【完結】愛する夫の務めとは

Ringo

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暴かれる

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 王太子妃としてマクシミリアンの隣に立つミレイユは、貴族らとの挨拶をこなしながら視界の端で常にセドリックの姿を捉えていた。

 そして嫉妬に駆られる。

 セドリックにエスコートされているのは当然ながら妻レイチェルであり、逞しい腕に腰を抱かれる様子が気に入らない。

 自分にはしてくれないのに、と。

 やがてセドリック達が挨拶に訪れ、レイチェルの姿を間近で見たミレイユはほくそ笑んだ。

 疲労の色が窺える様子に、が効いていると思って。

 このままレイチェルの心が壊れれば離縁を望むかもしれず、そうなればセドリックは城へ戻ることになるので関係を続けることも容易。

 今は遠慮して一線を引いているセドリックも、独り身に戻れば素直に自分を求めるはず。

 だっていつも立派に勃たせているのだから。


「では、私たちはこれで」


 当たり障りない言葉を交わしている時も立ち去る時も、セドリックの手はレイチェルの細い腰を抱いている。

 だがそれも今だけだと内心で笑い、哀れなレイチェルの後ろ姿を見送った。






 人混みを避けてバルコニーへと出たふたり。

 ちょっとした休憩所にもなっているそこにはソファが置かれ、並んで座るとレイチェルはセドリックの肩へ凭れ掛かる。

 人目を避けているとはいえ珍しく外で甘える妻を優しく抱き締めた。


「ごめんね、やり過ぎちゃった」


 疲労の原因である腰を擦ってやるとレイチェルが上目遣いでジロリ睨むも、ご機嫌なセドリックに効果は無い。

 むしろ「可愛い、好き、その目堪らない」と劣情を煽り危うくその場で始まりそうになった。

 ミレイユは勘違いしているがレイチェルの疲労はセドリックとの行為が長く激しかったせいで、言葉数が少ないのは散々に啼かされて声が掠れたからである。








 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼






 それから月日が経ち。

 5度目の房事が恙無く終わるも、やはり暫くすると月のものが訪れたミレイユ。

 子が出来ない理由は王太子妃にあるのではないか…レイチェルが第二子を身篭ったことでそう囁かれるようになった。


「…いつの間に……まさか別の男の子じゃ…」


 当然父親はセドリック。

 数少ない限られた時間の中で愛し合っていたふたりだが、その度にセドリックは大量の子種を注ぎ変わらぬ愛情を示し続けていた。


「あの女ばかり…なんなのよっ!!」


 公にセドリックの子を孕むレイチェルに対し憎悪すら湧いてくる。

 たとえ自分がセドリックの子を宿しても父親となるのはマクシミリアンで、愛の結晶である我が子をセドリックが抱き上げることはない。

 苛立ちながら王城内を歩いていると、若いメイド達のお喋りが聞こえてきた。


「そういえば聞いた?妃殿下の噂」

「あ~…うん、そうなんじゃない?」

「どうするのかしら」

「確かあちらには他にも王女殿下がいらっしゃるのよね?その可能性もあるかもよ」


 背中に嫌な汗が流れる。

 確かに嫁いできたのは友好の証としてだが、それはミレイユでなくてもいいこと。

 3人の妹がおり、すぐ下の妹に至っては年が違わない双子で面立ちから体格まで瓜二つ。

 もしその妹との交換を王家が望んだら…

 焦ったミレイユは避妊薬の服用をやめ、セドリックの子を身篭ろうと決めた。

 飲み続けたのは出来るだけ長い間セドリックとの房事を続けたかったからで、愛する人の子を孕むのは吝かではないのだ。

 それにミレイユが孕めば余所余所しいセドリックの態度も軟化するかもしれない。


「ふふっ、わたくしの子の方が愛されるわ」






 しかし、6度目の房事は訪れなかった。






 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼






 セドリックとの房事を迎えるはずだった日、その部屋に姿を見せたのはマクシミリアン。


「え……殿下……?」


 一瞬見せた落胆の表情にマクシミリアンは眉を顰め、分かっていたことだがと嘆息した。

 そして側近からを受け取るとミレイユが寝そべっている寝台へと投げる。


「なに………っ!?」

「随分とうまく手を回していたようだな。見つけるのにだいぶ苦労したよ」


 寝台の上に転がるのは2の小瓶。

 温度のない声音にミレイユの体は震え出した。


「避妊薬だけでは不安だからと堕胎薬まで飲むとはな…知ってるか?王家の子を殺すことは何よりも重罪であると」


 それは万国共通の認識。

 ミレイユの祖国でも王族殺しは重罪であり、如何なる立場であろうと処刑される。


「わた、わたくしはまだ孕んではなく、」

「だろうな。セドリックと少しでも長く関係を続けたかったんだろう?」


 もしかして助かるかもしれない…そう希望を抱くも、マクシミリアンの瞳は冷えきったまま。


「せめて避妊薬だけに留めておけばいいものを…堕胎薬まで用いたのは悪手だったな。捕らえろ」

「っ、いやぁぁぁぁっ、やめっ、やめてっ!!セドリック様!!セドリック様ぁぁぁぁ!!」


 拘束され、猿轡を噛まされたミレイユは王太子妃の部屋から地下室へと秘密裏に移された。

 そこでもセドリックの名前を呼び続け、そのうちに子を孕んでいると言い出す。


「セドリック様の子よ!!わたくしはセドリック様に愛されているの!!セドリック様の妻になるのはわたくしよ!!」


 友好国から迎えの使者が来るまで薬で眠らされるようになり、その日が来た頃には薬を使わずとも朦朧とした状態になっていた。





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