。それらは全て人を人たらしめる最も根源的な力だと言ってもいい」
「それはつまり……"人の力が神の領域に達した"ということか?」
「そう言って差し支えないかな。そしてゼロラ殿達が発したオーラは"互いに心技体が拮抗した者同士がぶつかり合うことで初めて発せられる"と思うんだよ。だから今、ゼロラ殿は意図的に<灰色のオーラ>を発することができない。兄さん達がオーラを発したのも、お互いが全力でぶつかり合ったからだろうね。最初に<灰色のオーラ>を発することができたのは、『変な奴』ってのが関わったことによる偶発的なものだろう」

 リョウが自ら打ち立てた仮説について解説してくれた。
 その話が本当ならば、今後俺が精神的にも肉体的にも同レベルの相手と戦うことになった時、<灰色のオーラ>は再度自然と発現するのだろう。

「でも、リョウさん。そのオーラが体に纏われると、実際にどんな効果があるんですか?」
「効果自体は単純な能力強化だろうね。ジフ兄とシシ兄がオーラを纏いながら戦っていた時も、発せられる力は普段以上だった。傍で見ていたボクも思わず腰が抜けちゃたよ」

 話を聞いていたマカロンも気になったことを口にし始めた。
 それにしてもどこまで本気でやりあってんだ、あの兄弟は……。

「でも、ゼロラさんが<灰色のオーラ>を出した時は、"相手もゼロラさんと同レベルで同じようにオーラを出せる"ってことですよね? それだと戦いが激化するだけで、ゼロラさんが有利にならないってことじゃ……?」
「そうだね。だからこれらのオーラについては"能力強化"というよりは"一つの指標"という見方をした方がいい。相手と自分の力量を測るのには役立つだろう」

 <灰色のオーラ>で俺が有利にならないということを聞いて、マカロンは悲しそうにしている。
 こいつも随分俺のことを心配してくれるようになったもんだ……。嬉しい話だ。

「<灰色のオーラ>についてのボクの考察は以上かな」
「ありがとな、リョウ。少しは俺もモヤモヤしたものがスッキリしたぜ」
「そう言っていただけて光栄だね。……だけど、話はまだ終わらないんだ」

 礼を言う俺に、リョウは話をさらに続けた。

「今回ボクはゼロラ殿の能力を奥底まで確認した。そして……一つ分かったことがある。君は記憶を失ってからこれまでの間、多くの人間と出会い、その人々を繋いできた。そんな君の人間性を表した"称号"をボクの鑑定能力で見つけることができたよ。それは――」

 リョウは少し緊張しながらも、俺の目をしっかり見ながら、自らが鑑定した称号の名称を述べてくれた。



「――【絆、紡ぎし者】。それが今のゼロラ殿に付けられた称号だね」
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