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第14章 まどろむ世界のその先へ
第189話 紅の餞別
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まだ陽が昇り始める少し前。俺はすでに目が覚めていた。
マカロンは俺の部屋でまだ眠っている。
そんなマカロンを起こさないように俺はそっと宿を出た後、近くの林で一人体を動かしていた。
「フゥ……。どうやら元の感覚が戻ってきたようだな」
目覚めて二日目だが、俺の体力はレイキースにやられる前まで戻ってきたようだ。
上着を脱いで上半身を確認すると、傷跡こそ残っているが、傷口に触れても痛みはない。
我ながら大した回復力だ。
「ハッハッハッ。感服感服。卿はやはりあの程度で死ぬ男ではなかったか」
そんな俺の後ろから聞こえてきた聞き覚えのある声。
後ろを振り向くと何度か俺の前に現れた赤いローブの男の姿――
「またお前か……。会うの自体は久しぶりだな、"紅の賢者"」
「感謝感謝。小生のことを覚えていてくれたとはね」
"紅の賢者"。おそらくはこの俺の過去を知っている男。
何度か俺の前に現れては助言や助けに入ってきた謎の男。
俺はそんな男に目もくれずに鍛錬を再開した。
「ほう? ここで小生に会えたというのに、卿は何も聞いてこないのだな?」
「俺の過去のことか? 今は後回しにしてくれ」
「……ふむ。もしや卿は過去の記憶が少し蘇ったのかな?」
「記憶が戻ったわけじゃない……。ただ、俺が進む道がはっきりしただけだ」
今の俺には過去の追求など後回しでよかった。
皆が俺を"先代勇者の遺志を継ぐ者"と言ったように、今は未来のことを考えて進むべきだ。
それに……あの夢の中の人影が言ったように、そうすることで俺自らの手で過去にたどり着ける気がしていた。
「ハッハッハッ……! 成程成程。記憶は戻っていないが、意志は戻って来たということ……か!」
"紅の賢者"はそんな俺の不愛想な対応にも怒りも呆れもせず、むしろ喜んでいた。
「結構結構。"夢"の中で見た先にある"未来"。いやはや、面白い! やはり……卿はそうなるべき男だと思っていたよ」
「相変わらず俺のことはお見通しって感じだな。だがさっきも言った通り、俺は今お前に用はない。そっちも用がないのなら、さっさと立ち去ってくれると有難いんだが?」
俺は"紅の賢者"に立ち去るよう促すが――
「残念ながら、小生には用があるのだよ……!」
――"紅の賢者"は左手に黒い靄を纏わせ始めた。
「卿に少しばかり小生の力をお見せしよう。もっとも、小生の目的は卿の"力"を呼び覚ますことにあるのだがね」
「俺の"力"を……呼び覚ますだと?」
俺の疑問を他所に、"紅の賢者"は左手を薙ぎ払い、纏われていた黒い靄を辺りにまき散らした。
「見たまえ! <詠唱の黒霧>を! そしてその身に刻みたまえ! 小生の焔を!!」
そう言って"紅の賢者"は左手で指を鳴らした。
パチン―― ボォオオ!
「くっ!? 爆発魔法か!?」
その瞬間、俺の体が爆発と共に赤い炎で覆われる。
――だが不思議なことに、その炎はまるで熱くなかった。
それに俺はこの技を頭のどこかで"覚えていた"。
「安心したまえ。その炎は卿に害をなさないものだ。それよりも……卿の色は"灰色"……か!」
「灰色?」
"紅の賢者"にそう言われて、俺は自分の体を見てみた。
「こ……これは……!?」
俺の体から湧き上がり、体に纏われる<灰色のオーラ>。
俺に魔力はないはずなのに、湧き上がる<灰色のオーラ>からはそれに近い力を感じることができる。
「お前……俺に何をした……?」
「呼ぶ覚ましたのだよ、卿の奥底に眠っていた"力"を。魔力ではない、もっと人の根源的な力を……ね!」
"紅の賢者"が言う"力"の意味は分からなかったが、なぜ俺にこんな"力"が呼び起こされたのかはなんとなく理解できた。
"紅の賢者"の技は記憶を失う前の俺が知っていた技だ。その技をこの俺に使うことで、かつての俺が持っていた"能力という記憶"の一部を呼び起こしたのだろう。
「その<灰色のオーラ>は今は小生の力で一時的に呼び起こしたものだ。本来は自らの意思で安易に発動できるものではない」
「……なんで俺にこんな真似をした?」
俺の問いに、"紅の賢者"は笑いながら答えた。
「この先、卿にはより多くの困難が待ち受けているだろう。おそらく、これまで以上の強敵も現れる。その時……よりその戦いを"面白くするため"の小生からの餞別……だ!」
ボゥン!
それだけ言い残して、"紅の賢者"はいつものように煙と共に姿を消してしまった。
「『戦いを面白くするため』……だと?」
"紅の賢者"は俺の過去を知っている。そして、"俺がどのように動くのかを見て楽しんでいる"。
最初に会った時からそうだが、"紅の賢者"は"俺を導く"というよりは、"俺を弄んでいる"ようだ。
その行動はおおよそ人間とは思えないものに見える。
「ゼ、ゼロラ……ひゃん……!?」
俺が"紅の賢者"について考えていると、近くからマカロンの声が聞こえてきた。
マカロンの方に気をとられていると、俺の体から湧き上がっていた<灰色のオーラ>は消えてしまった。
結局これはなんだったのだろうか……?
「こ、こんなところで何をしてるんですか……!?」
「あ、ああ。ちょっと体を動かして具合を確かめてたんだ……」
マカロンは"紅の賢者"の姿を見ていなかったようだ。
驚いているような声をしているが、おそらく<灰色のオーラ>を見たからだろう。
どう説明したものか――
「えーっと……。さっきのオーラはだな……」
「そ、そんなことより、う、上着を……!」
マカロンは手で顔を隠しながら俺に言ってきた。
その言葉で俺は我に返る。
俺……上半身裸のままだった……。
マカロンは俺の部屋でまだ眠っている。
そんなマカロンを起こさないように俺はそっと宿を出た後、近くの林で一人体を動かしていた。
「フゥ……。どうやら元の感覚が戻ってきたようだな」
目覚めて二日目だが、俺の体力はレイキースにやられる前まで戻ってきたようだ。
上着を脱いで上半身を確認すると、傷跡こそ残っているが、傷口に触れても痛みはない。
我ながら大した回復力だ。
「ハッハッハッ。感服感服。卿はやはりあの程度で死ぬ男ではなかったか」
そんな俺の後ろから聞こえてきた聞き覚えのある声。
後ろを振り向くと何度か俺の前に現れた赤いローブの男の姿――
「またお前か……。会うの自体は久しぶりだな、"紅の賢者"」
「感謝感謝。小生のことを覚えていてくれたとはね」
"紅の賢者"。おそらくはこの俺の過去を知っている男。
何度か俺の前に現れては助言や助けに入ってきた謎の男。
俺はそんな男に目もくれずに鍛錬を再開した。
「ほう? ここで小生に会えたというのに、卿は何も聞いてこないのだな?」
「俺の過去のことか? 今は後回しにしてくれ」
「……ふむ。もしや卿は過去の記憶が少し蘇ったのかな?」
「記憶が戻ったわけじゃない……。ただ、俺が進む道がはっきりしただけだ」
今の俺には過去の追求など後回しでよかった。
皆が俺を"先代勇者の遺志を継ぐ者"と言ったように、今は未来のことを考えて進むべきだ。
それに……あの夢の中の人影が言ったように、そうすることで俺自らの手で過去にたどり着ける気がしていた。
「ハッハッハッ……! 成程成程。記憶は戻っていないが、意志は戻って来たということ……か!」
"紅の賢者"はそんな俺の不愛想な対応にも怒りも呆れもせず、むしろ喜んでいた。
「結構結構。"夢"の中で見た先にある"未来"。いやはや、面白い! やはり……卿はそうなるべき男だと思っていたよ」
「相変わらず俺のことはお見通しって感じだな。だがさっきも言った通り、俺は今お前に用はない。そっちも用がないのなら、さっさと立ち去ってくれると有難いんだが?」
俺は"紅の賢者"に立ち去るよう促すが――
「残念ながら、小生には用があるのだよ……!」
――"紅の賢者"は左手に黒い靄を纏わせ始めた。
「卿に少しばかり小生の力をお見せしよう。もっとも、小生の目的は卿の"力"を呼び覚ますことにあるのだがね」
「俺の"力"を……呼び覚ますだと?」
俺の疑問を他所に、"紅の賢者"は左手を薙ぎ払い、纏われていた黒い靄を辺りにまき散らした。
「見たまえ! <詠唱の黒霧>を! そしてその身に刻みたまえ! 小生の焔を!!」
そう言って"紅の賢者"は左手で指を鳴らした。
パチン―― ボォオオ!
