上 下
218 / 476
第16章 自分はあの日から変わりました

第218話 奪われた魔力の真実

しおりを挟む
 レイキース達が街道近くの洞窟に住む魔物を倒す話をした翌日。
 一行は件の洞窟へと向かった。

「む? すまない。どうやら邪魔者が入ったようだ。近くに魔物がいる」

 レイキースが洞窟とは別の方向を見て、他の三人に話す。
 その言葉を聞いてラルフルは身構える。

 小柄な体格には少し大きめのウィッチハットとローブを身に着け、持っている杖に力を込める。
 周囲の草陰を見ると、僅かに揺れてこちらを狙っているのが分かる。

「自分も戦います!」
「いや。ラルフル達は先に洞窟に向かっていてくれ。幸い、僕一人でも相手できそうだ」

 レイキースは一人だけ残り、他の三人に先へ進むことを提案する。
 心配するラルフルだったが、リフィーとバルカウスにも諭され、先に洞窟へと向かうことにした。





「……予定通り先に行ったか」

 ラルフル達三人の姿が見えなくなったのを確認したレイキースは草陰の中を確認する。
 そこにあったのは風を発生させる魔石。草陰を揺らしていた正体はこれだったのだ。
 レイキースはその魔石を回収する。

「後はこれを身に着けて、先回りするか」

 レイキースはあらかじめ用意しておいた擬態系の魔法効果を持つ漆黒のローブに袖を通すと、転送魔法を使って洞窟へと先回りするのであった。





「こ、これが街道を危険にさらしている魔物ですか。強そうですね……!」
「そうですわね。油断はできませんわ」
「…………」

 ラルフル、リフィー、バルカウスの三人は、目的の洞窟で人型のモンスターと対峙していた。
 漆黒のローブを身に纏い、顔も分からず、声も出さずに剣を持ったその魔物。
 だがリフィーとバルカウスにはその正体が分かっていた。

 目の前にいるのが、勇者レイキースであることを――

「!? き、来ます!」

 正体を隠したレイキースは、一目散にラルフルへと襲い掛かった。
 ラルフルは自らに防御魔法をかけながら、得意の炎魔法で迎撃する。
 決してラルフルが弱いわけではなかったが、実力の差は歴然であった。

 ラルフルが相手しているのは――あの勇者レイキースなのだから。

「――あ、あぐぅ!?」

 レイキースが放った剣閃がラルフルに直撃した。ラルフルの実力をもってしても防ぎきれないその威力。
 その一閃で、ラルフルは気を失ってしまった。

「……ここまでは予定通りだな」

 ラルフルの意識がないのを確認したレイキースは漆黒のローブを脱ぎ捨てて、リフィーとバルカウスと共にラルフルへと近づく。

「そうですわね。それでは、<転魔の術>の準備に入りますわ」

 リフィーはそう言って両手を掲げ、二つの魔法陣を地面に描き出す。
 一つは倒れたラルフルの下に。もう一つはバルカウスの足元に。

「……本当にやるのだな?」
「ここまで来て怖気づいたなんて言わせないぞ。最早僕達は一蓮托生。やるしかない」

 いまだに迷うバルカウスをレイキースが諭す。
 バルカウスもここまで来てしまった以上、後戻りはできない。
 これから行う残酷な行為。それをせめて目にしまいと、目を瞑ってその時を待つ。

「……<転魔の術>……発動!」

 リフィーが<転魔の術>を発動し、ラルフルの魔力をバルカウスへと移し始める。

「――ッ!? うぁ……うああああ!!??」

 意識のないラルフルだったが、自分の身に起こっている異常な事態から無意識に悲鳴が上がる。
 その悲鳴はバルカウスの耳にも入ってくる。
 体に流れ込んでくるラルフルの魔力と耳を覆いたくなる悲鳴。
 バルカウスはただひたすらにそれらに耐えるしかなかった。

 しばらくして、ラルフルとバルカウスの双方に仕掛けられた魔法陣は消えてなくなった。

「<転魔の術>が完了したわ。これでラルフルが持っていた魔力は全てバルカウスに移されたわ。魔力を失った魔法使いとなったラルフルは、最早抜け殻も同然ですわ」

 いまだにぐったりと倒れたままのラルフルを見ながらリフィーが言う。



 とうとうやってしまった……。そうバルカウスは思った。
 抗える状況ではなかったとはいえ、一人の少年のこれまでの努力を奪い去ってしまった。

 そんな自責の念がバルカウスを圧し潰す。
 その現実はバルカウスの身に新たに宿った、"本来ラルフルのものであった魔力"がより明白なものとなって心を絞めつけていた。
 小さな体からは想像もできな程に蓄えられていたラルフルの魔力。
 その全てが今、バルカウスのものとなった。

「さて、後はラルフルを王宮に送って――」
「ならばその役目は拙者に任せていただきたい」

 気絶したままのラルフルを抱えてバルカウスはラルフルを王宮に送る役目を引き受けた。
 自らの腕の中で眠る少年の体は、いつもより軽く感じた。

「それならば後はバルカウスに任せよう。ラルフルの目が覚めたら予定通り、『黒衣の魔物に魔力を全て奪われた』と説明しておくんだ」
「……分かっている」

 レイキースの同意も得て、バルカウスはラルフルを抱えたまま洞窟を後にした。

 その後、バルカウスは目が覚めたラルフルにレイキースが言われた通りに説明をした。

 その時の絶望に打ちひしがれたラルフルの顔を、バルカウスはいまだに忘れることができなかった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...