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第3章 汚れ仕事からの脱却

第29話 侯爵邸突入戦②

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 ガルペラ侯爵邸の中に入った俺を待ち構えていたのは侯爵の部下たちによる波状攻撃だった。

「ここから先に行かせるものか!」
「気合いが入ってるのは結構だが、相手の実力はしっかり理解しておかねえとな」

 ドカッ! バキッ!

 どいつも戦いに関して素人というわけではなかったが、俺にまともに立ち向かえる程ではなかった。
 向かってくる相手をひたすら返り討ちにしていく。

「おい。ガルペラ侯爵はどこにいる?」
「お、教えるものか……。教えるぐらいなら……!」

 部下の一人を尋問して居場所を吐かせようとするが、胸元から何かを取り出した。嫌な予感がした俺は首筋を軽くたたいてそいつを気絶させた。

「これは……爆弾か? 俺もろとも自爆する気だったのか……」

 恐ろしい忠誠心だ。ガルペラ侯爵の部下達は主のためならば死をもいとわないらしい。
 だが死なれては後味が悪すぎる。そもそも俺は頼みがあってここに来たわけだったんだが……。

「ここまで後に引けなくなっちまうとはなぁ……」

 もう少し俺の口が上手ければこんな事態にはならなかっただろうことを俺は後悔した。
 しかしこうなってしまったものは仕方ない。俺は部下達が守っていた位置からガルペラ侯爵の居場所を予測して先へと進んでいった。

 予測できる場所は屋敷の最上階。先程ローゼスが立っていたベランダのある部屋だ。



「……完全に誤算だったわ。あなたの実力がこれほどまでだったとはね……」

 目的の部屋の扉の前にはローゼスが立ちふさがっていた。

「お褒めにあずかり光栄だね。できれば穏便に……」

 ボゥ!

 俺が話している最中にローゼスが火球魔法で攻撃してきた。

「……やっぱり信用ならねえってことか」
「あなたの実力については調べ切れてなかったけど、あなたの経歴については間違いはないでしょう?」

 貴族から依頼され続けてきた裏の仕事。俺の"暴力の経歴"。
 そりゃあ信じてくれって方が無理な話かもな。

「ガルペラ侯爵はその奥だな? 女を殴る趣味はない。大人しく道を開けてくれると助かるんだが?」
「そんなこと……するわけないでしょう!」

 ローゼスが俺目がけて炎の槍をいくつも放ってくる。なんとか掻い潜って避けるも今度は炎の壁が迫ってくる。

「うぐぅ!? ……流石に避けきれねえか」
「女だからと甘く見ないことね。真面目にやらないと全身に火傷を負うことになるわよ」

 ローゼスの魔法は本物だ。これだけ炎の魔法を使っておきながら屋敷には一切燃え移っていない。それだけ魔法を制御できているということだ。
 それに俺に対してもあくまで"無力化する"ことを目的にして"殺す"ことがないように威力を制御していることも伺える。

「俺を殺さないように威力を調節してるのは主の意向か?」
「ガルペラ様は人が死ぬことを望まない。従者として、主の意向に従っているだけよ」

 侯爵の側近だけあって、自爆を仕掛けようとした奴と違い冷静な忠誠心だ。

「だったら尚更本気で俺を攻撃することだな。それぐらいの威力じゃねえと俺を止めることなんて出来ねえぞ」
「言ってくれるわね。だったらお望み通り、最大出力の一撃をぶつけてあげるわ!」

 そう言ってローゼスは両手にこれまでの物よりも大きくて凝縮された炎の塊を作り出した。

 助かったぜ。こっちの挑発に乗ってくれて。

 ゴォオオ!

 炎の塊がローゼスの両手から放たれた。俺は炎の塊に自ら突っ込み――

「オラァアア!!」

 殴り返した。

「そんな!? 私の魔法を拳で……!?」

 ボォオオウ!

 跳ね返った炎の塊はローゼスに直撃し、その場に倒れこんでしまった。

「汚れ仕事をやってると魔法使いと戦うことも多くてな。魔力を使わずとも速度とタイミングを合わせて跳ね返す術は身に着けておいたのさ」
「な……なんてデタラメな男……」

 それだけ言うとローゼスは気を失ってしまった。
 直接殴らずに済んだとはいえ、やはり心が痛い。

「ガルペラ侯爵が素直に話を聞いてくれたらいいんだが……無理だろうなぁ」

 ため息をつきながら俺はガルペラ侯爵が待つ部屋へと入っていった。
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