付く枝と見つ

羽上帆樽

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第44部 ma

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 窓の外から日の光が差し込んでくる廊下を、シロップはデスクと歩いた。実際には何の音も聞こえてこないが、橙色の光が夕暮れ時の哀愁感を想像させた。走り去る電車の音。客を呼び入れる屋台の店員の声。そのような典型的なイメージというのは、どこからやって来るものだろう? 懐かしさと切なさは、人間一般に共通する原始的な感情だろうか。

「デスクもそんなものを感じることがあるの?」シロップは質問する。

「あります」彼は簡単に答えた。「貴女様が傍にいないときには、特に」

「なんだか今日はお世辞ばかりだね」シロップは彼を見上げて話す。「何かあった?」

「これが普通の私なのです。今まで隠していたのです」

 ほとんどの窓は閉めきられていたが、一部薄く開いている部分があった。その隙間を手で押し広げて、シロップはそこから顔を出す。背の低い彼女にとっては、ようやく届くか届かないかくらいの高さだった。

 見下ろすと、校舎裏の薄暗い空間が見えた。花壇が並んでいる。今は何の植物も植えられていない。何が入っているのか分からない物置きと、誰のものか分からない錆びた自転車の骸。

 前方にガードレールが見えた。学校の一階は地上とは一致していないようだ。この一帯は山を切り開いて作られたから、そういうことは往々にしてある。

 不意に後ろから抱きかかえられ、突然の浮遊感にシロップは一瞬ぎょっとしたが、すぐに安堵感が自身の内に去来した。

「よく見えますか?」彼女の身体を持ち上げながら、デスクが言った。

「もともと見るものなんてないよ」

「では、どうして窓の外に顔を出したりしたのでしょう?」

「顔を出すことに意味があるから」

「扉は、次元をシフトするための装置かもしれません」

 両手でシロップの身体を抱えていたデスクは、彼女を片手へと持ち替え、もう片方の手で窓をさらに押し開いた。そして、その向こうへ身を乗り出す。

 冷たい空気を押しやりながら、二人は校舎の外へ飛び出した。

 地面に着地する。

 デスクに下ろしてもらい、シロップは落ちている自転車の傍へ近寄った。ハンドルは片方しかなく、サドルはどこにも見当たらない。タイヤには空気など入っているようには見えなかった。

 シロップは指を鳴らす。

 たちまち自転車は目を覚まし、大きく伸びをする。

 それから、二人の存在に気づくと、彼はこちらに向けて一度丁寧にお辞儀をした。
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