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夫の執務室 side妻

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王太子殿下と王女改めミリナリア第一側妃様の結婚式から四ヶ月…ご懐妊が公表された。
そして結婚式から一月後に第二側妃様、その半月後に第三側妃様が簡略式ののちに娶られたのだけれど、おふたりとも懐妊の兆しがあるらしい。


「…そろそろ限界ね」


三年経過しても懐妊されなかった妃殿下。
王太子殿下に原因があるのでは…と囁かれてもいたけれど、三人同時の懐妊となり払拭された。
そして、未だ執務を放棄し離宮で横暴な振る舞いを続けていることが少しずつ外に広がり、今では殆どの貴族が知ることとなっている。

三人の側妃を娶った殿下への嫉妬も酷いもので、とても公務に伴う事は出来ない状態らしい。
そうなると、当然廃妃の声があげられる。
公務・執務・世継ぎのいずれも担えないのなら、担える者に移譲すべきだ…と。
その対応で夫は連日激務。
仕方ないとは言えやはり寂しいもの。
もう何日もまともに夫の顔を見ていない。

私は私で公爵夫人として担っている仕事の他、多忙な夫の当主代行として執務や業務に追われており、夫の帰りを待つ間に寝てしまい…早朝に起きるも夫は出仕したあと…な日々が続いている。

隣に夫の温もりがない事を寂しく思うが、仕方のない事だからとのろのろ起き上がれば…夫の残滓が溢れる事がしばしば。
その都度恥ずかしくなってしまう。
夫に攻められていても起きないなんて、どれだけ私はぐっすり寝ているのだろうか。
そして…いつもは綺麗に事後処理をしてくれているのに、そうしない夫の気持ちを思うと会いたくて余計に寂しくなってしまう。

同僚や部下の多くは泊まり込みをしているそうだが、夫はそれを拒否し帰宅している。


『妻の隣で眠れないと死ぬ。そして死ぬ時は妻の傍と決めているので俺は帰る』


真顔でそう公言しているらしく、その代わり早朝から深夜まで働きづめの状態だそうだ。
体への負担を考えれば心配だけれど…嬉しい。
身体中に残されている赤い印と、いつも以上に多く溢れてくる名残から伝わってくるのは夫の愛情と…強い独占欲。
私も同じだけ返したい。


「……よし、差し入れしましょう」


今日は少しだけ時間が取れる。
夫の好物を料理長に頼んで、軽食の差し入れに行きましょう!……だって会いたいから。






◇◇◇◇◇◇






夫は私がひとりで登城することを認めていない。
ひとりで外出すること自体ダメなのだから当たり前なのだけれど、今日ばかりは許してほしい。


「ハーネスト公爵はとてもお疲れですが、奥様がいらしたとなればお喜びになられますね」

「そうだといいですわ」


夫の執務室まで案内してくれるのは、来客者対応を職務とする城内騎士。
多忙と分かっていて、夫や部下は呼び出せない。
城内騎士を先頭に、私とその後ろには専属侍女と公爵家の騎士が連なり歩いているが…すれ違う王城勤めの人達は揃って疲れた顔をしている。
感情を出さぬよう教育されているだろうに、それでも隠しきれない程…なのだろう。

やがて夫の執務室前に到着し、そこまで案内してくれた城内騎士が扉を叩こうとして…中から聞こえた声にその動作を止めた。
私も、先程まで夫に会える嬉しさに速まっていた鼓動が違うものへと変わっている。


「だから早く抱いてって言ってるの!!」


騎士の気遣わしげな視線を無視して、今にも爆発しそうな激情を抑えながら自分で扉を叩き、震えそうになるの声を絞り出した。




「旦那様、ベルエアです」




途端、バタンガタンと響く物音。
そして聞こえる女の声。


「ちょっと!話はまだ終わっていないわ!!」

「ベルエア!?」


勢いよく扉を開けたのは夫。
そしてその夫の後ろから上衣を掴み引っ張っているのは、やはり…だった。
部屋の中には夫の部下達もいて、一様に怒りとも憐れみともいえる眼差しを向けている。
ただでさえ忙しいというのに…しかもその原因であると言うのに。
どのようなつもりか知らないが…知りたくもないが、あろうことか夫の部屋で夫に向かって言う台詞ではない。

───そんな事も分からないから……っ…

沸々と沸き上がる怒りを抑えて礼の姿勢をとり、無礼を承知で私から声をかけた。


「お久し振りでございます、妃殿下」


臣下である私から声をかけたことに顔を歪めさせたが構うもんか…さっさと夫から離れなさい。
……腕に絡み付くんじゃないわよ!!


「誰かと思えば。あぁ、そうだわ…公爵、下賜の件よろしくね」

「その件は伯爵にお断りしております。離してください、迷惑ですので」


絡み付く腕を引き剥がそうとする夫に、しつこく纏わりついては胸を押し付けている妃殿下。
着用しているドレスは今にも胸が露になりそうなほど大胆なもので、まるで娼婦だ。
今すぐひっぱたいてやりたい。


「いいじゃないの。第一夫人として、第二夫人にもあとで挨拶に伺うわね」

「おい、離宮へお連れしろ」

「っ、、ちょっと触らないで!私に触れてもいいのは殿下と公爵だけよ!離しなさい!!」


ぎゃあぎゃあと暴れ喚きながら、妃殿下は騎士に連れていかれた。
その様子を黙って見送る私の横を、中にいた人達が一礼をして通り過ぎていく。
ついてきてくれた侍女からは、差し入れの為に持参したバスケットを手渡された。


「ベルエア」


グツグツと腸が煮え返っている私は夫に名を呼ばれても振り向かず。

やがて腰に手が回り、室内へと引き込まれた。









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