「くっ!? 爆発魔法か!?」
その瞬間、俺の体が爆発と共に赤い炎で覆われる。
――だが不思議なことに、その炎はまるで熱くなかった。
それに俺はこの技を頭のどこかで"覚えていた"。
「安心したまえ。その炎は卿に害をなさないものだ。それよりも……卿の色は"灰色"……か!」
「灰色?」
"紅の賢者"にそう言われて、俺は自分の体を見てみた。
「こ……これは……!?」
俺の体から湧き上がり、体に纏われる<灰色のオーラ>。
俺に魔力はないはずなのに、湧き上がる<灰色のオーラ>からはそれに近い力を感じることができる。
「お前……俺に何をした……?」
「呼ぶ覚ましたのだよ、卿の奥底に眠っていた"力"を。魔力ではない、もっと人の根源的な力を……ね!」
"紅の賢者"が言う"力"の意味は分からなかったが、なぜ俺にこんな"力"が呼び起こされたのかはなんとなく理解できた。
"紅の賢者"の技は記憶を失う前の俺が知っていた技だ。その技をこの俺に使うことで、かつての俺が持っていた"能力という記憶"の一部を呼び起こしたのだろう。
「その<灰色のオーラ>は今は小生の力で一時的に呼び起こしたものだ。本来は自らの意思で安易に発動できるものではない」
「……なんで俺にこんな真似をした?」
俺の問いに、"紅の賢者"は笑いながら答えた。
「この先、卿にはより多くの困難が待ち受けているだろう。おそらく、これまで以上の強敵も現れる。その時……よりその戦いを"面白くするため"の小生からの餞別……だ!」
ボゥン!
それだけ言い残して、"紅の賢者"はいつものように煙と共に姿を消してしまった。
「『戦いを面白くするため』……だと?」
"紅の賢者"は俺の過去を知っている。そして、"俺がどのように動くのかを見て楽しんでいる"。
最初に会った時からそうだが、"紅の賢者"は"俺を導く"というよりは、"俺を弄んでいる"ようだ。
その行動はおおよそ人間とは思えないものに見える。
「ゼ、ゼロラ……ひゃん……!?」
俺が"紅の賢者"について考えていると、近くからマカロンの声が聞こえてきた。
マカロンの方に気をとられていると、俺の体から湧き上がっていた<灰色のオーラ>は消えてしまった。
結局これはなんだったのだろうか……?
「こ、こんなところで何をしてるんですか……!?」
「あ、ああ。ちょっと体を動かして具合を確かめてたんだ……」
マカロンは"紅の賢者"の姿を見ていなかったようだ。
驚いているような声をしているが、おそらく<灰色のオーラ>を見たからだろう。
どう説明したものか――
「えーっと……。さっきのオーラはだな……」
「そ、そんなことより、う、上着を……!」
マカロンは手で顔を隠しながら俺に言ってきた。
その言葉で俺は我に返る。
俺……上半身裸のままだった……。
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