舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第6章

第53話 相対する二つ

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 考えてみれば、学校に物の怪が出るというのは、雰囲気としては間違いではないような気がした。きっと、学校には色々な思いが累積されているはずだ。それらが集まり合って一つの邪気と化すというのは、理解に苦しむような現象ではないように、少なくとも月夜には思えた。ただ、小夜は物の怪はどこにでも生じると説明した。ボーリングセンターの一画や、ファミリーレストランのドリンクバーに物の怪が伴うような光景は、そう簡単にイメージできることではないかもしれない。

 夜に近づきつつある学校の中を、月夜はフィルと一緒に歩いた。なんてことのない、いつも通りのことのように思えたが、しかし、いつもとは時間帯が異なる。最初に廊下に出たときに感じたように、やはりまだ空気は完全には冷たくなっていない。リノリウムの床も、いつもより柔らかく感じられるような気がした。けれど、そんなふうに奇妙な意識を持つと、後々それとのギャップに悩まされることがあるから、月夜はできるだけ考えないようにした。現実と想像の相違は、手に取るように理解できてしまうものではないが、一度しようとしてしまうと、できるまで求めてしまいがちだ。

「曖昧な思考だな」

 フィルに突っ込まれて、月夜は少し笑った。くすくすと声を出して笑うのは、久し振りのように思えた。

「もう少し、自重した方がいい」

 フィルの方を見て、月夜は笑顔のまま首を傾げる。

「どうして?」

「お前らしくもない」

「笑うのが、そんなに嫌だ?」

「笑っているのは、お前じゃない」フィルは小さな声で話す。「分かっているだろう? だからやめるんだ」

「笑っているのも、笑っていないのも、すべて、私だよ」

「そんなことを言っているんじゃない」

「じゃあ、何を言っているの?」

「お前の根底にある暗闇月夜について言っているんだ」

 反論しようとしたが、それをさせないようにする力が、ふと彼女の中に芽生えた。それから、それと、これの、位置関係が逆転した。だから月夜は笑うのをやめた。いつも通りの表情になって、それからフィルを抱きかかえる腕に少し力を込めた。

「苦しい」

「うん」彼を見て、月夜は今度は無表情で首を傾げる。「でも、温かい」

 また一階まで戻ってきて、やがて図書室の前に辿り着いた。今の時間は開いていないはずだが、ドアに触れるとそれはすんなりと動いた。

 上履きからスリッパに履き替え、月夜は図書室の中へと向かう。

「監視カメラに、捕捉されたりしないか?」

 フィルに問われたが、月夜は、彼がその答えを知っていることを知っていた。
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