178 / 255
第18章
第177話 voice
しおりを挟む
ルゥラに料理を食べてもらった。もらった、という表現はあまり好きではないが、ほかの言葉で同じニュアンスを再現しにくいため、仕方がない。ここのところの塩梅を上手く調整しないと、どうでも良いことでいつまでもくよくよ考えることになる。
「焼いただけでも、美味しいね」ルゥラが感想を述べた。「焼いただけなのに」
「焼かなくても、美味しいかもしれない」月夜は真面目に応答する。
「キャベツも、切っただけなのに、美味しい」
「切らなくても、たぶん美味しい」
ルゥラは箸の持ち方が変だ。普通、二本の内上に来るものだけが動くが、彼女は両方ともを動かしている。別に、食べられれば何でも良いわけだから、いちいち指摘するようなことではないだろう。
「月夜は食べないの?」ルゥラが首を傾げる。
「食べない」
「どうして? 一口あげるよ。あ、いや、一口じゃなくても、いくらでも。一緒に食べようよ」
「食べない」
「なんで?」
「ルゥラにあげたものだから」
「月夜が作ったものでしょう?」
「そうだけど」
「そうだけど?」
「ルゥラにあげたものだから」
ルゥラは声を上げて笑った。口にアジが入ったままガハハと笑うものだから、飛沫やら何やらが空気中に舞った。
月夜は布巾で彼女の口もとを拭いて、やる。
「じゃあ、フィルにあげようかな」
ルゥラの隣で丸まっている黒猫に向かって、彼女は声をかける。
「いらない」丸まったままフィルが声を出した。
「どうして?」
「お前が貰ったものだから」
「なんか、二人とも変なところで律儀だよねえ」ルゥラは目を瞑ってうんうんと頷く。「尊敬しちゃうなあ」
給湯器から風呂が沸いた合図が聞こえた。お風呂が沸きました、と聞こえる。如何にも風呂が自分で沸いたかのような表現だ。しかし、お風呂に沸かれましたとか、お風呂が沸かされましたでは違和感を覚えるので、やはり最初の表現で合っているのだろう。
「じゃあ、私は風呂に入る」そう言って月夜は立ち上がりかけた。
「ええ、なんで!?」ルゥラが大きな声を出す。「一緒に入ろうよ」
「狭い」
「いいじゃん、別に、狭くてもさあ。一人で入るより、二人とか、三人で入った方が楽しいでしょ?」
それは、友達百人作ろうとするのと同じだろうか。
「ルゥラは、今ご飯を食べている。そして、風呂は今沸いた」
「だから?」
「だから、ルゥラはご飯を食べ続け、私は風呂に入る」
「駄目だから」ルゥラは箸の先を月夜に向けた。「許さないから」
「焼いただけでも、美味しいね」ルゥラが感想を述べた。「焼いただけなのに」
「焼かなくても、美味しいかもしれない」月夜は真面目に応答する。
「キャベツも、切っただけなのに、美味しい」
「切らなくても、たぶん美味しい」
ルゥラは箸の持ち方が変だ。普通、二本の内上に来るものだけが動くが、彼女は両方ともを動かしている。別に、食べられれば何でも良いわけだから、いちいち指摘するようなことではないだろう。
「月夜は食べないの?」ルゥラが首を傾げる。
「食べない」
「どうして? 一口あげるよ。あ、いや、一口じゃなくても、いくらでも。一緒に食べようよ」
「食べない」
「なんで?」
「ルゥラにあげたものだから」
「月夜が作ったものでしょう?」
「そうだけど」
「そうだけど?」
「ルゥラにあげたものだから」
ルゥラは声を上げて笑った。口にアジが入ったままガハハと笑うものだから、飛沫やら何やらが空気中に舞った。
月夜は布巾で彼女の口もとを拭いて、やる。
「じゃあ、フィルにあげようかな」
ルゥラの隣で丸まっている黒猫に向かって、彼女は声をかける。
「いらない」丸まったままフィルが声を出した。
「どうして?」
「お前が貰ったものだから」
「なんか、二人とも変なところで律儀だよねえ」ルゥラは目を瞑ってうんうんと頷く。「尊敬しちゃうなあ」
給湯器から風呂が沸いた合図が聞こえた。お風呂が沸きました、と聞こえる。如何にも風呂が自分で沸いたかのような表現だ。しかし、お風呂に沸かれましたとか、お風呂が沸かされましたでは違和感を覚えるので、やはり最初の表現で合っているのだろう。
「じゃあ、私は風呂に入る」そう言って月夜は立ち上がりかけた。
「ええ、なんで!?」ルゥラが大きな声を出す。「一緒に入ろうよ」
「狭い」
「いいじゃん、別に、狭くてもさあ。一人で入るより、二人とか、三人で入った方が楽しいでしょ?」
それは、友達百人作ろうとするのと同じだろうか。
「ルゥラは、今ご飯を食べている。そして、風呂は今沸いた」
「だから?」
「だから、ルゥラはご飯を食べ続け、私は風呂に入る」
「駄目だから」ルゥラは箸の先を月夜に向けた。「許さないから」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる