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第13章 王国が変わる日

第165話 ゼロラとして見てきたもの

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「チ、チンピラが議論を遮るで――」
「うるせぇ! そっちこそ、黙ってガルペラ達の訴えを聞く気にはなれねぇのか!?」

 俺は怒った。そして怒鳴り続けた。

「歴史? 格式? そりゃあてめぇらにとっては大事なもんなんだろうよ。だがな! そんなてめぇらのくだらねぇ意地だ、誇りだ、私欲だで、苦しんでる人間がどれだけいると思ってやがる!? アァ!?」

 俺は思うことを思うままに口にした。

「魔力がないってだけで、それまでの功績も努力も無駄にする必要があるか!?」

 俺はラルフルのことを思いながら言った。

「てめぇらが何もしねえ分、平民の生活を支え続けた奴の声も聞けねえのか!?」

 俺はガルペラのことを思いながら言った。

「ただ利用されるだけの身分に就かされて、本当の思いを遂げられない奴だっていたぞ!!」

 俺はミリアのことを思いながら言った。

「てめぇらが馬鹿にした医学の力で命を救った奴だっていた!!」

 俺はバクトのことを思いながら言った。

「俺は記憶を失っていつの間にかこの国に来ていた! そんな俺を助けてくれたのは、てめぇらが普段から差別してるような奴らだ!! 俺はそんな奴らに救われてきたんだ!! てめぇら貴族なんかじゃねぇ!!! 本来貴族ってのは領民のためを思って働くもんだろが!? それをしもしないで……好き勝手ほざいてんじゃねぇ!!! てめぇらなんかより……俺の周りにいてくれた奴らの方が、よっぽど立派に生きてるぜ!!!」

 俺は……俺の胸の内にあった思いをありったけブチまけた。



「……ゼロラ殿、だったな。お主の胸の内を聞かせてくれたこと、誠に感謝する」

 そんな俺の怒りの主張に感謝の意を述べてくれたのは――国王・ルクベール三世だった。

「オジャル伯爵。一度、議論の停止を願う」
「か、かしこまりましたでおじゃる……」

 国王は議論の停止をオジャル伯爵に伝えると、今度はボーネス公爵達の方を見た。

「ゼロラ殿の主張を踏まえた上で、余は"貴族制度の撤廃"を念頭に少しだけ考える。しばらく待っていてくれ」
「そ……そんな……陛下……!?」
「くぅ……!?」

 国王が『"貴族制度の撤廃"を念頭に考える』と言ったのを聞いて、ボーネス公爵とレーコ公爵はこれまで以上に焦っていた。

「た、確かに……我々は身分に甘えていたのかもしれない……」
「我々は……民の声を無視するほど腐ってしまっていたのか……」
「歴史や格式よりも……大事なものか……」
「私は……陛下の御心に従おう……」

 だが、配下である他の貴族達は俺の主張を聞いたためなのか、迷いが見え始めていた。



 俺は肩の力が抜け落ちて背もたれにもたれ掛かった。

「……すまない。こんな場で先走った発言をしちまって……」
「何を言ってるのですか! ゼロラさんだからこそ言えたのです!」
「ええ! 陛下やボーネス公爵とレーコ公爵配下の貴族達の心まで動かしたんですよ!」

 ガルペラとミリアは俺の行動を称賛してくれた。

「『こんな場で』? フン! "こんな場だからこそ"、貴様のような無鉄砲な発言も効果があるのだ」

 バクトも相変わらず目つきも口も悪いが、顔が少し笑っているのが分かる。

「しっかしな~。ようこないに大物が揃っとる場で、あないな態度とれたもんやわ」

 シシバももっともなことを言っているのだが――

「フッ。机に脚乗せたままの奴にだけは言われたくねえな」
「お? そらそやったな。キシシシシシ!」

 一気に気が抜けたのとシシバの態度で、俺も自然と笑ってしまった。

 行ける。この調子で行けば、俺達の望む改革が実現する……!
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