舞台装置は闇の中

羽上帆樽

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第1章

第10話 停止信号:夜

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 二階の廊下の途中で立ち止まって、月夜は窓の外を眺めた。彼女の高校の両サイドは、それぞれ特殊な施設になっていて、右隣には大学が、そして、左隣には電車の工場がある。電車の工場とはいっても、それが具体的に何をするための場所なのか、月夜は知らなかった。電車を作る工場なのか、それとも、整備がメインなのか……。

「窓を開けたらどうだ?」フィルが少し上を向いて、月夜に尋ねる。

「開けたいけど、今はいい」

「どうしてだ?」

「なんとなく」

「それじゃあ、分からないな」

「うん……」月夜は顔を下に向け、フィルを見た。「ごめんね」

「別に、謝らなくていいけど」

「でも、迷惑かけた」

「そういうのは、普通迷惑とは呼ばない」

 夜の学校には、おかしなところがいくつかある。まず、第一に誰にでも分かるのは、昼間と真逆の印象を与えるという点だろう。学校とは、生徒たちが集まって、時に笑い合い、時に泣き合い、切磋琢磨し合って成長していく場だ。つまり、そこには明るいイメージがある。けれど夜になるとそれが一変する。夜の学校は暗いイメージになる。これは照明が一切灯っていないといった、視覚的な効果に起因するのではない。もちろん、そうした側面も関わってはいるかもしれないが、それが主たる原因ではないことは間違いないだろう。

 そして、第二に、夜の学校は冷たい。これは季節に関係なくそう感じられるのだ。少なくとも月夜はそうだった。これも、第一に上げた点と同様に、目で見て、暗いと認識するから、それに付随する印象としてそう感じられる、ということも考えられなくはない。けれどそれだけではないだろう。上手く説明できないが、月夜はそう感じていた。

 そして……。

 それは自分にも適用できる、と彼女は考える。

 月夜は、よく(よくというのは、出会った人の中ではという意味で、出会う人が多いことを意味しない)、暗い、冷たい、と言われる。そして、自分でも自分に対してそういうイメージを抱いている。彼女は、自分は黒い、と思っている。そして、それ故に、暗くあり、冷たくもあるのだ。

 彼女の目を直視できる者は限られている。月夜が相手を見つめると、その相手は必ずといって良いほど目を逸らしてしまう。でも、ときどきそんなふうに見つめられても平気な人がいて、そういう人とは、月夜は多く話せることが多い。

「俺も、その内の一人だな」フィルが呟いた。

「つまり、同類?」

「そうだったら、俺は嬉しい」
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