【完結】365日後の花言葉

Ringo

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あと1ヶ月

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改めて結婚式を執り行うと決めてから、必要とされる事の多さに目を回す忙しさに追われていた。


「お疲れさまでございます、お嬢様」

「ありがとう、ミーシャ」


サロンでミーシャお手製のハーブティーに癒されて、ここ最近のフリードリヒとの日常に思いを馳せる。


ここ最近のフリードリヒは…


なんというか……


「ジュリエンヌ」


招待客の件でお父様と打ち合わせをしていたフリードリヒが戻り、慣れた様子で隣に座ると…軽く触れるだけの口付けをしてから、腰に手を回して優しく抱き寄せる。

ミーシャがフリードリヒの分のお茶を用意するまでの間、おろしたままでいる私の髪の毛に指を通したりくるくると弄ったり‥


とにかく甘い!!!!


もう離れたくないし、恥ずかしさはあれど嫌ではないので身を任せているが…いつも顔が赤らんでしまうくらいに未だ慣れない。


「…まだ細いね」


スルリと腰を撫でられて、不意の行為にビクリと反応してしまうが…その反応をも楽しむフリードリヒは決まって「可愛い、愛してる」と微笑んでから口付ける。


「うぅ…楽しんでるっ」

「ジュリエンヌは俺の生き甲斐だからね」


改めて結婚式を執り行うと公表されたにも関わらず、フリードリヒの元には多くのご令嬢から恋文が届けられているらしい。

教えてくれたのは私を揶揄いたいお兄様だけれど、それを知っても悲しみはなく、むしろ焼きもちを妬いた私はフリードリヒを喜ばせた。


「フリードはすっかり逞しくなって…またお手紙が届いたんでしょう?」


服の上からも分かる筋肉に手を這わせば、この人を狙う令嬢達の姿が浮かんでイライラしてしまう。


「騎士団の演習場にもたくさんの人が来ていると聞いたの…」


フリードリヒはハッキリと拒絶の態度を示しているのにもお構い無く、彼の恋人や愛人にでもなるつもりなのだろうかという勢いで押し掛けてきているらしい。


「……私のフリードリヒなのに」


彼の厚い胸に手をあてて、苛立つままに眉間に皺を寄せて彼を見上げれば……それはそれは嬉しそうに笑っている。

そしていつものように触れるだけの口付けを何度も交わして…


「本当に可愛い…ごめんね、嫌な思いばかりさせてるよね」

「…フリードが悪いわけではないもの」


寄ってしまった皺を解されて、大好きな柑橘系の香りがする胸にぽすん…と顔を埋めれば、硬くて大きな手が優しく頭を撫でて髪を梳いてくれる。

何よりも大切な人。

守ろうとしてくれる強い思いに応えたい。



これから先、またマリーベルのような女性が現れるのかもしれないれど…それでも私はもう負けない。フリードリヒから離れない。

悲しいことや傷つくことがあれば、迷わず彼を頼りふたりで乗り越えていきたいと思う。それを彼は許して受け止めてくれると信じられる。


「…どこの誰にもフリードは渡さない」


国内の令嬢達や夫人達…たとえどこかの国の王族にだって渡さない。私の唯一。


「誰にも渡さないで…俺もジュリエンヌは誰にだって渡さないから」


やり直しを選んでから、もう何度口付けたのか分からない。伝わる体温がとても温かくて、痛む心には一番効く魔法みたいだと思える。

気付けばいつの間にかミーシャもいなくなっていて、サロンの扉は爪先くらいにほんの少しだけ開かれただけの状態にふたりで笑い合う。


「一応まだ婚約者だからね」

「……早くフリードのお嫁さんになりたい」


結婚式まであと1ヶ月。

式が終わればそのままサンドリヨン公爵家所有の別荘に向かい、3ヶ月の蜜月が与えられるのだと教えてもらった。

