上 下
172 / 476
第13章 王国が変わる日

第172話 王宮脱出戦・ゼロラ合流

しおりを挟む
「ハァ! ハァ! ハァ!」
「どうした、ラルフル? この程度で根を上げるのか?」

 強い……。ジフウさんは新しいスタイルがまだ馴染んでいないようですが、それでも強すぎます。
 何より厄介なのは、開発中と言っていたジフウさんのスタイルです。
 あのスタイルは両手を完全に守りに回し、こちらの攻撃を全て受け流してしまいます。
 それどころか、ジフウさん自らが構えたままこちらに突っ込んできて、自分の体を投げ飛ばすこともできます。
 "守りながら攻められる盾"。しかもそれだけではありません。

「ダウラァ!」
「クゥ!?」

 ジフウさんの蹴りの嵐が襲い掛かってきます。腕を守りに特化させ、打撃攻撃はキックに専念させています。
 調整しながらとはいえ、その威力は絶大です。おそらくゼロラさんと互角の威力……!

「ラルフル! 回復魔法よ!」

 自分が受けたダメージはミリアさんが回復してくれます。
 おかげでこちらが押し負ける心配は小さいですが、ジフウさんを倒すには至りません。
 "最強の盾と最強の矛"。今のジフウさんの腕と脚で役目を分けた戦い方は、まさにそう例えられます。

「俺が慣れないスタイルで戦っているとはいえ、お前がここまでやるとは思わなかったぜ。だが、そろそろお開きにしようか!」

 ジフウさんは両手を平行に構えるのをやめ、右腕を眼前に突き立てました。

「お前の実力に、敬意を表してこの技で止めを刺してやる! <蛇の予告>!」

 突き立てられたジフウさんの右腕に黒い風魔法が纏われ――



 ボカン!

「あぎゃあ!?」

 ――始めたところでジフウさんの顔面が何故か突如爆発しました。今の爆発はおそらく魔法によるものです。
 術者を探そうと後ろを振り向くとゼロラさんとロギウス殿下がいました。
 殿下が一緒なのにゼロラさんが何も手出しをしていないところを見ると、味方という事でよいのでしょう。
 そして二人の前には先程の爆発魔法を放ったと思われる張本人。カッコイイ仮面をつけた人が宙に浮きながらこちらへ手をかざしていました。



「幼気な少年に手出しをする不逞の輩は許さないよ! このボク、"マスク・ザ・レインボー"が相手してあげるよ!」

 ――ただ仮面の人の声は物凄く聞き覚えのある声でした。

「……ねえ、ラルフル。あれって、リョウ大神官よね?」

 ミリアさんも自分と同じことを思ってました。

「……はい。リョウ大神官ですね」


◇◇◇


 俺がロギウスとリョウ――もとい"マスク・ザ・レインボー"と一緒に先へ進むと、ラルフルがジフウと戦っていた。
 ジフウは<蛇の予告>を使っていたためラルフルは相当危なかったようだが、リョウが爆発魔法でジフウを妨害したおかげでなんとか<黒蛇の右>に移る前に止めることができた。

「いででで!? おい、リョウ! いきなり人の顔面に爆発魔法を使う奴がいるか!?」
「ボクはリョウという者ではない! 通りすがりの仮面の魔法使い、"マスク・ザ・レインボー"だ!」
「お前それで正体隠してるつもりか!? 顔以外何一つ隠せてねえぞ!?」

 ジフウも一発で"マスク・ザ・レインボー"がリョウであることは見抜いたようだ。
 それにしてもこの二人、結構仲良く喋ってるな。
 お互いに王国サイドの人間だから接点もあるのだろう。

「すまんな、ラルフル、ミリア様! 待たせてもうて――あれ? ゼロラはんとロギウスがここに駆け付けたんはともかく、なんでリョウまでここにおるんや?」
「だからボクはリョウじゃない! "マスク・ザ・レインボー"だ!」
「……いや、変装下手にも程があるやろ」

 少し遅れてシシバもこの場に現れた。
 何をしていたのかは知らないが、俺とロギウスがいることにはすぐ納得してくれたようだ。
 ――ただ、シシバもリョウの変装を一発で見抜いた。
 この二人に接点などないはずだが……?

「仮面以外にもごまかせるところあるだろ!? 口調を変えるとかさあ!?」
「ついでにその平たい胸にボールでも仕込んどけや」
「~~~~ッ! なんで兄さん達にそこまでボロクソ言われないといけないかなー!?」

 ジフウ、シシバ、リョウの三人はお互いに悪態をつき合っている。





 ――いや、ちょっと待て。

「なあ。今リョウがジフウとシシバのことを『兄さん』って呼ばなかったか?」
「あっ」
「いっ?」
「うぅ!?」

 俺の質問に三人は固まってしまう。傍で聞いていたラルフルとミリアも固まっている。
 ロギウスは事情が呑み込めずに首をかしげている。
 リョウも今は仮面で顔を隠しているが、瞳の色はジフウやシシバと同じ赤色だ。
 まさかこの三人本当に――

「この馬鹿妹! 折角お前の立場も考えて血縁関係は伏せておいたのに、何バラしてやがんだ!?」
「うるさいよ、ジフ兄! そもそもボク達が兄妹であることを隠す必要があったのは、兄さん達二人がそれぞれ敵対勢力にいたせいじゃないか!」
「分かっといてなんであっさりバラしとるんや!? "マスク・ザ・なんたら"とかいう設定もどっか行っとるし! ホンマアホやろ、この妹!」
「ハッ!? そうだった! ボクは"マスク・ザ・レインボー"! 断じてリョウではない!」

 すでにその設定には無理が生じてるぞ、リョウ。
 だがどうやら本当にジフウ、シシバ、リョウの三人は兄妹だったようだ。
 それぞれが別勢力に属していたせいでこれまでその関係を隠していたようだが、こんなところであっさりバレてよいものだろうか……?

「こ、この三人全員が兄妹だったなんて……!?」
「ここまで曲者揃いの兄妹も珍しいわね……」

 ラルフルとミリアも驚いている。そりゃそうだ。三人が三人とも個性的すぎる。
 ……ある意味それが兄妹らしさとでも言うべきか。

「……ゼロラはん達。この辺の話はまた後でするわ。今はとりあえず、全員この人の話を聞いてほしいんやが」

 三人兄妹の話は置いておき、シシバは後ろに控えていた人物に道を譲った。
 黒蛇部隊の四人に守られるように現れたのは、先程"円卓会議"の場にもいた荘厳な佇まいの人物。

 ――その人物が俺達の前へと出てくる。



「この場にいる皆の者よ。国王ルクベール三世の名のもとに、今一度矛を収めてくれ」
しおりを挟む

処理中です...