上 下
181 / 476
第14章 まどろむ世界のその先へ

第181話 国王の豹変

しおりを挟む
「ゼロラさん! 目が覚めてよかったのです!」

 ロギウスに案内されてまず部屋に入ってきたのはガルペラだった。
 俺の姿を見て、いつものように年相応のはしゃぎ方をする。

「心配かけてすまなかったな、ガルペラ」

 話を聞くに、ガルペラはあの後バクトとギャングレオ盗賊団に保護されて無事脱出できたようだ。
 そしてその後、ロギウスを含む自らの協力者達をまとめ上げて再度改革のための計画を練り直しているようだ。

「"円卓会議"では目標の達成こそできなかったですが、大きな成果はあったのです。ただ――」

 ガルペラはどこか曇った表情になる。

「国王陛下――ルクベール三世はあの日から大きく変わったのです。"三公爵"も今やバクトさんが抜け、ボーネス公爵やレーコ公爵の派閥も傘下の貴族達が離脱を始めて弱体化してるです。その結果、相対的に陛下の権威は復権したのです」
「それはいいことなんじゃないか? 国王は俺達の意志を知っている。それなら俺達の味方にも――」

 そう思った俺だったが、ガルペラは首を横に振る。

「陛下はボーネス公爵とレーコ公爵を始めとする貴族達をご自身の傘下に入れ始めたのです。私からすれば、手綱を握っているようにも見えるのです。ただ民の目線で見ると生活は変わらず、陛下の姿は"これまでの貴族達を力でねじ伏せて、自らが改めて権力の頂点に立つ暴君"ように見えてしまうのです。国を腐敗させる根源が貴族から陛下に代わっただけなのです」

 国王があの"円卓会議"からやる気を出したことは知っていたが、これでは何も変わらない……。

「国王は空回りしてるんじゃないか?」
「いえ……おそらくですが、陛下は"わざと暴君を演じている"のです」

 "わざと暴君を演じている"? 一体何のために……?

「陛下の目的は"自らを改革の最後の敵"にすることだと思うのです。ボーネス公爵やレーコ公爵を始めとする多くの貴族達を陛下の下にまとめ上げ、その陛下自らを倒させることで悪徳な因子を一網打尽にし、私達の改革を実現させようとしている……そう思うのです」

 自らが悪役になってまで、俺達の改革を実現させようとしているだと……!?

「ガルペラ侯爵の推測は恐らく正しい。父上は権威を取り戻しただけで暴君になるような人じゃない。父上自らがこの国の民を苦しめてきた"忌まわしき過去"になり、僕達がその過去を打ち破ることで"新しい時代"が幕を開ける。そうでなければ、父上はとっくに<絶対王権>を発動させて、この国を意のままに操る本当の暴君になっていただろう」

 これまで部屋の隅で話を聞いているだけだったロギウスが口を挟む。

 ロギウスが言う<絶対王権>。
 説明によれば、この国の民の意志を自らの意のままに操ることができる王家に伝わる洗脳術。
 ロギウスが"円卓会議"の場で見せた<絶対王権>は、ロギウスの署名した書状によって発動させたため効果は薄かったが、国王が署名した書状を元に発動すればその効果は計り知れない。

「ガルペラ。お前はこれからどうするつもりだ? 王国相手に革命戦争でも仕掛けるか?」
「革命戦争……というと大事ですが、すでにゼロラさんの様に血を流された方がいる以上、綺麗事ではもう終われないのです。……武力を持って戦う覚悟はできているのです」

 これまではあくまで話し合いでの解決を優先してきたガルペラだった。
 その改革のリーダーとも言えるガルペラが武力で戦う覚悟を決めている。
 どうやら避けては通れないようだな……。

「そしてガルペラ侯爵はこのルクガイア王国の新たな国王――女王にでもなられるおつもりかな?」

 そんなガルペラに対して、ロギウスが茶々を入れるように問いかける。

「いえ、私は王座には興味ないのです。私にできるのは経済的な発展だけなのです。国のトップに立てる器ではないのです。陛下には引き続き王座についていてほしいのですが、無理ならロギウス殿下にお願いするのです」
「いやはや……意地悪な質問をしてしまったかな? 僕に王位はまだ早いよ」

 ガルペラの願いはあくまで国の発展、民の生活の向上だ。ロギウスもそれを分かった上で茶々を入れたらしい。
 俺としても国王にはそのまま王でいてほしい。
 国のために我が身を悪役にまで仕立て上げるほどの人間だ。このまま失脚させるのは惜しすぎる。

「ガルペラ侯爵の意志は僕もしっかり理解した。だが国と――王国騎士団と戦うとなると今の僕達の戦力は心許ない。一応僕の方であてがある。その話はまた後でするよ」

 ロギウスには王国騎士団と戦うための兵力を用意する策があるようだ。
 その話はまた後にして、俺とガルペラの話は終わった。





「それにしても考えてほしいのです」

 部屋を出る間際、ガルペラが俺に尋ねてきた。

「こんなチンチクリンな少女が女王になるのですよ? 威厳もへったくれもないのです」

 ……威厳がないことは自覚してたんだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

王太子妃の仕事って何ですか?

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約を破棄するが、妾にしてやるから王太子妃としての仕事をしろと言われたのですが、王太子妃の仕事って?

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

処理中です...