舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第13章

第127話 イシキ

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 遠くの方から鳥の鳴き声が聞こえる。いつも聞こえるから、普段は意識されない。それなのに、どういうわけか意識に上ってくるときがある。そういうとき、人はそこに様々に理由づけをするらしいが、月夜はそうではなかった。単純に、ああ、今日は聞こえるんだな、と思うだけだ。

 自分が人でないからかもしれない。

 ソファに腰を下ろしたまま、月夜はルゥラが作った皿の表面を見つめている。この時間、普段は自室で過ごしているが、今日はルゥラが眠っているのでリビングにいた。皿の表面はざらざらしていて、見た目に反して凹凸が多いことが分かる。見た目と手触りが一致していない。

 なぜだろう。

 自分の側に問題があるのだろうか。

 今はフィルは傍にいない。たぶん、家の中のどこかにはいるはずだが、どこにいるのか分からない。彼は気紛れだから、思い至ったらすぐに行動する。いや、思い至るプロセスすらないかもしれない。

 フィルが傍にいなければ、月夜は言葉を発しない。そうしていると、自分の声がどのようなものだったか、忘れかけるような感覚に襲われることがあった。自分というものを普段から意識していないからだろう。では他者を意識しているのかと問われれば、たしかに自分よりは意識しているかもしれないが、街行く人々の表象を頭の中に作るようなことはしないし、やはり、意識しているとは言いがたい。そもそも、意識しているとはどういうことだろう。意識とは何だろうか。

 眠っている間、意識ははたらいていない。意識とは構造の名前だろうか、それとも機能の名前だろうか。それはともかくとして、意識をはたらかせるためには、まず意識的に意識を捉える必要がある。しかし、その関係はおかしい。もしそれが成り立つのであれば、今度は意識を意識的に捉える意識が存在する必要がある。

 この種の思考が必ずといって良いほど行き詰まるのは、言語を用いて考えているからだろう。つまり、時の直線に支配された考え方をしている。映像ならもう少し影響を緩和できるかもしれない。音楽では駄目だ。音楽と言語は大して変わらない。

 鳥の声が聞こえてくる。

 また、意識した。

 しかし、意識したことを意識した瞬間に、すべてが分からなくなる。

 フィルや、小夜も、こんな感覚に捕らわれることがあるだろうか?
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