116 / 255
第12章
第115話 接触・密着・運搬
しおりを挟む
バスを降りた。降りたのは三人だが、内一人は意識を失っていた。いや、ほとんど失っていた。
ルゥラは目を擦ってうんうん言っている。月夜は彼女の片手を握っていたが、握り返してくる力は弱かった。そのまま倒れて、傍にある階段から落ちて、その下にある川に流されてしまいそうだ。たぶん、軽いから落ちたら本当にそうなるだろう。
「歩ける?」
月夜はルゥラの頭の上から声をかける。
彼女は答えない。
いや、答えはした。
けれど、大した答えになっていない。
「そこにベンチがある。座って少し寝かせてやったらどうだ?」
月夜の足もとをうろちょろしながらフィルが提案する。彼は歩きたくて仕方がない症候群ではないが、動かないと仕方がない症候群ではあるかもしれない。内と外の関係として明らかにおかしいが。
「寒いから、風邪を引いてしまうかもしれない」月夜は少々反論する。
「じゃあ、どうするんだ? 家まで連れて帰るのか?」
「そもそも、ルゥラはどこから来たのだろう」
「その疑問は、今すぐに解消しなくてはいけないものではないだろう?」
「うん」
沈黙。
交通量は少なくなりつつあった。時間は大分遅い。ただし、月夜の普段の帰宅時間に比べれば、まだどうということはなかった。どうということはないというのは、不思議な表現だ。その疑問を口に出そうかと思ったが、フィルに憚れそうなのでやめておいた。
「おんぶしてやったらどうだ?」
フィルに言われ、月夜は彼に尋ねる。
「できるかな?」
「やってみないと分からないさ」
月夜はその場にしゃがみ込み、ルゥラを自分の背中に凭れさせる。そうすると、彼女の身体が以外と自分の身体に密着して、どうにか運ぶことができそうな予感がした。
体重を前方に移行。
まるで竹馬に乗るような感覚で、倒れそうで倒れない、ちょうど良い重心を得る。
とりあえず安定してルゥラを背負うことができたので、月夜はそのまま歩き出した。歩いてもそれほど苦ではなかった。ルゥラは見た目以上に軽い。けれど、体温はしっかりと伝わってくる。首もとに回された二本の腕が、自分の首の骨にぶつかって、ちょっと痛いような気がした。
「大丈夫か?」
フィルが尋ねてくる。当然、彼は自分で歩いている。この状況で飛び乗られても、大して変わらないかもしれない。
「うん、大丈夫」月夜は答えた。
左右を木々と電柱に挟まれた上り坂。
「私も、誰かにおんぶしてもらったことが、あっただろうか」
ルゥラは目を擦ってうんうん言っている。月夜は彼女の片手を握っていたが、握り返してくる力は弱かった。そのまま倒れて、傍にある階段から落ちて、その下にある川に流されてしまいそうだ。たぶん、軽いから落ちたら本当にそうなるだろう。
「歩ける?」
月夜はルゥラの頭の上から声をかける。
彼女は答えない。
いや、答えはした。
けれど、大した答えになっていない。
「そこにベンチがある。座って少し寝かせてやったらどうだ?」
月夜の足もとをうろちょろしながらフィルが提案する。彼は歩きたくて仕方がない症候群ではないが、動かないと仕方がない症候群ではあるかもしれない。内と外の関係として明らかにおかしいが。
「寒いから、風邪を引いてしまうかもしれない」月夜は少々反論する。
「じゃあ、どうするんだ? 家まで連れて帰るのか?」
「そもそも、ルゥラはどこから来たのだろう」
「その疑問は、今すぐに解消しなくてはいけないものではないだろう?」
「うん」
沈黙。
交通量は少なくなりつつあった。時間は大分遅い。ただし、月夜の普段の帰宅時間に比べれば、まだどうということはなかった。どうということはないというのは、不思議な表現だ。その疑問を口に出そうかと思ったが、フィルに憚れそうなのでやめておいた。
「おんぶしてやったらどうだ?」
フィルに言われ、月夜は彼に尋ねる。
「できるかな?」
「やってみないと分からないさ」
月夜はその場にしゃがみ込み、ルゥラを自分の背中に凭れさせる。そうすると、彼女の身体が以外と自分の身体に密着して、どうにか運ぶことができそうな予感がした。
体重を前方に移行。
まるで竹馬に乗るような感覚で、倒れそうで倒れない、ちょうど良い重心を得る。
とりあえず安定してルゥラを背負うことができたので、月夜はそのまま歩き出した。歩いてもそれほど苦ではなかった。ルゥラは見た目以上に軽い。けれど、体温はしっかりと伝わってくる。首もとに回された二本の腕が、自分の首の骨にぶつかって、ちょっと痛いような気がした。
「大丈夫か?」
フィルが尋ねてくる。当然、彼は自分で歩いている。この状況で飛び乗られても、大して変わらないかもしれない。
「うん、大丈夫」月夜は答えた。
左右を木々と電柱に挟まれた上り坂。
「私も、誰かにおんぶしてもらったことが、あっただろうか」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。
和泉鷹央
恋愛
アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。
自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。
だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。
しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。
結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。
炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥
2021年9月2日。
完結しました。
応援、ありがとうございます。
他の投稿サイトにも掲載しています。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~
鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。
投票していただいた皆さん、ありがとうございます。
励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。
「あんたいいかげんにせんねっ」
異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。
ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。
一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。
まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。
聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………
ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
君の中で世界は廻る
便葉
ライト文芸
26歳の誕生日、
二年つき合った彼にフラれた
フラれても仕方がないのかも
だって、彼は私の勤める病院の 二代目ドクターだから…
そんな私は田舎に帰ることに決めた
私の田舎は人口千人足らずの小さな離れ小島
唯一、島に一つある病院が存続の危機らしい
看護師として、 10年ぶりに島に帰ることに決めた
流人を忘れるために、 そして、弱い自分を変えるため……
田中医院に勤め出して三か月が過ぎた頃 思いがけず、アイツがやって来た
「島の皆さん、こんにちは~
東京の方からしばらく この病院を手伝いにきた池山流人です。
よろしくお願いしま~す」
は??? どういうこと???
碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】
宵月葵
恋愛
現実をしばし離れて 胸きゅんな “時の旅” へおこしやす……
今年中の完結をめざしつつも
永遠に続いてほしくなる非日常を……お送りできたらさいわいです
せつなめ激甘系恋愛小説 × シリアス歴史時代小説 × まじめに哲学小説 × 仏教SF小説
☆ 歴史の事前知識は 要りません ☆
歴史と時代背景に とことんこだわった タイムスリップ仕立ての
愛と生と死を濃厚に掘り下げた ヒューマンドラマ with 仏教SFファンタジー ラノベ風味 ……です。
これは禁断の恋?――――――
江戸幕末の動乱を生きた剣豪 新選組の沖田総司と
生きる事に執着の持てない 悩める現代の女子高生の
時代を超えた 恋の物語
新選組の男達に 恋われ求められても
唯ひとりの存在しかみえていない彼女の
一途な恋の行く末は
だが許されざるもの……
恋落ち覚悟で いらっしゃいませ……
深い愛に溢れた 一途な可愛いヒロインと “本物のイイ男” 達で お魅せいたします……
☆ 昔に第1部を書いて放置していたため、現代設定が平成12年です
プロットだけ大幅変更し、初期設定はそのままで続けてます
☆ ヒロインも初期設定のまま高3の女の子ですが、今の新プロットでの内容は総じて大人の方向けです
ですが、できるだけ若い方たちにも門戸を広げていたく、性描写の面では物語の構成上不可欠な範囲かつR15の範囲(※)に留めてます
※ アルファポリスR15の規定(作品全体のおよそ1/5以上に性行為もしくはそれに近しい表現があるもの。作品全体のおよそ1/5以下だが過激な性表現があるもの。) の範囲内
★ …と・は作者の好みで使い分けております ―もその場に応じ個数を変えて並べてます
☆ 歴史については、諸所で分かり易いよう心がけております
本小説を読み終えられた暁には、あなた様は新選組通、は勿論のこと、けっこうな幕末通になってらっしゃるはずです
☆ 史料から読みとれる沖田総司像に忠実に描かせていただいています
☆ 史料考察に基づき、本小説の沖田さんは池田屋事変で血を吐かないのは勿論のこと、昏倒もしません
ほか沖田氏縁者さんと病の関係等、諸所で提唱する考察は、新説としてお受け取りいただければと存じます
☆ 親子問題を扱っており、少しでも双方をつなぐ糸口になればと願っておりますが、極端な虐待を対象にはできておりません
万人の立場に適うことは残念ながら難しく、恐縮ながらその点は何卒ご了承下さいませ
※ 現在、全年齢版も連載しています
(作者近況ボードご参照)
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる