舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
上 下
169 / 255
第17章

第168話 art

しおりを挟む
 よく分からない時間に家に帰ってきた。出かけたのは何時頃だっただろうかと月夜は頭を捻る。実際に頭を捻る場合もあるが、今は運動としてそうしたわけではなかった。彼女の隣でルゥラはその運動をしていたが。

 実は、月夜も洗濯物や布団を干したりしている。干したり、と言ってもほかに何か特別な行為をするわけではない。掃除はするが毎日ではない。

 干してあったものを片づけた終えた頃には、日が傾きかけていた。陽光が山に遮られ、微妙な光量でリビングの窓から差し込んでくる。

 リビングにあるソファに座って、ルゥラは手に皿の破片を持ってじっと見つめていた。隣にフィルが座っている。

 街中にはまだ随所に皿が散乱されている。月夜たちにしか見えないので、散乱されていても実質的な被害はないが、本来そこにあるべきでないものがあると気になるものだ。だから拾える範囲で拾ってきた。拾ってもどうにもならない。その内フィルが食べるだろうが、今はそんな気分ではないみたいだった。

「なかなか素晴らしい一品だったな」

 ルゥラが持つ皿を隣から見つめながら、フィルが言った。

「そう?」

「ただ、食べすぎるとよくない。胃の中がごろごろする」

「胃の中って、胃の外もあるの?」

「あるんじゃないか? 胃は腹の中で宙ぶらりんになっているんだからな」

「腹の中って、腹の外もあるの?」

「うん、ないな」

「私、もう、皿の生み出し方が分からなくなっちゃった」ルゥラは伸びをしながら言った。「うーん、スランプってやつかなあ……。どうやって生み出していたんだろうなあ……」

「作りたくなったら作ればいい。芸術とはそういうものらしい」

「フィルは何か作ったりしないの?」

「今、お前との関係を作っているじゃないか」

「関係? それ、どういう意味?」

「うむ。誤解を招くような言い回しだったな」

「有無?」

 フィルとルゥラが話している隣で、月夜は洗濯物を畳む。量が少ないのであっという間に終わった。あっという間というのは言いすぎかもしれない。せいぜいえっという間くらいが妥当だろう。

「月夜は、何か芸術をするの?」

 質問の矢先が自分に向かってきて、月夜は顔を上げた。

「しない」そして単刀直入に答える。

「えー、なんだかつまんないなあ。私一人で作っていてもさあ……」ルゥラはソファの上に両腕を投げ出す。

「勉強も芸術の内に入る?」

「勉強?」顔だけ上げてルゥラは月夜を見た。「勉強かあ……。うーん、勉強ねえ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

処理中です...