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第14章 まどろむ世界のその先へ
第181話 国王の豹変
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「ゼロラさん! 目が覚めてよかったのです!」
ロギウスに案内されてまず部屋に入ってきたのはガルペラだった。
俺の姿を見て、いつものように年相応のはしゃぎ方をする。
「心配かけてすまなかったな、ガルペラ」
話を聞くに、ガルペラはあの後バクトとギャングレオ盗賊団に保護されて無事脱出できたようだ。
そしてその後、ロギウスを含む自らの協力者達をまとめ上げて再度改革のための計画を練り直しているようだ。
「"円卓会議"では目標の達成こそできなかったですが、大きな成果はあったのです。ただ――」
ガルペラはどこか曇った表情になる。
「国王陛下――ルクベール三世はあの日から大きく変わったのです。"三公爵"も今やバクトさんが抜け、ボーネス公爵やレーコ公爵の派閥も傘下の貴族達が離脱を始めて弱体化してるです。その結果、相対的に陛下の権威は復権したのです」
「それはいいことなんじゃないか? 国王は俺達の意志を知っている。それなら俺達の味方にも――」
そう思った俺だったが、ガルペラは首を横に振る。
「陛下はボーネス公爵とレーコ公爵を始めとする貴族達をご自身の傘下に入れ始めたのです。私からすれば、手綱を握っているようにも見えるのです。ただ民の目線で見ると生活は変わらず、陛下の姿は"これまでの貴族達を力でねじ伏せて、自らが改めて権力の頂点に立つ暴君"ように見えてしまうのです。国を腐敗させる根源が貴族から陛下に代わっただけなのです」
国王があの"円卓会議"からやる気を出したことは知っていたが、これでは何も変わらない……。
「国王は空回りしてるんじゃないか?」
「いえ……おそらくですが、陛下は"わざと暴君を演じている"のです」
"わざと暴君を演じている"? 一体何のために……?
「陛下の目的は"自らを改革の最後の敵"にすることだと思うのです。ボーネス公爵やレーコ公爵を始めとする多くの貴族達を陛下の下にまとめ上げ、その陛下自らを倒させることで悪徳な因子を一網打尽にし、私達の改革を実現させようとしている……そう思うのです」
自らが悪役になってまで、俺達の改革を実現させようとしているだと……!?
「ガルペラ侯爵の推測は恐らく正しい。父上は権威を取り戻しただけで暴君になるような人じゃない。父上自らがこの国の民を苦しめてきた"忌まわしき過去"になり、僕達がその過去を打ち破ることで"新しい時代"が幕を開ける。そうでなければ、父上はとっくに<絶対王権>を発動させて、この国を意のままに操る本当の暴君になっていただろう」
これまで部屋の隅で話を聞いているだけだったロギウスが口を挟む。
ロギウスが言う<絶対王権>。
説明によれば、この国の民の意志を自らの意のままに操ることができる王家に伝わる洗脳術。
ロギウスが"円卓会議"の場で見せた<絶対王権>は、ロギウスの署名した書状によって発動させたため効果は薄かったが、国王が署名した書状を元に発動すればその効果は計り知れない。
「ガルペラ。お前はこれからどうするつもりだ? 王国相手に革命戦争でも仕掛けるか?」
「革命戦争……というと大事ですが、すでにゼロラさんの様に血を流された方がいる以上、綺麗事ではもう終われないのです。……武力を持って戦う覚悟はできているのです」
これまではあくまで話し合いでの解決を優先してきたガルペラだった。
その改革のリーダーとも言えるガルペラが武力で戦う覚悟を決めている。
どうやら避けては通れないようだな……。
「そしてガルペラ侯爵はこのルクガイア王国の新たな国王――女王にでもなられるおつもりかな?」
そんなガルペラに対して、ロギウスが茶々を入れるように問いかける。
「いえ、私は王座には興味ないのです。私にできるのは経済的な発展だけなのです。国のトップに立てる器ではないのです。陛下には引き続き王座についていてほしいのですが、無理ならロギウス殿下にお願いするのです」
「いやはや……意地悪な質問をしてしまったかな? 僕に王位はまだ早いよ」
ガルペラの願いはあくまで国の発展、民の生活の向上だ。ロギウスもそれを分かった上で茶々を入れたらしい。
俺としても国王にはそのまま王でいてほしい。
国のために我が身を悪役にまで仕立て上げるほどの人間だ。このまま失脚させるのは惜しすぎる。
「ガルペラ侯爵の意志は僕もしっかり理解した。だが国と――王国騎士団と戦うとなると今の僕達の戦力は心許ない。一応僕の方であてがある。その話はまた後でするよ」
ロギウスには王国騎士団と戦うための兵力を用意する策があるようだ。
その話はまた後にして、俺とガルペラの話は終わった。
「それにしても考えてほしいのです」
部屋を出る間際、ガルペラが俺に尋ねてきた。
