上 下
149 / 476
第12章 舞台へ立つために

第150話 果報はプリンを食べて待て

しおりを挟む
「ローゼス~。ゼロラさんはまだ帰ってこないですか~?」
「ギャングレオ盗賊団のアジトへ向かったのです。遅くなるのは仕方ないでしょう」

 私、ガルペラ侯爵はお屋敷でギャングレオ盗賊団に会いに行ったゼロラさんを一日待っているのです。
 でももう陽が暮れてしまっているです。帰りが遅いのです。
 ゼロラさんがやられたとも考えられるですが、私の読みが正しければ勝っても負けてもゼロラさんは帰ってこれるはずなのです。

「ローゼス~。暇なのです~」
「ならば少し休んでてください。このところ、ガルペラ様は働きづめでしたから」

 確かに最近は色々手続きや対処に追われてて大変だったのです。でもその仕事も頑張って終わらせたのです。なのですることがないのです。休むといっても今日はお昼寝もしたので眠くもないのです。
 "果報は寝て待て"という言葉がありますが、寝れなければ待てないのです。

 ……でも、"寝て待つ"のならば"食べて待つ"のも変わらないのではないのです?

「ローゼス~。プリン食べたいのです~」

 そう、"果報はプリンを食べて待て"なのです! 今ここに、新たな名言が誕生したのです!

「ダメです。ガルペラ様はこのところプリンばかり食べています。それにもう夜も更け始めています。今食べるのは健康にも良くありません」

 ……ローゼスに止められたのです。ケチなのです。
 折角プリンを保存できるようにこのお屋敷に配電設備を設置して、冷蔵庫が使えるようにしたのです。プリンが食べられないと冷蔵庫を設置した意味がないのです。

「ローゼス~。そこをなんとかなのです~」
「ダーメーでーすー! ここ最近でどれだけプリンを食べてると思ってるのですか? もう軽く三十個は食べてますよ?」

 おいしいデザートは別腹なのです。おいしいは正義です。つまり、プリンを食べることも正義なのです。
 それでもローゼスはプリンを出してくれないのです。冷蔵庫にはローゼスが勝手にカギを付けてしまったので、盗み食いもできないのです。
 ……こうなったら仕方ないのです。奥の手を使うのです。

「ママ~! プリン食べたいです~!」
「!? そ……そんなこと……言ったって……!」

 ローゼスの守りが緩んだのです! これぞ必殺作戦、<ママ~! あれ頂戴!>なのです!

「ハァ……ハァ……! ダ、ダメです! 今回ばかりはそうはいきません!」

 な!? 私の必殺作戦が通用しないのです!? 今日のローゼスは手ごわいのです!

「ママ~、ダメ~?」

 さらに私が目を輝かせて<おねだりビーム>も放ったのですが、これも通用しないのです!
 ローゼス……レベルを上げているのです!
 こうなったら仕方ないのです。私のお口はプリンを食べる準備で万端なのです。もはや手段は選ばないのです……プリンのためです!

「やだやだやだ~! ママ~! プリン食べたいです~!」

 私は床の上で仰向けになって両手足をバタバタとしたのです。これぞ最終奥義<駄々っ子ムーブ>なのです! プリンのためならば、侯爵という立場も関係ないのです!

「あ、あわわわ……!? ガ、ガルペラ様……!?」

 ローゼスが困惑しているのです! あと一歩なのです!
 ……あれ? なんでローゼスは扉の方を見ているのです?

「……何やってんだ? お前ら?」

 ……ゼロラさんが帰って来たのです。ってか、さっきのを見られたのです。

 スクッ イソイソ…… キィ

「ゼロラさん、お帰りなのです。報告を聞くのです」

 ごく自然な動きで床から起き上がった私はそのまま椅子に腰かけて、かっこよく机の上で手を組んだのです。これで誤魔化しきれ――

「いや、それで誤魔化せるわけねえだろ……」

 ――なかったのです。でもここで態度を変えたらなおのこと恥ずかしいのです。強引に押し通すのです。

「ギャングレオ盗賊団との交渉はどうだったのですか?」
「あくまでさっきのはなかった事で押し通すつもりかよ……。まあいい」

 ゼロラさんは呆れながらも報告してくれたのです。

 ギャングレオ盗賊団や頭領シシバとの戦い。
 ギャングレオ盗賊団の元締め、バクト公爵の存在。
 バクト公爵とギャングレオ盗賊団の目的。
 バクト公爵が協定を結ぶ意思があること。

 どれも有益な情報だったのです。
 バクト公爵との会談の機会まではまだ時間がありそうなのですが、ギャングレオ盗賊団の主要メンバーとは明日会えるそうなのです。
 ゼロラさんには大変な一日だったですけど、これは大きな一歩なのです。

「これはお祝いなのです! プリンを食べるのです!」
「……ローゼス。もう、食べさせてやれよ……」
「ええ……そうするわ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

義理の妹が妊娠し私の婚約は破棄されました。

五月ふう
恋愛
「お兄ちゃんの子供を妊娠しちゃったんだ。」義理の妹ウルノは、そう言ってにっこり笑った。それが私とザックが結婚してから、ほんとの一ヶ月後のことだった。「だから、お義姉さんには、いなくなって欲しいんだ。」

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。 焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。 一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。 コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。 メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。 男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。 トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。 弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。 ※変な話です。(笑)

処理中です...