舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第16章

第153話 眠り眼を擦った先に

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 唐突に目を覚ます。周囲の音が聞こえるようになり、遅れてほかの感覚が戻ってくる。

 頬の下に柔らかい感触があった。ルゥラの上に頭を載せて眠ってしまっていたみたいだ。特に眠たかった覚えはないのに、眠ってしまったのは不思議だった。不思議というか不可思議というか……。不思議と不可思議の違いは何だろう。同じような意味を表す言葉が存在するとは、不思議/不可思議だ。

「起きたか」

 すぐ傍から声がする。振り向かなくても誰の声か分かった。

 フィルが手を舐めながら月夜のことを見ていた。

「たぶん、起きた」月夜は答える。

「たぶん?」

 周囲を見渡してみると、ある程度皿が片づけられていることが分かった。自分がどのくらい貢献したのか、月夜は覚えていない。フィルがほとんどを平らげたというわけでもないだろう。

 窓の外が明るくなりつつあった。雨戸を閉めることを忘れていたようだ。

 靴を履いたままだったので、玄関まで行って脱いだ。もう皿の破片を踏みつける心配はなさそうだ。一階にいる限り安全だが、二階に行くのはまずいだろう。そちらはまだまったく片づけられていないし、一階よりも遙かに量が多い。

 いつも起床するのと変わらないくらいの時間だった。たぶん、ルゥラはこのくらいの時間に起きて、毎朝ご飯を作ってくれている。彼女は月夜が起きるよりも少し早く目を覚ます。そうしないと、月夜が学校に行く前に食事を提供できないからだ。

 その日常が今日はなかった。

 だから、少しだけ奇妙な感じがした。

 いや、ルゥラに出会う前まではこれが普通だったのだ。

 もとに戻ったと言った方が正しいのではないか?

 ルゥラが眠っている隣に腰を下ろして、月夜は呆けた顔をしていた。いつもそんな顔をしているかもしれないと思いついて、可笑しくて少しだけ笑ってしまった。

「大丈夫か?」

 フィルが傍に寄ってきて、月夜に尋ねる。

「大丈夫だとは思う」月夜はデフォルトの表情で応じた。「でも、たぶん、少し動揺している」

 フィルは月夜の脚の上に飛び乗って、そのまま丸くなった。今度は彼が眠る番だということかもしれない。

「まだ、あまり俺たちのことを話していなかったな」

 唐突にフィルが言った。

「フィルたちのこと?」

「俺と小夜の関係について」

 月夜は彼の頭を撫でる。

「話してほしいとは思わない。知っていた方が有利になるのは確か。話したくないなら話さなくていい」

「そうだな。一度に全部というのは難しそうだ」

「知らなくても、フィルと小夜のことは好きだよ」
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