舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第12章

第115話 接触・密着・運搬

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 バスを降りた。降りたのは三人だが、内一人は意識を失っていた。いや、ほとんど失っていた。

 ルゥラは目を擦ってうんうん言っている。月夜は彼女の片手を握っていたが、握り返してくる力は弱かった。そのまま倒れて、傍にある階段から落ちて、その下にある川に流されてしまいそうだ。たぶん、軽いから落ちたら本当にそうなるだろう。

「歩ける?」

 月夜はルゥラの頭の上から声をかける。

 彼女は答えない。

 いや、答えはした。

 けれど、大した答えになっていない。

「そこにベンチがある。座って少し寝かせてやったらどうだ?」

 月夜の足もとをうろちょろしながらフィルが提案する。彼は歩きたくて仕方がない症候群ではないが、動かないと仕方がない症候群ではあるかもしれない。内と外の関係として明らかにおかしいが。

「寒いから、風邪を引いてしまうかもしれない」月夜は少々反論する。

「じゃあ、どうするんだ? 家まで連れて帰るのか?」

「そもそも、ルゥラはどこから来たのだろう」

「その疑問は、今すぐに解消しなくてはいけないものではないだろう?」

「うん」

 沈黙。

 交通量は少なくなりつつあった。時間は大分遅い。ただし、月夜の普段の帰宅時間に比べれば、まだどうということはなかった。どうということはないというのは、不思議な表現だ。その疑問を口に出そうかと思ったが、フィルに憚れそうなのでやめておいた。

「おんぶしてやったらどうだ?」

 フィルに言われ、月夜は彼に尋ねる。

「できるかな?」

「やってみないと分からないさ」

 月夜はその場にしゃがみ込み、ルゥラを自分の背中に凭れさせる。そうすると、彼女の身体が以外と自分の身体に密着して、どうにか運ぶことができそうな予感がした。

 体重を前方に移行。

 まるで竹馬に乗るような感覚で、倒れそうで倒れない、ちょうど良い重心を得る。

 とりあえず安定してルゥラを背負うことができたので、月夜はそのまま歩き出した。歩いてもそれほど苦ではなかった。ルゥラは見た目以上に軽い。けれど、体温はしっかりと伝わってくる。首もとに回された二本の腕が、自分の首の骨にぶつかって、ちょっと痛いような気がした。

「大丈夫か?」

 フィルが尋ねてくる。当然、彼は自分で歩いている。この状況で飛び乗られても、大して変わらないかもしれない。

「うん、大丈夫」月夜は答えた。

 左右を木々と電柱に挟まれた上り坂。

「私も、誰かにおんぶしてもらったことが、あっただろうか」
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