付く枝と見つ

羽上帆樽

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第31部 sho

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 少女についてシロップは歩いた。すぐ傍にある公園の中だ。しかし、少女が向かうのは遊具やグラウンドではなく、普通なら立ち入る必要のない斜面だった。ここから、公園は辺り一帯を覆う山と地続きになっている。

 山を登ることなど普段はしないから、シロップは少女についていくのが大変だった。木の枝を掴んで身体を持ち上げようとすると、予想以上に枝が撓んで、上手く運動を制御することができなかった。一方で、少女は、枝に手を触れることさえせずに脚だけで斜面を上っていく。靴の摩擦はどこに行ってしまったのだろうとシロップは考えた。もしかして、どこぞのロボットみたいに、地面から微妙に浮いていたりするのだろうか。

 所々少女に手伝ってもらって、二人はともかく山頂に到着した。後ろを振り返ると、木々の隙間から眼下の公園の遊具が僅かに見えた。全体的に光量は少なく、空気はひんやりしている。朝の運動量の少ない粒子がそのまま息を潜めているような場所だった。

 頂上に立った一本の木の根もとに、小さな社のようなものがあった。といっても、シロップは社というものを具体的には知らない。それは石造りの構造体で、中がくり抜かれた直方体の上に、斜めに屋根が被せられた形状をしていた。直方体の正面には木製の扉が付いている。

 社の周囲に、幾本か、火を灯すための設備が立っていることに気づいた。しかし、それらはここに来たときからそこにあっただろうか? 少なくとも、シロップにその判断はつかなかった。自分が周囲を観察していなかっただけかもしれない。

 世界はすべてルンルンに支配されているかもしれない。

 そうだとすれば、ありとあらゆるものは、そこにあるともいえるし、ないともいえる。

「この社が壊れてしまったんです」と少女が言った。シロップはすでに彼女にドライバーを渡してあった。彼女はそれを使って直方体の中を何やら弄っている。「たぶん、すぐに直ると思いますけど」

「何のために使うの?」

 シロップの問いに、少女はすぐには答えなかった。ドライバーがほかの物体に接触する音が聞こえる。今は風は吹いていなかった。空気は停滞しているが、息苦しくはなかった。すでに浄化されきった空気だけがここには存在しているようだ。

「何かのために使うのではありません」少女が言った。「使わなくてはならないから、使わざるをえないだけです」

「よく、分からないけど」

「物の怪に、存在する理由はないんです」

「物の怪?」

「物が化けた物です」そう言って、少女は少し笑った。「でも、これでは言葉遊びですね」
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