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第13章 王国が変わる日
第173話 王宮脱出戦・国王参入
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「へ、陛下!?」
シシバが連れてきた人物――国王ルクベール三世が姿を現したことで、ジフウは即座に国王の方へと向き直って膝をつく。
俺達も一度警戒態勢を解いて国王を見る。
「皆、楽な姿勢でよい。この場にいるのは余と余が信頼できる者達だけだ」
今この場に王国騎士団関係者はいない。
国王は俺達のことを"信頼できる人間"として、姿を現してくれたようだ。
「厳格なる"円卓会議"の場のはずが、このような事態になってしまって申し訳ない。ジフウ、黒蛇部隊をこの場より撤退させよ。これは余、直々の命令である」
「ですが……そうした場合、貴族や王国騎士団から見た陛下の立場が――」
「『余、直々の命令』と言ったはずだ。この後の事態は全て考慮の上だ」
国王は黒蛇部隊への撤退を命じた。
国王のためを思ったジフウは一度は難色を示すものの、"国王直々の命令"と聞いて納得する。
「失言、失礼しました。我ら黒蛇部隊は陛下の護衛に回り、この場から撤退いたします」
立ち上がったジフウは国王の傍に行き、他の黒蛇部隊と共に国王の護衛に回る。
「リョウ大神官。お主にもこの場からの撤退を願いたい。魔幻塔大神官であるお主がこれ以上この者達に与すれば、ただ己の立場を危うくするだけだ。それにこの者達はお主が真の信頼を置く者達であろう。彼ら自身に任せるのだ」
「……陛下のご意向とあらば、ボクも従いましょう」
リョウも国王の話に従い、黒蛇部隊と同じく国王の傍による。
国王の言う通り、リョウがこれ以上俺達に関与するのはマズイ。
「息子ロギウスよ。お主はこの者達について行け。なんとしてもこの者達を守り抜き、逃げ延びるんだ」
「……かしこまりました、父上。こちらのことは僕にお任せください」
ロギウスは父でもある国王の言う通り、引き続き俺達の手助けをしてくれるそうだ。
「ゼロラ殿。改めてこのような事態になったことを謝罪する。……そして、感謝させてくれ」
国王は俺に対して頭を下げる。
一国の王がただのチンピラでしかない俺に対して頭を下げるなど、異様な光景だ。
「お主のおかげで余は立ち上がる心を持てた。事実、あの"円卓会議"の場でお主の言葉を聞いた一部の貴族も揺らぎ始めておる。余とて、今のこの国の現状が正しいとは思っていなかった。だが……立ち上がることができず、名ばかりの王となってしまった……」
一度顔を上げた国王は神妙に、だが決意を秘めた表情で口を紡ぐ。
「だが、今日この日。ガルペラ侯爵にバクト公爵、そしてゼロラ殿達のおかげでこの国は確かに変わろうとし始めた。余にできるのはここまでだ。王国騎士団と勇者パーティーは今尚、ボーネス公爵とレーコ公爵の手の中にある。諸君らにはここから無事に脱出し、この国を改革するための戦いを――どうか、続けてほしい!」
その言葉と同時に改めて俺達に頭を下げる国王。
国王の決意は本物だ。ここまでの決意を無碍にすることなど、できるはずがない――
「国王陛下……。あんたの心が動いてくれただけでも、俺達にとっては大きな収穫だった。あんたが望むのならば、俺達は再びこの国を変えるために進み続ける。俺達は……またあんたの前にやってくる」
「ああ。余はその時が来るのを楽しみにしているぞ」
俺に対して再び顔を上げた国王の表情はどこか穏やかだった。
「ゼロラ、シシバ、ロギウス殿下。陛下が望まれる以上、俺も今回は退かせてもらう。……まだ敵同士のままになるだろうが、応援はしてるぜ」
「キシシシ! ホンマ不器用な兄貴やな~」
「ジフウ隊長。こちらこそ、父上のことを頼んだぞ」
ジフウは俺とシシバとロギウスに対して、敵同士という立場でできうる限りの激励の言葉を送った。
「ミリア様、ラルフル君。こんな状況でだけど、会えてうれしかったよ。……ゼロラ殿。皆のことを頼んだよ」
「リョウ大神官。全てが終わったら、アンタのことも解放してみせるわ」
「お姉ちゃんにも……伝えておきます!」
リョウは仮面をつけたままだが、ラルフルとミリアに改めて再会の気持ちを述べ、俺に後のことを託してきた。
「わかってるさ。……行こう。早く正面ロビーに行って、ギャングレオ盗賊団と合流するんだ」
俺達は前方へと向き直り、正面ロビー目指して走りだした。
『再び国王の前にやってくる』。
その約束を果たすためにも、俺達はまずここからの脱出を図った。
■
「しかし……父も言っていたが、あの仮面の人物は本当にリョウ大神官だったのだな……」
「なんだ? まだ納得できねえか?」
