上 下
217 / 476
第16章 自分はあの日から変わりました

第217話 失った魔力の真相

しおりを挟む
 時は遡り、当代勇者レイキースが【伝説の魔王】討伐の前準備としてルクガイア王国内の不安因子を排除する旅をしていた時の話である。

「三人とも、僕から話がある。この街道の近くにある洞窟に強大な魔物が住み着いているそうだ」

 勇者・レイキース。
 後に【伝説の魔王】を倒し【栄光の勇者】と呼ばれる、神聖国からやって来た選ばれし者である。

「見過ごせませんわね……。明日はその魔物を倒しに行くわけですわね?」

 賢者・リフィー。
 高家の出身で、稀代の才覚を持つ女賢者である。

「拙者もリフィーと同意見だ。討伐は早い方がいい」

 戦士・バルカウス。
 先代勇者パーティーの一員でもあり、王国騎士団の団長でもある剣豪だ。

「リフィーもバルカウスも僕と同じ意見だな。お前はどうだ? ラルフル?」

 レイキースは自信の前にいる三人の最後の一人に声をかけた。

「はい! 自分も賛成です! 絶対に皆様のお役に立って見せます!」

 ――魔法使い・ラルフル。
 元々は辺境の領主の息子であったが、その身分は他の三人と比べるとはるかに低い。
 それでもスタアラ魔法聖堂で勤勉と努力を重ねた結果、その魔法使いとしての腕前は頭一つ抜けていた。

 小さな体からは想像もできないほど膨大な魔力。それを完全にコントロールできる技量。
 決して才能だけではたどり着けない領域へと至った、"努力の天才"。
 それがラルフルだった。

「心強いな。ラルフルがいてくれれば、【伝説の魔王】討伐も現実のものとなるだろう」
「レイキース様にそう言っていただけるなんて……! 自分、感激です!」

 当時のラルフルは自らが勇者パーティーの一員になれたことを誇りに思っていた。
 【伝説の魔王】が自分達家族の前に現れ、その生活を奪って行った真相を知ること。
 それが加入の最大の理由ではあったが、自らの力が認められたことも素直に嬉しかった。

「わたくしも頼りにしてるわ、ラルフル」
「拙者達と共にまずは明日、その魔物を討伐しようぞ」
「はい!」

 リフィーとバルカウスにも認められ、ラルフルは意気揚々としていた。





 その日の夜。ラルフルが一人先に眠りについたのを確認したレイキース達は、三人で話し合いを始めた。

「レイキース様。街道近くの洞窟に魔物が出たなんて嘘なのでしょう?」
「ああ、そうだ。このことはラルフルには喋るな」

 レイキースはリフィーの問いかけに答えながら、注意を促す。

「しかしレイキース殿……。一体何を考えておられる?」

 バルカウスはレイキースの企みが何かを尋ねた。

「僕達が【伝説の魔王】を戦うことになった時、その戦いは熾烈を極めるだろう。ラルフルはまだ幼い。そんな戦いについて行けるかどうか……」
「それも考え抜いた上で拙者達はこのパーティーに選ばれたのだ。ラルフルも十分に覚悟をしている。その点で問題はないだろう」

 ラルフルの幼さを気にしているレイキース。
 バルカウスは問題ないとしているが――

「レイキース様。正直に申された方がよろしいかと」

 ――リフィーはレイキースの話に割り込み、その思惑を話すように促す。

「……いいだろう。僕達が【伝説の魔王】を討伐した後、僕達はルクガイア王国――いや、世界にとって最も重大な存在となるだろう。僕達は大きな権力の渦の中に入ることになる。そして――その権力を僕達が利用できるようになる機会もやって来る」

 そう語るレイキースの目はどこか怪しげな光を宿している。

「僕もリフィーもバルカウスも、元々の身分の生まれから権力の扱い方はよく分かっている。だが、ラルフルはどうだ? 領主の息子ではあったようだが、はるか昔に孤児になった。そんなラルフルに膨大な権力の中に巻き込んで無事だと思うか?」
「……ラルフルは心も強い。決して道を違えるような人間ではない」

 レイキースはラルフルが権力を手にした時のことを危惧しているが、バルカウスは悩みながらもその可能性を否定する。



「……ならばもっと率直に言おうか? 僕はラルフルのような卑しい身分の存在が、権力を手にすることが気に入らない。そのためにも、ラルフルにはこの機会に【伝説の魔王】との戦いの舞台から降りてもらう」
「なっ……!? レイキース殿! あなたは何を考えて――」

 レイキースの発言に驚愕するバルカウス。

『ラルフルを舞台から降ろす』。

 頼れる仲間同士だと思っていたラルフルに何をするつもりかと問いたかったバルカウスだったが、その問いを無視するかのようにレイキースは話を続ける。

「リフィー。<転魔の術>は使えるな?」
「はい。"他者から他者へ魔力を全て移す"術。わたくしにも使えますわ」

 リフィーに確認をとったレイキースの顔がにやけた。

「バルカウス。<転魔の術>を使ってラルフルの魔力を全てお前に移す。魔力を失ってしまえば、ラルフルが【伝説の魔王】討伐に参加することはできなくなる。それであいつにはこの戦いの舞台から降りてもらう」
「レイキース殿! あなたは自らが何を言っているのか分かっているのか!?」

 レイキースの提案に激昂するバルカウス。
 ラルフルがこれまで長年培ってきた努力の結晶とも言える魔力を奪う。
 そのことがどれほど残酷な行為であるかをバルカウスは必死に訴える。

