舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第16章

第157話 ブラック・アンド・ダーク

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 空が暗い。空気も冷たい。雨が降ってくるかもしれない、と予想する。別に大した予想ではない。具体的に数字で確率を算出しなくても、それくらいのことは普通誰でも分かるものだ。

 リビングに向かってルゥラの様子を見る。彼女は窓際に立っていた。遠くから眺めると、彼女の服がぼろぼろになっていることに気がつく。ずっと見えていたはずなのに意識が向いていなかった。あれだけ動いたら当然だろう。ルンルンも服は着ていたが、果たして物理的な制約を受けるのだろうか。

「どうかした?」ルゥラに近づいて月夜は問う。

「なんだか、寒いね」月夜に目をやってルゥラは答える。「春なのに」

「春でも寒いことはある」

「そうだね」ルゥラは頷いた。「でも、春って言うと、晴れやかなイメージが浮かぶ」

 どうしようかと迷った挙げ句、月夜は後ろからルゥラを抱き締めてみた。ルゥラは突然の出来事に一度身体を強ばらせたが、すぐに力を抜いて窓の外を見続けた。

「月夜の身体、冷たいけど、こうしていると暖かい」

 ルゥラが感想を述べる。

 なるほど、自分が感じているのと同じだなと月夜は思う。

「もう少し、寝ていた方がいいかもしれない」月夜は言った。「体力を消耗しているはず」

「消耗してるよ」

「じゃあ、寝た方がいい」

「うーん、でも、今はあまり眠りたい気分じゃない」

「では、どんな気分?」

「ぼうっとしたい気分」

 意図的にぼうっとすることがないので、月夜にはルゥラの気分がいまいち分からなかった。分からないため許容しようと考える。ぼうっとするということに関して、相手の方がプロフェッショナルだからだ。

「あの人、もう来ないかな」ルゥラが呟く。

「あの人とは?」

「私に取り憑いた人」

「ルンルン?」

「そう」

「また来ると言っていた」月夜は事実を伝える。

「そっか」ルゥラは頷いた。彼女の細い髪が月夜の頬に擦れる。「来てもいいけど、あんまり乱暴しないでほしいな。普通にお話したかった」

「どうして?」

「うーん、どうしてだろう……。なんだか、私のことを知りたがっていたような気がしたから」

「話すことで解決できるのなら、それが一番だと思う」

「解決って、何を解決するの?」

 たしかにそうだ……。

 自分は何を解決しようとしているのだろう……。

「その人と仲良くなったら、もっと楽しくなるかな?」ルゥラは首を後ろに向けて月夜を見る。

 答えは決まっていた。

 分からない、と。

「きっと」けれど月夜は異なる回答を口にした。
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