父でもある国王が言ったんだ、素直に信じていいだろうに。
「いや……その……。女性にしては胸がなさすぎると思って――」
……それ、リョウが聞いたらブチギレるぞ。
シシバが連れてきた人物――国王ルクベール三世が姿を現したことで、ジフウは即座に国王の方へと向き直って膝をつく。
俺達も一度警戒態勢を解いて国王を見る。
「皆、楽な姿勢でよい。この場にいるのは余と余が信頼できる者達だけだ」
今この場に王国騎士団関係者はいない。
国王は俺達のことを"信頼できる人間"として、姿を現してくれたようだ。
「厳格なる"円卓会議"の場のはずが、このような事態になってしまって申し訳ない。ジフウ、黒蛇部隊をこの場より撤退させよ。これは余、直々の命令である」
「ですが……そうした場合、貴族や王国騎士団から見た陛下の立場が――」
「『余、直々の命令』と言ったはずだ。この後の事態は全て考慮の上だ」
国王は黒蛇部隊への撤退を命じた。
国王のためを思ったジフウは一度は難色を示すものの、"国王直々の命令"と聞いて納得する。
「失言、失礼しました。我ら黒蛇部隊は陛下の護衛に回り、この場から撤退いたします」
立ち上がったジフウは国王の傍に行き、他の黒蛇部隊と共に国王の護衛に回る。
「リョウ大神官。お主にもこの場からの撤退を願いたい。魔幻塔大神官であるお主がこれ以上この者達に与すれば、ただ己の立場を危うくするだけだ。それにこの者達はお主が真の信頼を置く者達であろう。彼ら自身に任せるのだ」
「……陛下のご意向とあらば、ボクも従いましょう」
リョウも国王の話に従い、黒蛇部隊と同じく国王の傍による。
国王の言う通り、リョウがこれ以上俺達に関与するのはマズイ。
「息子ロギウスよ。お主はこの者達について行け。なんとしてもこの者達を守り抜き、逃げ延びるんだ」
「……かしこまりました、父上。こちらのことは僕にお任せください」
ロギウスは父でもある国王の言う通り、引き続き俺達の手助けをしてくれるそうだ。
「ゼロラ殿。改めてこのような事態になったことを謝罪する。……そして、感謝させてくれ」
国王は俺に対して頭を下げる。
一国の王がただのチンピラでしかない俺に対して頭を下げるなど、異様な光景だ。
「お主のおかげで余は立ち上がる心を持てた。事実、あの"円卓会議"の場でお主の言葉を聞いた一部の貴族も揺らぎ始めておる。余とて、今のこの国の現状が正しいとは思っていなかった。だが……立ち上がることができず、名ばかりの王となってしまった……」
一度顔を上げた国王は神妙に、だが決意を秘めた表情で口を紡ぐ。
「だが、今日この日。ガルペラ侯爵にバクト公爵、そしてゼロラ殿達のおかげでこの国は確かに変わろうとし始めた。余にできるのはここまでだ。王国騎士団と勇者パーティーは今尚、ボーネス公爵とレーコ公爵の手の中にある。諸君らにはここから無事に脱出し、この国を改革するための戦いを――どうか、続けてほしい!」
その言葉と同時に改めて俺達に頭を下げる国王。
国王の決意は本物だ。ここまでの決意を無碍にすることなど、できるはずがない――
「国王陛下……。あんたの心が動いてくれただけでも、俺達にとっては大きな収穫だった。あんたが望むのならば、俺達は再びこの国を変えるために進み続ける。俺達は……またあんたの前にやってくる」
「ああ。余はその時が来るのを楽しみにしているぞ」
俺に対して再び顔を上げた国王の表情はどこか穏やかだった。
「ゼロラ、シシバ、ロギウス殿下。陛下が望まれる以上、俺も今回は退かせてもらう。……まだ敵同士のままになるだろうが、応援はしてるぜ」
「キシシシ! ホンマ不器用な兄貴やな~」
「ジフウ隊長。こちらこそ、父上のことを頼んだぞ」
ジフウは俺とシシバとロギウスに対して、敵同士という立場でできうる限りの激励の言葉を送った。
「ミリア様、ラルフル君。こんな状況でだけど、会えてうれしかったよ。……ゼロラ殿。皆のことを頼んだよ」
「リョウ大神官。全てが終わったら、アンタのことも解放してみせるわ」
「お姉ちゃんにも……伝えておきます!」
リョウは仮面をつけたままだが、ラルフルとミリアに改めて再会の気持ちを述べ、俺に後のことを託してきた。
「わかってるさ。……行こう。早く正面ロビーに行って、ギャングレオ盗賊団と合流するんだ」
俺達は前方へと向き直り、正面ロビー目指して走りだした。
『再び国王の前にやってくる』。
その約束を果たすためにも、俺達はまずここからの脱出を図った。
■
「しかし……父も言っていたが、あの仮面の人物は本当にリョウ大神官だったのだな……」
「なんだ? まだ納得できねえか?」
父でもある国王が言ったんだ、素直に信じていいだろうに。
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