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第6章 少年少女の思いの先

第64話 俺が処刑寸前なんだが?

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 俺達は宿場村に帰ってきた。
 イトーさんの店には状況を確認するためにやって来たローゼスがいた。

 現在、ガルペラとローゼスはお互いに剣を構えて俺の目の前で交差させている。
 そして俺はというと、両腕を後ろに縛られた状態で、その交差した剣の間に首を差し出す形で座らされている。

 完全に処刑台に上げられた死刑囚の姿だ。

「……それで俺はここからどうすればいいんだ? 新時代の幕開けでも宣言すればいいのか?」
「冗談を言う余裕はあるんですね~。よくも私を囮に使ってくれたですね~」
「な~んでガルペラ様を危機にさらしてるんですかね~、このおっさんは~?」

 ガルペラとローゼスが笑顔のまま怒ってくる。とても怖い。
 『笑顔こそが最大の威嚇である』なんてどこかで聞いたことがあるが、本当なのかもしれない。

「まぁ……一応はミリア様から事情を聴けたですし、良しとするです。でも作戦があるならもっと事前に相談するのです」
「分かった。次からは気を付ける」

 ガルペラのお許しが出たので俺は後ろ手に縛られた縄を引きちぎって立ち上がる。

「いや、縛られた腕の縄ってそんな簡単にちぎれるものじゃないからね?」
「ノリでやったお芝居だったのですが、ゼロラさんも付き合ってくれてただけなのですか……」

 ノリで処刑ごっこは勘弁してくれ。もっとも、それが分かってたからわざと処刑されそうなフリをしていたのだが。

「それにしても入れ替わりでラルフルが不在だったとは……」
「すまねえ。俺もそっちの事情が分からなかったし、何よりラルフルが元気を取り戻してくれたからな」

 イトーさん曰く、ラルフルはミリアへのプレゼントを探しに"追憶の領域"という場所を目指したそうだ。
 明日には帰ってくると思うが、こっちも早急に事情をラルフル本人に伝えたい。

「俺もラルフルの後を追ったほうがいいか?」
「いや、また入れ違いになったら面倒だろう」

 それもそうだ。
 とにかく明日だ。ミリアがオジャル伯爵に連れていかれる前にラルフルがミリアを連れ去る。そして一度引き裂かれた二人は再び結ばれる。

「ゼロラさんが考えたストーリーとしてはロマンチックなのです」
「ロマンチックが似合わない男で悪かったな」
「そうでもねえだろ。この間だってゼロラの奴、女と一緒に寝――」

 イトーさんがマカロンとの出来事を話そうとしたので、無言で睨んで黙らせる。そんなことを無暗に話したらマカロンが怒るぞ。

「……ま、まあ、よかったじゃねえか。ラルフルも嫌われてたわけじゃなかったんだし」
「後は明日の花嫁誘拐作戦がうまくいけばいいのだけれど……オジャル伯爵ってボーネス公爵の派閥よね? ボーネス公爵まで出てくると簡単に行くとは思えないけど……」

 ボーネス公爵。ガルペラからも聞いたが、この国の実権を裏で握っている"三公爵"の一人だそうだ。
 特にボーネス公爵の派閥は"三公爵"の中でも最大で、他の貴族もほとんどがボーネス公爵に従っている。下手に逆らえばガルペラの身も危ないのだが……。

「その件については大丈夫なのです。ボーネス公爵とはいつか対峙すると思ってたのです。その時期が早まっただけなのです」

 ガルペラはラルフルとミリアの件を最優先してくれた。ボーネス公爵との対峙も予定より早くなっただけと言い、何があっても立ち向かう姿勢を表明した。

 ビビッ ジジジジッ

 俺達が明日のことについて話していると、店の中に突如青く光る人影が現れた。

「な、なんだ!? 何かの魔法か!?」
「こんな魔法は見たことがないのです!」
「落ち着け。あの人影から敵意は感じられない」

 最初はぼんやりとした人影だったが、次第にその形がはっきりとしていく。

『……アー、アー。多分これでゼロラ殿達に見えるようになったはずだよね。やっぱりこれ、改良の余地があるね』

 そこに現れたのはリョウ神官の影だった。

「リョウ神官? これは通信魔法と言ったところか?」
『あー、もしかして何か話してるのかな? すまない。こちらへの通信はノイズがひどくて姿も声もハッキリとは分からないんだ。こっちの声と姿はハッキリ認識できてると思うけど』

 リョウ神官からはこちらの状況がよく分からないようだ。それでもリョウ神官がわざわざこんな一方向のみにしか使えない通信魔法を使ってまで俺達の前に現れたのには何か事情があるはずだ。

『この通信魔法の都合上、急に一方的で悪いんだけど、どうしても知らせたいことがあるんだ。……ミリア様を迎えるボーネス公爵とオジャル伯爵の部隊が予定より早く……今日の未明にやってくる。急いでスタアラ魔法聖堂まで来てくれ』
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