舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
上 下
60 / 255
第6章

第60話 表裏一体

しおりを挟む
 雨が降り始めた。天気予報では言われていなかったことだ。しかし、天気予報は確率を基にしているので、外れるのは特別珍しいことではない。それも一つの現象として、初めから想定されている。

 折り畳み傘を持ってきていたので、帰るのに困るということはなさそうだったが、月夜はもう少し教室に留まって、様子を見ることにした。様子を見るというのは、止むようにお祈りするということと大して違わない。いずれにせよ、帰るにはまだ早い時間だったので、教室に残ること自体はいつも通りだった。

 フィルは今は眠っている……、ように、少なくとも月夜には見えた。彼は教壇の上が気に入ったようで、今もその上で丸まっている。

 自分は、きっと夜が好きなのだろうな、と月夜は思いついた。好きとか嫌いとか、そういう判断をいちいち持ち出すことはあまり好きではないが、夜という時間帯に関しては、自分の好感度が高いというのは、疑いようのないように思えた。

 以前にも考えたように、好きという感情はそれ単体で存在しているように思える。何かを見たり聞いたり知ったりしたときに、ああ、好きだな、と感じるだけで、何かと比べて好きだという判断は、ナチュラルなプロセスとはいえない。

 昼間の騒がしい教室と比べて、夜の静かな教室の方が好きだ、と言っても間違いではないが、そんな比較なしに、つまり、昼間の騒がしい教室など意識の範疇にない状態において、夜の中に身を投じていると、ああ、この時間が好きだなと感じるのだ。

 自分の名前に夜という言葉が使われていることと、関係があるだろうか、と月夜は考える。

 関係がないと言い切れる根拠などない。しかし、関係があったとしてもそれほど大きなものではないようにも思える。ただ、人間は記号というものに敏感だから、もしかすると、多大な影響を受けているかもしれない。私は月夜、私は月夜、という意識が、あるいは保身として、自分に夜が好きだという意識を芽生えさせたのかもしれない。

 夜とは、太陽の光が届かない時間帯のことだ。届かないだけで、太陽が存在しないわけではない。

 夜とは、昼と表裏一体の関係にある。球体のある一定の範囲が夜であるとき、その反対側は必ず昼になっている。

 ……その思考が何のために成されたものなのか、月夜は瞬時に判断できなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...