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迷惑はかけたくない

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「あっ…」

「え?あら…」

「ん?」


ラシュエルのお泊まりから2日…既にラシュエル不足からなる禁断症状が出始めてしまったので、軽くイチャイチャ出来るように今日のランチはあまり人の来ない場所にしよう!!と校舎から少し離れた場所に用意してもらって過ごしていたのだけれど…


そこにやって来たのは噂の編入生。名はたしか…


「やぁ、こんにちは。確か…特待編入生のアイシャ嬢だったかな?僕はマリウス・ジュラ・シャパネ、一応この国の王太子ね。こちらは婚約者でノビエラ公爵家長女のラシュエル」

「ラシュエル・ノビエラです」

「お初にお目にかかります、王太子殿下、ノビエラ公爵令嬢様。アイシャと申します、平民ですので家名はございません」


なるほど、礼儀と令嬢としての作法もきちんと心得ているようだ…それにしても、話に聞いていたより覇気がない?元は、もっと明るく聡明な女性だと聞き及んでいたが……


「頭をあげて…ところで、具合でも悪い?なんだか物凄く疲れているような雰囲気だけど」

「ご心配頂き有り難う存じます。具合は…少々寝不足なだけでございます、学園の課題や授業についていこうと必死なもので…お目を汚しまして申し訳ございません」

「いや、そう言う意味じゃなくて…」


ん~…どうしたものだろう、明らかに体調不良を押し隠しているし何か対処しているようにも思えない。特待生には生活の全てが保証されているから、薬などの処方も無料でされるはず。だとすれば…


「ねぇ、アイシャさん…良かったらお昼をご一緒しません?わたくし達もこれからなの。たくさん用意してくれているから、ひとりくらい増えても問題ないわ」

「…い…いえっ、そんな恐れ多いです。それと、私のことはアイシャとお呼びください」


ラシュエルの誘いに対して明らかに喜んだ…いや、ホッとした?にも関わらず、まぁそりゃぁ断るよな。


「いつも僕がラシュエルを独占するばかりに、女の子と交流させてやる時間もないんだ。僕の償いのためにアイシャ嬢が付き合ってやってくれないか?」

「っは、はい、私で宜しければ…」

「えぇ、アイシャにお聞きしてみたいこともあったし、是非ご一緒してください」


軽い王太子命にしたことにも気付く機転の良さ…平民として培ったとは思えない礼儀作法…どれだけの努力を積み重ねてきたのか分かる。だからこそ分からないのは、何故…彼女がだ。先程までの警戒心の理由が気になる。

…どうやらラシュエルも気付いているようだし、ここは女性同士で任せるのがいいだろう。それにしても、やっぱり僕のラシュエルは素晴らしい。


「……お噂通り、仲が良ろしいんですね」

「え?」

「あ、申し訳ございませんっ!あの、」

「いいんだよ、僕はラシュエルに触れていないと死んでしまう病気だから気にしないで」

「そう、気にしていたらキリがないわ」


お?つい人前で頬にキスをしたのに拒否しないと言うことは、ラシュエルが少し牽制してる?…可愛いんだけど!!

(この時、控えている専属騎士サミュエルはマリウスの昂る感情に気付いてニヤニヤしていた。思わぬラシュエルの反応に浮かれているマリウスが面白くて)


「どうぞ、お座りになって」

「…ラシュエルは僕の膝の上でしょう?…はい、ごめんなさい調子に乗りました。でも離れないでね」


これはさすがに駄目だったけれど、腰を引き寄せるのはいいらしい。僕の牽制にもなるから、今後の参考になる。


「アイシャは嫌いなものはある?」

「いえっ…どれも食べたことのないような素敵なものばかりで…美味しそうな匂いだけでも満たされそうです」

「そうよね!わたくしも初めて頂いたときは感動したの。味も保証付きよ、是非たくさん召し上がって」

「ありがとうございます、頂きます」


侍女が取り分けた料理を受け取り…食事のマナーも綺麗に仕上がっている。本当に平民?予備院に通ったり家庭教師だけでこんなに仕上がるものなの?ラシュエルもビックリしてるし。


「…あの…私、何か粗相してますか?」

「いいえ、とても綺麗な作法をされているから…ごめんなさい、偏見と取られてしまうと思うのだけれど…」

「いいえ、むしろ有り難いです。教えてくださった先生方にご報告致します、ノビエラ公爵令嬢様にもお言葉を頂けたと」


ふわりと笑うアイシャ嬢は、本来なら可愛らしい女性なのだろう…

適度に息を抜かせつつラシュエルが会話を続けているから、どこかで糸口が見つかるとは思うけど…


「食後のデザートも召し上がってね、今日はわたくしの大好きなチョコレートタルトなのよ」


ラシュエルも久しぶりに女生徒と話すから楽しそうだし…う~ん、今日もラシュエルはいい香り。公爵に頼んで次のお泊まり増やしてもらえないかなぁ。


「ねぇ、アイシャ…少し踏み込んだことを聞いてもいいかしら、気分を害すようなら答えてくれなくてもいいわ」

「……どういったご質問でしょうか」

「この学園の生活で困っていることはない?あなたの力になってあげたいの」


明らかな動揺…迷い…ラシュエルに頼っていいのか、迷惑はかけたくないと遠慮してるってところかな?


「王立と名を冠している以上、この学園で問題が起きているならそれは王家管轄として扱う必要があるんだ。言うなれば小さな国だと思ってくれればいい。生活に不安を抱いていたり困っている国民がいるなら、どうにかして改善出来ないかと可能な限り向き合いたい」


…まだ迷いが抜けないか。


「アイシャ…国として考えられなくても、そうね、家庭内の出来事だと置き換えてみて?家族が悩んだり困っていたら…特別な理由がない限りは助けになりたいと思うんじゃないかしら」


特別な理由…家庭によっては、家族だからこそ言えない人も少なからずいるからね。孤児が減らないのも理由のひとつだ。


「……おふたりの治世は安泰ですね」

「アイシャ……」

「お話しします。正直…もう私だけではどうにも対応出来なくなってきていたので…っごめんなさい、、」


言い切る前に溢れ出す涙。


「大丈夫よ、もう苦しまなくて済むように話し合いましょう。折角たくさんの努力をして編入されたんですもの、勉強だけではなく他にも楽しんで貰いたいことが沢山あるのよ」

「…っノビエ、ラ…こ」

「ラシュエルと呼んでくれる?」

「っ…ラシュエル様…ありがとうございます」

「まずは温かいお茶を用意してからにしましょう、丁度二年生の午後の授業は開始が遅い日ですし」


……やっぱりラシュエルは素敵だ。ラシュエルとだから立ち続けられるし立ち続けたいと思う。

(その時サミュエルは、このラシュエルの姿をハウルに教えて恩を売ってやろうと算段していた。感動は勿論している)




そして、アイシャの涙が落ち着く頃を見計らって温かいお茶がそれぞれに出され、ひとくち飲んで深呼吸をしたアイシャは自身を落ち着かせるように、ゆっくりとその現状を話始めた。






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