通常ではあり得ない長さの蜜月に驚けば、公爵からの提案なのだと聞いて二度驚いたもの。

長期の休みのために無理はしていないのかフリードリヒに尋ねたけれど、何も問題はないとしか返ってこず…素直に甘えさせてもらうことにした。


「別荘で過ごす3ヶ月間はひとときも離さないから…覚悟しておいてね」


甘く艶やかにそう言われてしまえば、私の頬は赤く色づくばかりで…上がる体温に羞恥を覚えながらも、這わされる不埒な手の動きすら喜びに変わる。

待たせてしまった時間の分、フリードリヒが求めるものにはすべて応えたい…けれど、


「あ、その…お手柔らかに……」


恥ずかしくて俯きたいのに、顎を優しく掴むフリードリヒにそうはさせてもらえず。


「……それはどうだろう…善処する」


困ったような言い方なのに、鷹揚な雰囲気は流石公爵家嫡男といったところだろうか…そんな事を考えていたら、あっという間に顔が近付き重なる唇。

触れ合う唇から入り込むものを当たり前のように受け入れるようになり、いつからかその先をも本能的に求める自分がいる。


「……っ…」


どれだけ繰り返しても息継ぎはうまく出来なくて、そのたびに少しだけ唇を離してはフリードリヒが柔らかく笑い、再び重ねられる。

どこまでも優しくて、どこまでも意地悪な人。




そして、誰よりも愛しい人。





***


(フリードリヒ視点)




うまく息継ぎが出来ずにいるジュリエンヌの為に唇を離すと、それが不服とでも言いたげな目をする姿が堪らなく可愛い。

悪夢となった夜会から、どうしたって諦められなくて恋い焦がれて…もしも取り戻すことが叶わないのなら、本気で生きていけないとさえ思っていた。


「ジュリエンヌ……」


合間に名を呼べば、蕩けた瞳で見つめ返され…返事をしようと開かれた唇をすかさず塞いで言葉と吐息を奪う。


(…3ヶ月じゃ足りない)


本来なら既にジュリエンヌは俺の妻となっており、もう子が出来ていてもおかしくなかった…そんなことを考えてしまうと、その未来を潰したマリーベルに怒りが甦り、さらに日頃付きまとってくる女性達にも苛立ってしまう。

ジュリエンヌから伝わる体温と愛情がなければこの怒りを抑える事はできず、その意思を汲んだ父親から3ヶ月の蜜月休暇を与えられたときは歓喜した……その代わりと与えられた仕事は激務だけれど、ジュリエンヌとの時間を思えば容易いもの。


「……はふ…っ」


ジュリエンヌにくたりと凭れてかかってほしくて…限界まで堪能すれば、可愛く息を漏らして腕のなかに捕らわれてくれる。


(俺の唯一……)


結婚式が延期となった時、ジュリエンヌの元に多くの釣書が送られてきたのだと聞いた。

国内はもとより、隣国の王族からも届いたのだと。

ジュリエンヌの意思もあり、それら全ては丁重に断りの返信をしたのだと聞いたが…未だにジュリエンヌを狙う輩は数多い。

中には、純潔を奪えば手に入れられるなどと戯れ言を話す者もいて…


「ねぇ、フリード…最近、騎士団のなかで怪我をする人が増えたって聞いたのだけど…フリードは大丈夫?」


まだ頬を染めたままくたりとしていて、ゆるりと顔をあげるジュリエンヌからは色香が漂う。

(…俺と一緒のとき以外は外出もさせたくないな)


「大丈夫だよ、心配ない」


そう…心配ない。

怪我をしたって言っても骨が折れた訳でもないし、ジュリエンヌを不埒な思いの対象にした罰にしては軽すぎるほどだ。


「無理しないでね」


叩きのめしているのが俺だとは教えられないけれど、純粋に案じてくれているジュリエンヌには無駄な心配をさせたくない。

散々交わし合ったしたせいで赤く腫れてしまった唇を指で撫ぞり、額にそっと口付け抱き締める。




待ちに待った結婚式まで、あと1ヶ月。






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