舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第13章

第123話 平行線の錯角

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 ルゥラが風呂から出てきた。彼女の髪は濡れると極端に肌に張り付く。バスタオルで拭いても、芯が抜けてしまったかのようにいつまでも垂れ下がっているので、月夜はドライヤーをかけてやった。やった、とやりもらいの表現を使わざるをえない場面がある。あげる、もらうという関係を意識したいわけではないが、仕方がない。

「うーん、久し振りに入ったな、お風呂」ソファに座ったままルゥラが言った。月夜はその前に屈み込んで、彼女の髪を梳かしながらドライヤーをかけている。

「ルゥラは、いつもはどこにいるの?」月夜は気になっていたことを質問した。

「いつも? いつもって、何?」

 ルゥラに問われ、何だろうと月夜は考える。

「普通、ということかな」

「普通? 普通って、何?」

 何だろうと月夜は考える。しかし、その問いに対する答えは少し前に用意していたので、今度はすぐに答えることができた。

「頻度が大きい、ということ」月夜は説明した。「一日、というのは分かる?」

「一日? ああ、太陽が昇って、また降りて、その一回のことを、一日って呼ぶんでしょう?」

「そう」

「でも、それって、何だかおかしくない?」

「何が、おかしい?」

「だってさ、本当は太陽は昇ったり降りたりしていないんだよ。回っているのは地球の方だって、教えてもらったんだ」

「誰に教えてもらったの?」

「え? うーん、誰だったかな……」

「回っているのは地球の方でも、地球で暮らす私たちにはそう見えるんだから、その点は問題ないのでは?」

「その点って、どの点? 点って何?」

「点とは、線にならないポイントのこと。つまり、長さを持っていない」

 月夜の説明を聞いて、ルゥラはとうとう頭を抱え出した。ドライヤーをかけている月夜の手とぶつかる。

「うーん、もうよく分からない。何の話をしていたんだっけ?」

「ルゥラは、いつも、どこで暮らしているのか、という話」

「あ、そうか。それで、えっと、いつもというのは普通ということで、普通というのは頻度? ……頻度が大きいということで、それで……、一日だっけ? 一日というのは、太陽が昇って、また降りてということだけど、それじゃあおかしいじゃんって私が言って……」

「ルゥラが、今まで、一番長くいた場所は、どこ?」月夜は質問の仕方を改める。

「え? うーんと、地球ってこと?」

 月夜は沈黙した。

 誰かと会話をするのは面白いものだ、と感じる。

 これほどまでに伝わらないとは予想していなかった。

 どうやったら、きちんと伝わるだろうか?
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