舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第16章

第156話 直方体の中で

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 ルゥラはまだあまり動けないみたいだったので、月夜は彼女を寝かせておいた。月夜が学校を休む決定を下したことについても、ルゥラは概ね了承してくれたみたいだ。ルゥラは意外と正義感が強いらしい。街に皿をばらまくことは正義なのだろうか。

 ……彼女にとって、それが美しいものであるなら、一つの正義なのかもしれない。

 自室に向かうとフィルがいた。彼は皿を食べることができる。たぶん、食べてもどうにもならないだろう。お腹が膨れることも、胃袋に傷がつくこともない。単に彼の満腹中枢が意味もなく刺激されるだけだ。

「ルゥラはどうだった?」部屋に入ってきた月夜に向かって、フィルが尋ねる。

「比較的元気ではあった」月夜は答えた。「心配なら様子を見てきたら?」

「心配はしていないな。あいつはなかなか頑丈そうだから」

「頑丈? 何が?」

「根性が」フィルは自分で言って自分で笑う。「少々、古い考え方だったか」

「考え方に古いも新しいもない」

「お前の自室は、暫くの間使えそうにないな」皿の上を歩きながらフィルが話す。「床も壁も傷だらけだ。こんなところで勉強していたら、魔女か何かと勘違いされてしまうだろう」

「誰に勘違いされるの?」

「さあ。お前の恋人とかにか?」

「恋人? 恋人はいない」

「ときどきやって来るあいつは違うのか?」

「真昼のこと?」

「そうそう、それ」

 どうだろう、と月夜は考える。フィルにとって恋人というものの範囲がどのように定められているのか分からないが、少なくとも、月夜にとっての範囲に照らし合わせると、真昼はその中には含まれなかった。

「違うと思う」

 フィルに皿をすべて平らげさせるわけにはいかないので、月夜も片づけに参加した。しかし、やはり位置が変わるだけで、絶対量が変わるわけではない。絶対量を減らすにはフィルに食べてもらうしかない。けれど彼はもうお腹がいっぱいだと言う。

「フィルが何でも食べられるのは、どうして?」

「どうしてとは、どういう意味だ?」片手に皿を持ってフィルは訊き返す。

「そういうふうにできているから?」

「そう言ってしまえば、それまでだろう」

「私を食べることもできる?」

「できない」

「どうして?」

「美味しそうじゃないからな」

「この皿は美味しそうなの?」

「直接的に美味しそうとは思わないが、月夜との比較においてなら、そうかもな」

「なるほど」

「何がなるほどなんだ?」

「なるほどと思う自分に、なるほど」

 勉強机の上を見る。以前ルゥラが生み出した皿の内、特にとっておこうと思ったものは、新しく生み出されたものに追いやられてどこかへ行ってしまった。
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