付く枝と見つ

羽上帆樽

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第17部 na

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 何も思いつかないときには、何もしないのが良いと、シロップは思う。しかし、何も思いつかないときには、自分が何も思いつかない状態にあるということを知っているわけで、それは、つまり、自分が何も思いつかない状態にあるということを思いついた瞬間がある、ということでもある。

 この種の思考は、シロップに典型的に見られるものだった。円環的といえる。けれど、この構造自体は、彼女に特有のものではない。比較的、人間全般に好まれる構造であるように思える。いや、そうか……。自分は人間ではないのかもしれないのだ、と彼女は思う。

 血液が乾いた腹部を摩る。

 まだ少しだけ痛い。

「そうそう。人間なんてやめて、貴女になればいいの」

 突然視界にルンルンが現れる。そうでなくても、彼女はいつも突然出現するみたいだった。普段は空気中に分散されていて、必要なときだけそれらが集まって彼女を形成するのだろうか。

「さあ、行こう」そう言って、ルンルンはシロップの手を掴む。

「行くって、どこに?」

「そろそろ、家に帰らないとじゃない?」

 公園を出て、夜道を歩く。両側二車線の道路が通っているが、今は車は一台も走っていない。だから堂々とその真ん中を歩くことができた。

 フェンスに遮られた広大な空間が、道路の縁の向こう側に広がっている。上は雲がかかった紺色の空、左右は明かりを消した住宅の群れだった。

「少しは楽しかった?」とルンルンが言った。

 シロップは答えない。

「ま、なんでもいいけどさ」ルンルンはスキップを始める。「私は楽しかったから、また付き合ってよ」

「もう、同じ手には乗らない」シロップは応えた。

「またまた、そんなこと言って。断れないくせに」

「貴女は、どこに住んでいるの?」

「別に、どこにも」

「家はないの?」

「どこもかしこも、私の家なんだ。さっき、貴女が考えたように」

「私の家には入らないでほしい」

「なんで? いいじゃん。どうせ、一人で暮らすには余っているんでしょ?」

「二人だから」

「ま、貴女の家に入ったことはないよ、たぶん」

「たぶん?」

「自分でも分からないからさ」ルンルンは話す。「どこまでが自分で、どこからが自分でないかなんて、分からないんだよ」

「それじゃあ、さっきの話と矛盾してない?」

「してるよ」ルンルンは言った。「それが私だから」
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