92 / 255
第10章
第92話 one more time
しおりを挟む
自分が周囲の環境に影響を受けているのであれば、皿から連想して食べ物を食べたということも考えられなくはない。しかし、ヨーグルトもラーメンも、平皿に入れて食したのではないし、それだけが要因だとはいえない。ただ、要因の一つではあるかもしれない。
「まあ、あとづけで考えても仕方がないな。目の前にある今を見なければ」
バスを下りて坂道を上っていた。背後からはまだ自動車の走行音が聞こえている。両サイドに並ぶ木々と電柱。虫の声は聞こえない。
「今とは?」自分の隣を歩くフィルに向かって、月夜は尋ねる。
「さあね。まあでも、俺は別に哲学問答がしたいわけじゃないからな」
「目の前にある今を見ろ、というのは、充分哲学的な発言だと思うけど」
「あくまで哲学、的、なだけだろう? それっぽいものは、本当のそれとは違うのさ」
「では、論理的というのも、本当の論理とは違う、ということになるの?」
「今の理屈でいえば、そうなるな」
「本当とは?」
家には帰らずに、直接小夜のいる神社へと向かった。公園を横断して土の斜面を上った先で、小夜が待っていた。
「おかえりなさい」
夜でも半袖の制服姿で、小夜が月夜に言った。
「ただいま」
先にフィルが会っているのだから、おそらく彼女もだいたいのことは知っているだろうと予想されたが、月夜は自分の身の回りで起こっていることを一応整理して説明した。しかし、整理するほど内容のあることではなかった。以前と今日で、自宅の周囲に同じタイプの皿が落ちているのが見つかったというだけだ。
「それが物の怪の仕業だと断定できるかは、まだ分かりません」月夜の説明を聞いて、小夜は告げた。「しかし、月夜の周りにはそのようなことをする人間がいるように思えないので、彼らの仕業だと考えるのが妥当です」
「随分と失礼な物言いだな」木の上にいるフィルが横槍を入れる。
「事実だから、いいよ」月夜は小夜に同意した。「じゃあ、それが物の怪の仕業だとして、私はどうすればいいの?」
「月夜は、二度あることは三度ある、しかし、三度あることは四度あるとは言わない、と考えたみたいですが、四度目はないにしても、三度目を待つ必要があります」
「どうして、私の考えたことが分かるの?」
「なんとなく、分かるからです」
「三度目を待って、それで、どうすればいいの?」
「そのときになれば分かるはずです」小夜は笑顔で答えた。「どうやら、この状況はもう少し長く続きそうです。それは、貴女が殺されるまでまだ猶予がある、ということを意味します」
「まあ、あとづけで考えても仕方がないな。目の前にある今を見なければ」
バスを下りて坂道を上っていた。背後からはまだ自動車の走行音が聞こえている。両サイドに並ぶ木々と電柱。虫の声は聞こえない。
「今とは?」自分の隣を歩くフィルに向かって、月夜は尋ねる。
「さあね。まあでも、俺は別に哲学問答がしたいわけじゃないからな」
「目の前にある今を見ろ、というのは、充分哲学的な発言だと思うけど」
「あくまで哲学、的、なだけだろう? それっぽいものは、本当のそれとは違うのさ」
「では、論理的というのも、本当の論理とは違う、ということになるの?」
「今の理屈でいえば、そうなるな」
「本当とは?」
家には帰らずに、直接小夜のいる神社へと向かった。公園を横断して土の斜面を上った先で、小夜が待っていた。
「おかえりなさい」
夜でも半袖の制服姿で、小夜が月夜に言った。
「ただいま」
先にフィルが会っているのだから、おそらく彼女もだいたいのことは知っているだろうと予想されたが、月夜は自分の身の回りで起こっていることを一応整理して説明した。しかし、整理するほど内容のあることではなかった。以前と今日で、自宅の周囲に同じタイプの皿が落ちているのが見つかったというだけだ。
「それが物の怪の仕業だと断定できるかは、まだ分かりません」月夜の説明を聞いて、小夜は告げた。「しかし、月夜の周りにはそのようなことをする人間がいるように思えないので、彼らの仕業だと考えるのが妥当です」
「随分と失礼な物言いだな」木の上にいるフィルが横槍を入れる。
「事実だから、いいよ」月夜は小夜に同意した。「じゃあ、それが物の怪の仕業だとして、私はどうすればいいの?」
「月夜は、二度あることは三度ある、しかし、三度あることは四度あるとは言わない、と考えたみたいですが、四度目はないにしても、三度目を待つ必要があります」
「どうして、私の考えたことが分かるの?」
「なんとなく、分かるからです」
「三度目を待って、それで、どうすればいいの?」
「そのときになれば分かるはずです」小夜は笑顔で答えた。「どうやら、この状況はもう少し長く続きそうです。それは、貴女が殺されるまでまだ猶予がある、ということを意味します」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる