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おまけ話《美乃里》

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「で?相談ってなに?」

「えっと……」


 男女交際に明るい従兄にしたのは恋愛相談。

 入社してから4年、同じ人に片想いをしてる。

 部署が違うから交流はなくて、業務上で言葉を交わす事はあっても数えるほどしかなく、“総務の人”くらいには認識してるかもだけど私の名前すら知らないと思う。


「へぇ…男に興味無いと思ってた。今まで彼氏なんていなかったから」

「別に興味が無かったわけじゃないもん」


 母方祖父母の意向で幼稚園から大学まで一貫した女子校に通っていたから、交流を図るような相手がいなかっただけ。


「美乃里の学校、超お嬢様学校だったもんな。今どき政略結婚があるとか凄い世界だよ。俺の知ってる女子校とは大違い」

「…………」

「しっかし法務部の水野課長ね~…正直言うとやめた方がいいとしか言えないな」

「……どうして?」

「特別女癖が悪いとは聞かないけど、あの見た目で高給取りなのに未だ独身…うまくやってるんだろうけど、それなりに遊んでるぞ」

「…そうかもだけど…」

「俺も見たことあるけどさ…なんつうかお前とは違うタイプばっかりだし、従兄妹としては応援しづらいのが本音」


 彼が連れている女性を私も見たことあるけど、確かにみんな綺麗な人ばかり。

 モデルみたいに長身でスタイルが良くて、彼と並んで歩く姿はお似合いだった。


「泣くなよ…そんなに好きなの?接点なくね?」


 入社して間もない頃、懇親会でセクハラ行為をしてくる人から助けてくれた。

 肉親くらいしか男性との関わりがなくて、凄く怖くて泣くしか出来ない私を背中に庇い、冷静に相手を問い詰める姿に安心したのを覚えてる。

 その後の対応は法務部の女性に変わったから彼との交流はなく、お礼を言えたのは次に顔を合わせた半年以上もあとのこと。

 彼は最初、私が誰か気付かなかった。


『あぁ、あの時の。その後困ったことは無い?何かあればすぐに相談して。窓口は年中無休の24時間体制だから』


 事務的な会話だけで終了してしまい、それからも書類の受け渡しで一言二言交わすだけ。


「……そういえばそんな事もあったな。で、それからずっと片想いをしてるわけか…でもなぁ…」


 従兄の言いたいことは分かる。

 彼女…らしき人達に比べたら女性としての魅力なんてないし、今までお付き合いの経験もない。

 色んな意味で大人の男性な彼と釣り合うはずもなくて…だけど気持ちは消えてくれないの。


「…………しゅうくん…処女ってどう思う?」

「え、美乃里って…まぁそうか、あの環境にいればそうなるよな…ん~…処女自体がどうとは思わないけど、人によっては面倒くさい…かな?」

「……面倒…」

「だって責任取れとか言われそうじゃん。流石に重すぎるって。それなりに経験してる方がいい」

「……責任…」


 その後、近くで飲んでいた2課の人達が合流する事になり、先に帰れと言われて解散した。






.。*゜+.*.。☆゜+..。*゜+。.゜☆.。*゜+.*.。.






「お見合い……か」


 お付き合いしている人がいないなら、と祖父母がお見合い話を持ってきた。

 このまま片想いを続けても彼とどうこうなる未来はないし、それならこの話を受けるのもひとつの道なのかもしれない。

 従兄曰くの政略結婚をした友達も、今では旦那さんが大好きになったって言ってるし、子供も生まれて幸せそうにしている。

 結婚してから恋愛するのもアリ…なのかな。

 そんな事を思いながら歩いていると、突然後ろから腕を掴まれた。


「待って……っ」


 誰!?と思い振り向けば水野さんで、予定がないなら飲みに行こうと誘われ、こんなチャンス二度とないと思って快諾した……けど、まさかその日に夢が叶う事になるとは思わなかった。






.。*゜+.*.。☆゜+..。*゜+。.゜☆.。*゜+.*.。.






 結婚してから10年。

 匿名の人物から手紙が送られてきました。

 中には写真が同封されていて、夫と綺麗な女性が並んで歩く様子を写したものや、その女性と楽しそうに笑い合って食事をしているもの等々。

 抱き合っている写真なんかもあって。

 それらを出張から戻って早々に差し出してみれば、面白いように固まる夫。


「会いたかった…………って、は?何これ」

「今日送られてきたの。よく撮れてるわよね。これなんか夜景まで綺麗に写ってる」

「……分かってると思うけど違うからな?何も無いからな?まさか疑ってないよな?」


 何も言わずニッコリと笑ってキッチンに向かえば、夫が「誤解だ」と焦りながらついてくる。

 今夜は夫の好きなビーフシチュー。

 朝から時間をかけて煮込んだからお肉は柔らかいし、子供達も美味しいと言っておかわりした。


「美乃里…違うから、誤解してるから」


 シチューをかき混ぜる私を後ろから抱き締め、ひたすら「違う」「誤解」だと繰り返す。

 あまり意地悪をするのも可哀想だな…と振り向いた瞬間に強く抱き締められ、泣きそうになっている夫に罪悪感が湧いた。


「分かってる。意地悪してごめんなさい」

「……紗也加を女として見たことなんてないし、ハグも別れ際に挨拶としてしただけで…別に意味は無い。そもそもあの瞬間は翔太郎もいた」

「うん、知ってる。ごめんね?」


 撮られた写真は紗也加さん家族が一時帰国した時のもので、抱き合っている写真だけは不自然に拡大されていた。

 恐らくは近くにいるはずの旦那さんを切り取ったんだと思う。

 誰がこんな事をしたのかは分からないけれど、私達夫婦に波風を立てたい事は察せられる。


「分かってるけど嫉妬しちゃった」


 ピクリと反応した夫が顔をあげて、熱を孕んだ目に射抜かれた。


「……嫉妬?」

「だってふたりとも素敵なんだもん。何も無いと分かっていたって嫉妬しちゃうわ」

「俺が愛してるのは美乃里だけだよ」


 だけど嫉妬は大歓迎…と言いながらキスをし、お鍋の火を止めてまた抱き締められた。










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