舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
上 下
190 / 255
第19章

第189話 例解する記述と展開する現実

しおりを挟む
 川に差しかかった。川だから、当然水が流れている。乾ききった川というのもあるが、人がそれを川と認識できるのは、かつてそこに水が流れていたことを知っているから、あるいは、推測できるからなので、川と認識するために水の存在は必須といえる。

 向こう岸まで渡れるように、巨大な岩が川の途中に配置されていた。たぶん、本当に人工的な意味で、それは配置されているのだ。橋がないからその代わりだろう。経済的にも、景観的にも、岩を配置する方が良いのかもしれない。

 皿はその岩の上に続いていた。川とは流れる水だから、当然、その上にまで皿はない。皿は岩の上をとびとびに並んでいる。なるほど、これがとびとびなのか、と月夜は納得した。とびとびという言葉が、彼女の中にだけあるものなのか、世間一般にもあるものなのかは分からなかったが。

「さあ、行こう」

 月夜の腕の中でフィルが呟いた。

「もう、行っている」月夜は岩の上を歩きながら応える。

「きっと、この先にルゥラがいるはずだ」

「そうでないと、これまでの道程に意味がない」

 足もとを流れる水の速度は、比較的穏やかだった。さらさら、という表現が似合うだろう。さらさらといえば、髪にもその表現が使える。流れる水と、髪で、どのような共通点が見出せるだろうか。

「こういう場所を歩くのが、一番苦手なんだ」フィルが言った。「お前に抱っこしてもらえて、嬉しいよ」

「抱っこ?」

「猫は水が嫌いだというが、あれは嘘だ。動物は皆水が嫌いなんだ。人間だって、下手に濡れるのは嫌だろう?」

「飲むのは好き」

「そういえば、喉が渇いたような気がするな。月夜、ちょっと、そこの水を飲ませておくれよ」

 言われた通り、月夜は一時的にフィルを岩の上に下ろし、彼に水を飲ませる。飲ませるといっても、おい、飲め、と言えるだけで、実際に飲むか否かを決断するのは本人だから、そういう意味では、飲ませることはできない。

 舌を水面に浸らせ、フィルは如何にもそれらしい仕草で水を飲む。如何にもそれらしいと感じるのは、彼が猫の見た目をしているからか、それとも、彼が如何にもそれらしく見えるように工夫しているからか、どちらだろうか。

 水を飲み終えたフィルを再び抱えて、月夜は先へと進む。

 残る岩は多くない。

 反対側の岸に辿り着いた。そちらには林が広がっている。

 月夜はその場に立ち止まる。

「もう、皿がない」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

処理中です...