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第6章 少年少女の思いの先

第63話 そのころ、宿場村では

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 外は晴れていい天気のようです。
 でも自分の心は曇り空です。

 小鳥の明るいさえずりが聞こえます。
 でも自分の口からは暗い溜息しか出ません。

「な、なあ、ラルフル。元気出せよ。ほら、ホットミルク作ってやったから飲みな」

 イトーさんがホットミルクを差し出してくれました。
 でも自分の目線は台所の練炭の方にいってしまいます。

「練炭を焚いた密室の中にいると死ねると聞いたことがありますね……」
「いい加減自殺願望はやめてくれ!」



「少し落ち着きました……」
「やっと落ち着いてくれたか……。頼む、ゼロラ。早く帰ってきてくれ……」

 イトーさんにはご迷惑をおかけしてしまいました。
 今はゼロラさんを待つしかありません。ですが、どうしても落ち着けません。

「なあ、ラルフル。ミリア様がお前につらく当たったのには何か大きな理由があるんじゃないか?」
「大きな理由……ですか?」
「ああ。例えば、『お前を助けるためにお前にわざと嫌われるようにした』とか」

 ……あり得ます。ミリアさんは何でも一人で抱え込もうとするところがあります。

「そうかもしれませんが……もし本当に嫌われていたらと思うと……」

 もう一度ミリアさんの前へ踏み出す勇気が出ません。仲直りって難しいです。

「う~ん……。だったら何かプレゼントでも持っていけばいいんじゃねえか? こういう時はプレゼントを贈るのが相場と決まってるんだ」
「プレゼント……!」

 そういえばミリアさんは昔、自分に欲しいものがあると言ってました。
 ルクガイア王国にある何ヶ所の洞穴の奥から地下に潜ってたどり着けると言われている"追憶の領域"。その場所にのみ咲くという花、"清白蓮華"。自分がまだスタアラ魔法聖堂を旅立つ前に聞いた話です。
 問題は"追憶の領域"にどうやって行くのかです。

「イトーさん。"追憶の領域"への行き方を知らないですか?」
「"追憶の領域"? ……いや、聞いたこともないな」
「そうですか……。どこかの洞穴から行けると聞いたのですが……」
「……それならスタアラ魔法聖堂近くの"シアの洞穴"から行けたりするんじゃないか?」

 正確な場所が分からない以上、今は"シアの洞穴"に賭けるしかありません。

「イトーさん。アドバイスありがとうございました。自分はこれからシアの洞穴に向かいます」
「え? いや? ここでゼロラを待ってた方が……」
「いえ。自分のやることが決まった以上、ジッとしていられません! ホットミルクおいしかったです! 行ってきます!」

 イトーさんにあいさつした後、自分はすぐにシアの洞穴に向かいました。

「行っちまったか……。元気になったのはいいが、大丈夫なのかね……」



 シアの洞穴に着きました。途中聖堂の方からリョウ大神官の興奮した声が聞こえたような気がしましたが、聞こえなかったことにしました。
 中を詳しく調べてみると、人一人やっと通れるぐらいのスキマの先に長く伸びた空間がありました。
 もしかするとここが"追憶の領域"へと続く道なのかもしれません。

 自分は意を決して奥の方へと進みました。
 奥の方からは人の気配も魔物の気配もなく、むしろ神聖な空気を感じました。
 直感ですが自分は今、"追憶の領域"に近づいています。ここならミリアさんが欲しがっていた"清白蓮華"もあると思い、どんどん奥へと足を踏み入れました。



 あれ? そういえばなんでイトーさんはシアの洞穴の存在を知っていたのでしょうか……?
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