舞台装置は闇の中

羽上帆樽

文字の大きさ
上 下
29 / 255
第3章

第29話 はう

しおりを挟む
「ねえ」

 真昼が言った。

「ん?」

 月夜は尋ねる。

「ここで暮らしたら、どうなるかな?」

「どうなるって、どういうこと?」

「ハウってことだよね」

「はう? それは、何かの感動詞?」

「いや、疑問詞」

 月夜は数秒間黙って考える。

「それじゃあ、言っていることに、変わりはないのでは?」

「木の上に家を建てて、そこで暮らしてみるなんてどうだろう」真昼は独り言を始める。「うーん、なかなか良さそうだ。良さそう……。あ、たしか、そんな感じの舞踊があったよね。なんか、こう、桶? いや、違うな……。笊? 笊かな? うーん、とにかくそんな感じのものを、こう……、両手で持って捻ったりしながら踊るやつ。あったよね?」

「いまいち、分からない」月夜は素直に答えた。

「分からないかあ……。僕がやってみればいいかな」

 木の上に乗ったまま、二人は会話をしている。木の上に乗ったままというのは、木の上に乗った状態で、と言い換えられるだろうか、となんとなく思考。馬に乗ったままスーパーに行くというのは、馬に乗った格好で、と言い換えられるだろうか、と追想。それから、追想、の意味が違うことに気がついて、幻想かな、などと思ったりする。

 月夜は枝に沿うように座っていた。自然と背骨が曲がる。真昼もほとんど同じ格好になっていた。二人の距離は今はそれなりに近い。今も、と言った方が正しいか。

「木工細工の知識がないと、ちょっと無理かな」真昼はまだ思いつくままに口を動かしていた。「こうね、ちょっとやそっとの風では吹き飛ばされないようにしたいんだよ。ほら、そういう童話があっただろう? 木では駄目で、やはり、ここは、現代の技術力に頼って、煉瓦で家を作りましょうね、みたいな話。あれね、僕はなかなか好きなんだ」

「あれ、とは? そのお話のこと?」

「いや、現代の技術力に頼って、煉瓦で……、というところ」

「技術は、人の力?」

「うーん、どうだろう……。あ、でも、人というのは、たしかそれ単体では定義されないんじゃなかったかな。その周辺にあるものも巻き込んで一つになるんだよ」

「その周囲にあるもの? 道具とか?」

「え? いや、周囲にあるんだから、服とか、空気のことじゃないの?」

 月夜は特にファッションには拘らない。けれど、服はどうしても着なくてはならないから、とりあえず、無難な感じになるように努めていた。今も、その、無難な格好で、真昼と接している。その点について、彼は特に何も指摘しなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

処理中です...