舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
上 下
146 / 255
第15章

第145話 ターン・ボウガン

しおりを挟む
 バスを降りて家に帰ろうとした。が、途中で川を見に行きたくなって、上り坂の途中にある下り坂を下った。これは、ついに物理の法則が崩壊したということではない。

 傾き気味の陽光を反射して、川は鈍く光っていた。水面の向こう側で灰色の小さな魚が泳いでいる。フィルは彼らに手を出さなかった。生きているものをそのまま食べたりはしないようだ。

 古ぼけた橋がある。幅の広くない川を渡るために設けられた、申し分程度の橋だ。岩でできていているが、まだ崩れそうな感じはしない。けれど、渡ってみると足もとが留守な感じがした。一段高くなっている両端の切れ目を超えれば、そのまま川にダイブできる。

「川が流れている」フィルが呟いた。

「うん」彼の隣にしゃがみ込んで、月夜は頷く。

「流れているのは川か、それとも水か」

「水」

「では、川が流れているという表現は駄目か?」

「意味が伝わるから、それでもいいと思うけど」

「水が流れることで川になるな」フィルが話す。「では、どの程度水が流れれば、川と呼べるのだろう」

「水の量と、流れる距離による」

「人が川だと認識できるのはどのくらいからだ?」

「このくらい」月夜は眼下に流れる水を指さした。

「流し素麺は川ではないのか?」

「文の意味が明確に分からない」

「流し素麺をする際に竹筒に流すほどの水では、川とは捉えられないか?」

「捉えられなくはない」

「では、川か?」

「川かも」

「海は川か?」

「川ではないかな」

「海は海か?」

「海だ」

 橋を完全に渡りきって、その向こう側の林に向かう。森なのか林なのか山なのか分からないが、ここはちょうど小夜が住む神社の裏側に位置するので、そうすると、月夜の現段階の分類では山ということになる。中途半端な崖の上に、中途半端に木々が立ち並び、山を偽造している。麓にはかつて神社があったようで、小夜のものと同じくらい小さな社が崖の側面に開けられた穴の中に転がっていた。

「どこまで行くつもりだ?」

 背後から声をかけられ、月夜は立ち止まって振り替える。

「小夜の所まで、行く?」

「お前がそのつもりなら、俺は構わないが。しかし、それなら公園の方から回った方が安全だ」

「今日は、こっちから行きたい」

「お前が願望を口にするとは珍しいな」

「フィルとは、これからもずっと一緒にいたいと思うよ」

「何だ、急に」

「願望」

 枝に掴まり崖を登る。制服姿だったが支障はなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

処理中です...