上 下
80 / 476
第7章 家族

第80話 悪魔

しおりを挟む
「お母さん……なんで……なんで死んじゃったんですかぁ……!」
「母さん……! ラルフル……!」

 まだ私もラルフルも幼かったころ、私たち家族の生活は魔王軍の突然の襲来により、一瞬で崩壊してしまった。
 母さんは領民と、自らの子である私とラルフルを守るために死んだ。
 母さんの棺の前で泣き崩れるラルフルを抱えながら私も涙を流す。

「使えない女だ。病弱でまともに内政もできないどころか、俺の領地も満足に守れないのか?」

 母さんの死に対して放った父の言葉はあまりに冷たすぎるものであった。

 こんな人が私とラルフルの父親なの?
 なんで母さんが死んだのに涙も流さないの?
 この人は遊ぶばかりで何をしていたというの?

 許せない、許せない、許せない!
 本当は母さんじゃなくて、この男が死ぬべきだったんだ!
 この男は父親じゃない! このまま生きるなんて許さない!

「君は復讐を望むかね? だが、それは我ら魔王軍を矛先とするわけではないようだ」

 私に一人の男が近づいてきた。目の下に炎のような模様がついた、光のない瞳を持つ、魔族と思われる男が。

「あなたは……誰?」
「魔王軍四天王の一人……とだけ、言っておこうか」

 魔王軍四天王……。【伝説の魔王】と直接"血の契約"を交わした、魔王軍の最高幹部。
 そんな人がなぜここに?

「君の質問に答えるつもりはない。だが、一つ君から聞かせてほしい。……望むならばもう一度襲撃してやろうか? なぁに、今度は君の父のみを標的としよう。"魔王軍四天王"の肩書の元、我らが主、【伝説の魔王】ジョウイン公に頼めば、三日後にはジョウイン公自ら、君の父を殺してくれるだろう。他の被害を抑え、自然な形で……な!」

 それは悪魔の言葉だった。あの男を殺してくれる……。そのために【伝説の魔王】まで動かすことができる。

「だが、こういった契約には対価が必要だ。君の身で払うことになるが……構わないかな?」

 契約の対価は私が魔王軍の奴隷となること。そうすれば【伝説の魔王】が動いてくれる。あの男を殺してくれる。

 奴隷になればラルフルとは離れ離れになる。
 この悪魔の契約を交わせば、私は人類の裏切り者になる。

 でも、そんなことはどうでもいい。
 あの男を殺せるのならば。そして、ラルフルをあの男から守れるのならば……!

「お願いします……。あの男を……私の父を殺してください!!」
「ハッハッハッ。交渉成立……だな」

 私の答えを聞いた魔王軍四天王は煙と共に姿を消した。
 そして、三日後に魔王軍が再来した。
 その先頭には、圧倒的な力で目を向けることさえ難しい【伝説の魔王】が立っていた。

 それでも私は【伝説の魔王】に目を向け続けた。
 領土内の戦士たちを一蹴しつつ、あの男がいた屋敷へと向かう。他の物には目もくれない。本当にあの男だけを狙って動いていた。

 そしてあの男は……父は殺された。【伝説の魔王】の手によって。
 他の被害も大きかったが、あの男以外に死人は出なかった。
 【伝説の魔王】は、契約を守ってくれた。


「ブヒヒヒヒ。このお嬢ちゃんがダンジェロ様のおっしゃっていた、契約者ですな?」

 戦いの最中、一人になった私の元に二人の魔族が現れた。
 一人はオーク。そしてもう一人は……。

「この娘の扱いはオクバ、お前に任せよう……」
「ブヒヒヒ。わかりやした、魔王ジョウイン公」

 仮面で顔を隠すも、その膨大な魔力が誰にでも感じることができる魔王軍の総大将……。
 【伝説の魔王】……ジョウイン!


 そうして私はオクバという名のオークに連れ去られ、魔王軍の奴隷となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

義理の妹が妊娠し私の婚約は破棄されました。

五月ふう
恋愛
「お兄ちゃんの子供を妊娠しちゃったんだ。」義理の妹ウルノは、そう言ってにっこり笑った。それが私とザックが結婚してから、ほんとの一ヶ月後のことだった。「だから、お義姉さんには、いなくなって欲しいんだ。」

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。 焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。 一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。 コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。 メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。 男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。 トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。 弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。 ※変な話です。(笑)

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

処理中です...