「こんなチンチクリンな少女が女王になるのですよ? 威厳もへったくれもないのです」
……威厳がないことは自覚してたんだな。
ロギウスに案内されてまず部屋に入ってきたのはガルペラだった。
俺の姿を見て、いつものように年相応のはしゃぎ方をする。
「心配かけてすまなかったな、ガルペラ」
話を聞くに、ガルペラはあの後バクトとギャングレオ盗賊団に保護されて無事脱出できたようだ。
そしてその後、ロギウスを含む自らの協力者達をまとめ上げて再度改革のための計画を練り直しているようだ。
「"円卓会議"では目標の達成こそできなかったですが、大きな成果はあったのです。ただ――」
ガルペラはどこか曇った表情になる。
「国王陛下――ルクベール三世はあの日から大きく変わったのです。"三公爵"も今やバクトさんが抜け、ボーネス公爵やレーコ公爵の派閥も傘下の貴族達が離脱を始めて弱体化してるです。その結果、相対的に陛下の権威は復権したのです」
「それはいいことなんじゃないか? 国王は俺達の意志を知っている。それなら俺達の味方にも――」
そう思った俺だったが、ガルペラは首を横に振る。
「陛下はボーネス公爵とレーコ公爵を始めとする貴族達をご自身の傘下に入れ始めたのです。私からすれば、手綱を握っているようにも見えるのです。ただ民の目線で見ると生活は変わらず、陛下の姿は"これまでの貴族達を力でねじ伏せて、自らが改めて権力の頂点に立つ暴君"ように見えてしまうのです。国を腐敗させる根源が貴族から陛下に代わっただけなのです」
国王があの"円卓会議"からやる気を出したことは知っていたが、これでは何も変わらない……。
「国王は空回りしてるんじゃないか?」
「いえ……おそらくですが、陛下は"わざと暴君を演じている"のです」
"わざと暴君を演じている"? 一体何のために……?
「陛下の目的は"自らを改革の最後の敵"にすることだと思うのです。ボーネス公爵やレーコ公爵を始めとする多くの貴族達を陛下の下にまとめ上げ、その陛下自らを倒させることで悪徳な因子を一網打尽にし、私達の改革を実現させようとしている……そう思うのです」
自らが悪役になってまで、俺達の改革を実現させようとしているだと……!?
「ガルペラ侯爵の推測は恐らく正しい。父上は権威を取り戻しただけで暴君になるような人じゃない。父上自らがこの国の民を苦しめてきた"忌まわしき過去"になり、僕達がその過去を打ち破ることで"新しい時代"が幕を開ける。そうでなければ、父上はとっくに<絶対王権>を発動させて、この国を意のままに操る本当の暴君になっていただろう」
これまで部屋の隅で話を聞いているだけだったロギウスが口を挟む。
ロギウスが言う<絶対王権>。
説明によれば、この国の民の意志を自らの意のままに操ることができる王家に伝わる洗脳術。
ロギウスが"円卓会議"の場で見せた<絶対王権>は、ロギウスの署名した書状によって発動させたため効果は薄かったが、国王が署名した書状を元に発動すればその効果は計り知れない。
「ガルペラ。お前はこれからどうするつもりだ? 王国相手に革命戦争でも仕掛けるか?」
「革命戦争……というと大事ですが、すでにゼロラさんの様に血を流された方がいる以上、綺麗事ではもう終われないのです。……武力を持って戦う覚悟はできているのです」
これまではあくまで話し合いでの解決を優先してきたガルペラだった。
その改革のリーダーとも言えるガルペラが武力で戦う覚悟を決めている。
どうやら避けては通れないようだな……。
「そしてガルペラ侯爵はこのルクガイア王国の新たな国王――女王にでもなられるおつもりかな?」
そんなガルペラに対して、ロギウスが茶々を入れるように問いかける。
「いえ、私は王座には興味ないのです。私にできるのは経済的な発展だけなのです。国のトップに立てる器ではないのです。陛下には引き続き王座についていてほしいのですが、無理ならロギウス殿下にお願いするのです」
「いやはや……意地悪な質問をしてしまったかな? 僕に王位はまだ早いよ」
ガルペラの願いはあくまで国の発展、民の生活の向上だ。ロギウスもそれを分かった上で茶々を入れたらしい。
俺としても国王にはそのまま王でいてほしい。
国のために我が身を悪役にまで仕立て上げるほどの人間だ。このまま失脚させるのは惜しすぎる。
「ガルペラ侯爵の意志は僕もしっかり理解した。だが国と――王国騎士団と戦うとなると今の僕達の戦力は心許ない。一応僕の方であてがある。その話はまた後でするよ」
ロギウスには王国騎士団と戦うための兵力を用意する策があるようだ。
その話はまた後にして、俺とガルペラの話は終わった。
「それにしても考えてほしいのです」
部屋を出る間際、ガルペラが俺に尋ねてきた。
「こんなチンチクリンな少女が女王になるのですよ? 威厳もへったくれもないのです」
……威厳がないことは自覚してたんだな。
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