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第6章 少年少女の思いの先

第71話 その願いは運命と共に

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 スタッ

「な、なんとかうまく降りられたのです」
「ラルフル!」

 アタシとガルペラ侯爵はラルフルが落ちた崖下まで無事にたどり着いた。
 アタシは急いで倒れているラルフルに駆け寄る。

 そこで見た光景に言葉を失う。
 切り裂かれた胸元の血と転落した際に頭を打ったことによる出血でできた血の池にラルフルは倒れていた。
 すでに脈はなく、息もしていない。

「お願い! 治って!」

 アタシは必死に回復魔法をかけ続ける。だけど変化は見られない。

「……ミリア様。申し上げにくいのですが、ラルフル君はもう……」
「いや! まだ死んでなんかいない!」

 アタシは諦めない! 諦めたくなんかない!
 アタシの回復魔法でダメならば、もっと強力な回復魔法を使える道具を使えばいい!
 そう思ったアタシは胸元からあるものを取り出した。

「"聖女のオーブ"なのです!? でも確か、盗まれたと聞いたのです!?」

 あの"紅の賢者"がアタシに"聖女のオーブ"を返したのが"運命"だというならば、この"願い"だって届かせてみせる!
 アタシは"聖女のオーブ"をラルフルの上に掲げて一心に願った。

「"聖女のオーブ"よ! 今こそアタシの願いを聞き入れて! ラルフルを救って!!」

 パァアアアア

 これまでに感じたことのない強大な回復の魔力がラルフルを包み込む。
 傷が消えていき、血の気が引いていた肌にも赤みが戻っていく。

「…………うぅ……」

 そしてラルフルの意識が戻った!

「あ……あれ? ミリアさん……なにがあったのですか?」
「ラルフル!!」

 アタシは夢中でラルフルに抱き着いた。
 ラルフルが助かった。そのことがただただ嬉しい! 人目も気にせずにアタシはラルフルに泣きついた。

「ラルフル! ごめんね……! アタシのせいで……アタシがアンタを突き放したばっかりに……!」
「お、落ち着いてください! まず、なんで自分とミリアさんがこんなところで二人きりになっているのでしょうか!?」

 二人きり?
 そう言われて気になって辺りを見回すと、ガルペラ侯爵の姿が見当たらなかった。空気を読んで身を引いてくれたようだ。

「よく分からないですけど、ミリアさんが自分を助けてくれたんですね。ご迷惑をおかけしました」
「何言ってるのよ! 謝らなきゃいけないのはアタシの方よ! アンタをこんな危険な目に会わせちゃって……!」

 とにかく本当に良かった。アタシはラルフルにこれまでのいきさつを説明した。

◇◇◇

 ミリアさんはこれまで何があったのかを話してくれました。
 オジャル伯爵に強引に婚約を迫られたこと。ボーネス公爵に脅されていたこと。そのために自分を遠ざけていたこと。

「そうだったのですか……。すみません。ミリアさんの気持ちを理解できなくて……」
「だから謝らないでって。アタシも事情を説明できなかったし、それにアンタがこなければアタシも助からなかった」

 できればもっとかっこよく助けたかったですけどね。
 ミリアさんは"聖女のオーブ"を使って自分を治してくれたそうですが、その"聖女のオーブ"は自分の傷を治した後、砕け散ってしまいました。

「"聖女のオーブ"は国宝なのに……」
「別にいいわよ。アンタが助かったのならアタシにとっては些細なことよ」

 仮にも国宝が壊れたことを『些細なこと』と割り切るのはどうかと思いますが、そこまで自分の身を案じてもらえると恥ずかしいです。

「そういえばアンタ、シアの洞穴にいたのよね? 何をしてたの?」
「そうでした! これをミリアさんにお渡ししようと思ってたんです!」

 思い出したように自分は懐から清白蓮華の花を取り出しました。

「こ、これって……清白蓮華? どうしてこれを?」
「昔ミリアさんが欲しがってたのを思い出しまして、シアの洞穴から"追憶の領域"に行けたので仲直りの印にと取ってきたのです」

 結局渡す前に仲直りできましたけど、渡すなら今ですよね。

「た、確かに昔そんなことも言ったわね……。ところでアンタ、この花のこの国における花言葉って知ってる?」
「花言葉? いえ、知らないです」

 文献では名前と見た目しか調べていませんでした。

「『結婚して下さい』。清白蓮華はプロポーズのために相手に贈る花でもあるのよ」
「…………」

 ……思考を整理しましょう。
 ミリアさんは自分に清白蓮華を欲しがっていました。自分は清白蓮華をミリアさんに渡しました。ミリアさんはそれを受け取りました。そして清白蓮華の花言葉は『結婚してください』です。

 …………。これ。自分がミリアさんにプロポーズしてません?

「あ! いや!? その!? 別にそんなつもりじゃ!? いえ、そんなつもりも間違ってなくて……!」
「アハハハ! やっぱりアンタは気づいてなかったのね」

 ミリアさんは笑いながら軽い返事をします。対する自分は自分の行いに自分でついていけずにパニック状態です。

「アンタがそこまで考えてこの花をアタシに贈ったわけじゃないのは分かった。でも、アタシからこれだけは言わせてほしい……」

 ミリアさんは自分の目をジッと見つめて言いました。

「アタシ、ミリアはラルフルのことが好き。これからもずっと傍にいてほしい」

 それはミリアさんからの誓いの言葉。そんなの、答えは決まってるじゃないですか……。

「自分、ラルフルもミリアさんのことが好きです。こちらこそこれからもよろしくお願いします」


 二人の唇が自然と重なりました。
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