 だが、レイキースはそんなことなど意にも返さない。

「魔力にしても、権力にしても、その身に不相応な力は持つものじゃない。あんな脆弱な少年が持つよりも、王国騎士団団長のバルカウスのような人間が持っていてこそ相応しいというものだ」
「わたくしとレイキース様ではラルフルの魔力を引き継いでも、容量を超えてしまいますわ。だからバルカウス、あなたがラルフルの魔力を引き継ぐのが一番相応しいですわ」

 レイキースに同調してリフィーもバルカウスにラルフルの魔力を移すように促す。
 バルカウスにしてみれば、この二人の存在がひどく邪悪に見えた。
 先代勇者、【慈愛の勇者】ユメとの旅に同伴し、その人柄を知っているバルカウスだからこそ、当代勇者レイキースからの提案には納得できなかった。

「……僕の提案が飲めないのなら、お前もラルフルもこの場で死ぬことになるが?」

 提案を拒絶し続けるバルカウスに、レイキースは脅しをかけてきた。
 すでにバルカウスの身はリフィーの魔法による氷の刃がいくつも向けられている。
 今ここでこの二人と戦っても、バルカウスに勝算はなかった。
 それどころかこのまま自らが倒されれば、ラルフルがそのまま殺されてしまうことは明白だった。

「ラルフルには魔力を失った後でも王宮で働けるよう、国王陛下には進言する。その後の生活の保障はしよう」
「……分かった。拙者も二人の提案に従おう……」

 バルカウスに拒絶する道は残されていなかった――
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助
ファンタジー
下級悪魔と見習い天使のコンビ再び! 天国の丘と地獄の谷という2つの国で構成されたゲーム世界『アメイジア』。 手の届かぬ強さの極みを欲する下級悪魔バレットと、天使長イザベラの正当後継者として不正プログラム撲滅の使命に邁進する見習い天使ティナ。 互いに相容れない存在であるはずのNPCである悪魔と天使が手を組み、遥かな頂を目指す物語。 堕天使グリフィンが巻き起こした地獄の谷における不正プラグラムの騒動を乗り切った2人は、新たな道を求めて天国の丘へと向かった。 天使たちの国であるその場所で2人を待ち受けているものは……? 敵対する異種族バディが繰り広げる二度目のNPC冒険活劇。 再び開幕! *イラストACより作者「Kamesan」のイラストを使わせていただいております。

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

学年一の不良が図書館で勉強してた。

山法師
恋愛
 春休み。4月になったら高校2年になる成川光海(なりかわみつみ)は、2年の予習をしようと、図書館に来た。そしてそこで、あり得ないものを見る。  同じクラスの不良、橋本涼(はしもとりょう)が、その図書館で、その学習席で、勉強をしていたのだ。 「勉強、教えてくんねぇ?」  橋本に頼まれ、光海は渋々、橋本の勉強を見ることに。  何が、なんで、どうしてこうなった。  光海がそう思う、この出会いが。入学して、1年経っての初の関わりが。  光海の人生に多大な影響を及ぼすとは、当の本人も、橋本も、まだ知らない。    ◇◇◇◇◇◇◇◇  なるべく調べて書いていますが、設定に緩い部分が少なからずあります。ご承知の上、温かい目でお読みくださると、有り難いです。    ◇◇◇◇◇◇◇◇  他サイトでも掲載しています。

現実だと思っていたら、異世界だった件

ながれ
ファンタジー
スメラギ ヤスト 17歳 ♂ はどこにでもいる普通の高校生だった。 いつものように学校に通い、学食を食べた後に居眠りしていると、 不意に全然知らない場所で目覚めることになった。 そこで知ったのは、自分が今まで生活していた現実が、 実は現実じゃなかったという新事実! しかし目覚めた現実世界では人間が今にも滅びそうな状況だった。 スキル「魔物作成」を使いこなし、宿敵クレインに立ち向かう。 細々としかし力強く生きている人々と、ちょっと変わった倫理観。 思春期の少年は戸惑いながらも成長していく。

krystallos

みけねこ
ファンタジー
共存していたはずの精霊と人間。しかし人間の身勝手な願いで精霊との繋がりが希薄になりつつある世界で出会った一人の青年の少女の物語。

父と母は転生者!そして私は悪役令嬢・・らしいです?

naturalsoft
ファンタジー
皆様初めまして。 私はミスレイン公爵家の長女、シオン・ミスレインです。兄妹に1つ上のお兄様がいます。私はごく平凡な貴族の御令嬢で、少し魔法が使える程度の者ですが、私のお父様とお母様がとても素晴らしい方で私の自慢の両親なのです。 【私の婚約破棄】などと言う状況よりも、皆様に私の敬愛する両親のお話しをしましょう!大好きなお父様、お母様の話しを聞いて下さい! そして、敬愛する両親を罵倒した愚か者の末路をお楽しみ下さいませ。フフフ・・・ 【不定期更新】です。他の小説の合間に読んで貰えると嬉しいです。 (愚者の声で作中に参加してます) 同作品 『悪役令嬢戦記!大切な人のために戦います』 と、コラボしています。同じ世界観で絡んできます。 素人の執筆で至らない所が多々あるかと思いますが生暖かい目で読んで頂けたらと思います。 5/3:HOTランキング23位ありがとうございます!

処理中です...