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第14章 まどろむ世界のその先へ

第184話 共通の目的

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「"共通の目的"……? それは何なんだ?」

 ロギウス、バクト、そしてイトーさんまでもを結ぶこの三人の"共通の目的"。
 俺はそれが何なのかを三人に尋ねた。

「すまねえな、ゼロラ。お前さんであっても詳細までは説明できねえ」
「だが、"誰の意志"によって"共通の目的"を持っているかぐらいは、貴様に教えてもいいだろう」

 イトーさんもバクトも目的の詳細までは話してくれないようだが、その目的に関わっている人物についてロギウスが話し始めてくれた。

「僕達は先代勇者である【慈愛の勇者】ユメ様の意志の元で動いている」
「先代勇者の……!?」

 当代勇者、【栄光の勇者】レイキースの先代、【慈愛の勇者】ユメ。
 この三人は一体何故、先代勇者の意志の元に……?

「ユメ様って……確か【伝説の魔王】に無理矢理結婚させられて、人知れず亡くなったんですよね……?」

 ラルフルも先代勇者とこの三人の関係が気になって尋ねる。

 だが、その言葉を聞いた時、三人の目はどこか怒りが籠ったものへと豹変した。
 あまりの変化に怯えるラルフルだったが、三人とも冷静さを取り戻すように気持ちを整えなおした。

「すまねえな、ラルフル。実は……その話は"真っ赤な誤解"なんだよ」

 誤解? イトーさんはそう言うが、それは伝承に間違いがあるということか?

「【慈愛の勇者】ユメ……。あいつは、"無理矢理結婚した"のではない。【伝説の魔王】に"自ら進んで求婚を申し出た"のだ」
「そ、そんな……!? でもそれじゃあ、ユメ様は人類を敵に回したということに……!?」

 バクトが続けた説明に、ラルフルが困惑する。俺だって同じ気持ちだ。

「ユメ様は人類を敵に回したのではない。今となっては僕達にもはっきりと詳細を知ることはできないが……彼女は、【伝説の魔王】に本気で惚れて 、その中で"人と魔の共存"という道を見出そうとしたのではないかと思っている。彼女はそもそも……勇者としてはあまりにも……"誰に対しても"優しすぎる人だった」
「"人と魔の共存"だと……?」

 この三人は先代勇者について、これまでの伝承をひっくり返すような話を続けている。
 それも嘘を言っているようには見えない。

「教えてくれ……。あんたら三人と先代勇者。その関係を……」

 俺は真剣に三人の方を見て訴えかけた。何としても知りたいという必死の願いを込めて――

「……いいだろう。一番重大な部分は伏せるけど、そこまで真剣な目をされたら僕達もある程度は話さないわけにはいくまい」



 俺の願いを感じ取ったロギウスは事情を説明してくれた。

「そもそも僕はユメ様の死に際に立ち会ってたんだ」
「それじゃあ……ロギウスも魔王城にいたのか?」
「いや……ユメ様の死に場所は魔王城じゃない。……このルクガイア王国の領内だ」

 先代勇者は……ルクガイア王国の領内で死んだ……?

「僕がユメ様を見つけたのは本当に偶然だった。あの時の彼女は全身傷だらけで満身創痍……。自らの死期を悟られていた」
「それは……魔物にやられたのか……?」
「いや……。手を下したのは当時のルクガイア王国の貴族――その手中にある者だ。ユメ様が抱いていた"人と魔の共存"という理想を知って、妬んだ人間だったんだろうね……!」

 ロギウスは重く、苦しく、怒りを込めた声で説明した。
 その話が本当ならば、先代勇者は人類の手によって――"貴族の傲慢"によって殺されたのか……?

「ユメ様の体はすでに限界だった。僕に使える回復魔法でも、持っていた回復薬でも、彼女を助けることはできなかった……。そこで僕はルクガイア王国において唯一ともいえる高度な医療技術を持つ、バクト公爵に助けを求めた」

 そう言ってロギウスはバクトに話を振るように目線を向けた。

「俺はロギウスに頼まれてユメの治療に当たった。……だが、この俺の力をもってしても、すでに手遅れだった……」

 バクトから溢れる後悔の念が混じった説明。己の非力さをバクトが語る姿は普段からは想像できなかった。

「そしてユメ様はまだ意識が残っている間に、僕とバクト公爵にこう言った――」


『私は……一度に大勢の命を……守ろうとし過ぎたのかな……?』


「――そう言ってユメ様は息を引き取った」

 ロギウスの口から語られる。先代勇者の死に関する真実。
 あまりに伝承とかけ離れた内容だったが、この三人の目が『これこそが真実である』ということを強く物語っていた。

「そ……そんなことって……。じゃ、じゃあなんで、ユメ様の死は伝承のように語られてきたのですか!?」

 話の内容に俺と同じく驚愕するラルフル。その理由もロギウスは話してくれた。

「もしユメ様の死が……本当の出来事が"そのまま"語られようとした場合、ユメ様を妬んでいた貴族によってその歴史は"人類を裏切った最悪の勇者"として捻じ曲げられてしまっていただろう。手を下した当時の貴族は自分がユメ様を殺したという事実を隠し、自らを"最悪の勇者の策略から人類を救った英雄"にしようとしていたんだ」

 己の利権を守るために非道な行いを平然とやってきた当時の貴族達。吐き気さえ催す程の邪悪さだ。

「だから僕達はユメ様が悪役にならないように結託することにした。ユメ様の師匠であるイトー理刀斎にもこの国に来てもらい、事情を説明して協力を願い――さらにもう一人、"元々貴族に激しい恨みを持つ天才"の力も借りてね」
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