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第15章 メカトロニクス・ファイト

第198話 男二人が揃ってやること

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 【虎殺しの暴虎】。そして内通者。
 不安要素のある話だが、今はドクター・フロストに会うことが先決だ。

 そんなわけでロギウスが『暗い話を考えてばかりも嫌だから、酒盛りでもして気分転換しよう』と提案したので、オクバに頼んでいくらか酒を用意してもらった。
 俺達は景気よく酒を飲み始めたのだが――



「だ~からさ~! 僕だって~、オクバ殿みたいな美人のお嫁さんが~、ほしいわけなんだよね~! ヒック!」
「おい、ロギウス。お前、飲み過ぎじゃないか?」

 ロギウスが泥酔状態である。

 俺と同じペースで飲んでいたロギウスだったが、忘れていた……。
 俺、結構酒豪だった。
 そんな俺と同じペースで飲んでしまえばベロンベロンになるのも当然だ。

「そ~いえば~、ゼロラ殿が寝てる間~、マカロンだったっけ~? ラルフルのお姉さんの~? あの子って~、ゼロラ殿の恋人なわけ~? ヒック!」

 俺の肩に腕を回しながら、物凄くめんどくさい絡み方をしてくる。
 顔が完全にへべれけだ。一国の王子なんだぜ……これで。

「マカロンとは……まだそういう関係じゃない」
「『まだ』~? 『まだ』ってどういうことさ~? ゼロラ殿ってもしかして~、ものすご~く奥手なの~? ヒック!」

 ウザい。物凄くウザい。
 いつだったか、ジフウがバルカウスにやってたのと同じぐらいウザい。

「奥手なのは認める。だがまだ答えを出せてないのは、他の女からも告白されたからだ」
「え~!? ゼロラ殿ってもしかしてタラシなの~!? もういい歳した中年なのにさ~!? 誰に告白されたんだよ~!? ヒック!」

 一国の王子様にここまで絡まれるガラの悪い中年なんて、世界中どこを探しても俺ぐらいだろう。

「リョウ……。今日の朝、魔幻塔から連れ出したリョウ大神官だ」
「リョウ大神官~!? それじゃあゼロラ殿は~、塔に囚われたお姫様を助け出した~、王子様だね~。 ヒック!」

 本物の王子様はお前だけどな。……こんな王子様は嫌だけど。

「でもリョウ大神官ってさ~、王宮から脱出する時に会って~、僕は顔を見てないけどさ~、胸ぺったんこだよね~。ヒック!」

 お前はリョウに殺されたいのか?

「女性なのに~、自分のことを『ボク』って言ったり~、変な仮面付けてたり~、おかしな人に好かれたもんだよね~、ゼロラ殿は~。ヒック!」

 やはりこいつはリョウに殺されたいらしい。帰ったらリョウに告げ口してやろうか?

 ……いや、俺が原因で一国の王子様を死なせるわけにはいかないか。
 リョウが『おかしな人』なのも事実だし。
 だがこのままリョウのことを馬鹿にされるのも癪だ。

「言っておくが、リョウの素顔はかなりの美人だからな。変人ではあるが、良い奴なのも事実だ」
「そ~なの~? それじゃ~さ~、マカロンと~、どっちが魅力的なの~? ヒック!」
「マカロンもマカロンで魅力的だ。リョウとは違った美人だし、気立てもいい」
「うらやまし~な~! ゼロラ殿は~! そ~んな美人二人に惚れられちゃってさ~! ヒック!」

 あー、ウザい!
 それにモテるモテないの話だったら、ロギウスの方がありそうなもんだが!?

「ルクガイア王国王子のお前なら、縁談なんていくらでも舞い込んでくるだろう?」
「そりゃ~あるよ~? でもさ~、どれこもれも~、政略結婚だなんだので~、嫌なんだよね~! 僕はさ~、純愛がしたいわけよ~! 純愛が~! ヒック!」

 確かに政略結婚は面倒だな。ロギウスのような王子の身分も大変だな。
 ……ただの不良中年がなんで王子の恋愛の悩みを聞いてるんだ?

「だったらお前はどういう女性が好みなんだ?」
「僕の好み~? 僕より年上の~、大人のお姉さんで~、それでもどこかあどけなさがあって~、背は僕より低くて~、自分に正直で~、他人思いで~――」

 ……現状その条件で当てはまりそうな俺の知り合い、お前が馬鹿にしてたリョウぐらいだぞ?

「そして~! おっぱいが大きい人~! ウィック!」

 ……そんなにお前はリョウに殺されたいのか?

 しかしまあ、なんだ。
 ロギウスとは成り行きで仲間になったようなものだったし、こうやってこいつの本音を一応聞けたのもなんだかんだで仲を深めるのにはよかったのかもしれない。



 ガチャ

「おろ!? ロギウス殿下が泥酔でおじゃる!?」
「追加のお酒はいらなかったど」

 そんな俺達の元にオジャル伯爵とオクバが追加の酒を持って部屋に入ってきた。
 そして俺の肩に腕を乗せながら愉快そうなロギウスを見て、二人は言った。

「……ゼロラ殿。まろとオクバ殿の出会いもこんな感じでおじゃったよ」
「ダチの出会いなんて、こんなもんだど」

 ……ああ、言ってたな、そんなこと。
 身に染みて分かったよ……。
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