舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第3章

第26話 力学考?

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 広大、でもないグラウンドの上を、真昼がぐるぐる走り回っていた。特に規則性はない。放出された電子のように、どこの向かうのか確率でしか述べられず、次に向かう先を予想することはできるものの、それはやはり予想の域を出ない。

 太陽が徐々に高度を上げつつある。陽の光はいつも暖かい。同じような名前を冠している真昼からは、しかしいつも冷たい印象を受ける。他人への接し方が冷たいわけではないが、物事の捉え方、話し口調、挙動などから、そういった雰囲気を感じるのだろう。

 月夜はブランコに座っていた。

 座っているだけで、盛大に漕ぐことはしない。せいぜい足先で軽く地面を突いて、数センチ前後に揺れる程度だ。膝の上にフィルが乗っているからというのもある。彼は今は猫らしく小さく丸まっていて、この状況に対して特に不満は抱いてなさそうだった。

 彼の背中を撫でる。

 当然、掌に感触が伝わる。

 目の前に大きな桜の来があった。枝も長い。ブランコを思い切り漕いで、頑張って大きく揺らしたら、その先に届くかもしれない、といった曖昧な予測をする。危険性があるのに、どうして短く切らないのだろう、となんとなく思考。もしかすると、枝を切ることに抵抗感があるのかもしれない。桜の木ではなく、銀杏の木ならもう少し違った判断になるだろうか。

 真昼の動向を探る。

 彼は今度はグラウンドから離れて、その先にある斜面を上っていた。それなりに傾斜のある場所で、自転車で下ったら怪我をするかもしれない。

 道の途中で振り返り、彼が大きく手を振ってきた。

 ブランコに座ったまま、月夜も小さく手を振り返す。

「トロッコ電車の熱伝導率について、考察しないか?」

 頭の下から聞こえてきた声に反応して、月夜は視線をそちらに向ける。丸まった姿勢はそのままだったが、声を発したのはフィルのようだった。

「何を、どう、考察するの?」

「如何なる環境条件においても、物理的シークエンスが一定に行われるよう、端末のアイデンティファイを交錯させるんだ」

「もう一度、説明してもらってもいい?」

「なんだ、ちゃんと聞いていなかったのか?」

「聞いていたけど、一度聞いただけでは理解できなかった」

 月夜がそう言うと、フィルは短く溜め息を吐いた。

「駄目だなあ……」彼は不満を零す。「じゃあ、もう一度言うぞ。えー、物理的シークエンス……」

「如何なる環境条件、から始まるんじゃなかったっけ?」
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