付く枝と見つ

羽上帆樽

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第15部 i

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 いつの間にか、ルンルンが乗っているブランコが勢いを増して、一回転してしまっていた。いや、一回転どころではない。もう何度も回っている。よく目眩がしないものだ、とシロップは感心したが、自分も一緒にやろうとは思わなかった。かつての彼女なら、そのくらいしたかもしれない。けれど、いつの日か、そんな彼女は消えてしまった。

 と、思いたいだけかもしれない、という気もする。自分を規定することなど、何度考えても不可能だ。常に変わり続ける。そんなふうに変わっていくのが怖いような気もするが、どうしようもないものはどうしようもない。

 ブランコの鎖が根もとから外れて、ルンルンは飛んでいってしまった。

 その様が視界の端に映ったときには、もう、彼女はそこにいなかった。

 顔を上に向けて、シロップは空を見る。

 綺麗な夜空に、ブランコに乗ったルンルンの影が見えた。

 附抜けた顔で上を見ていたが、上に飛んでいったものが、やがて落ちてくるということを、忘れていたわけではない。

 ルンルンの顔が、加速度的、ではなく、加速度、で、近づいてくる。

 指数関数の行く先は、直感では予想できない。

 脳天に衝撃が走った。

 身体ごと後ろに飛ばされる。

 音が聞こえなくなった。

 視界が何度か上に下にと動いたかと思うと、今度は背中を激しく叩きつけられた。

 遅れて、熱。

 動かない目をなんとか動かして状況を確認すると、ルンルンの身体が自分の上に乗っているのが分かった。彼女の腕が腹部に巻き付いている。

 見ると、そこから赤い液体が流れていた。

 それを認識した途端に、強烈な痛みが全身を襲う。

「なんだ。やっぱり、死なないじゃん」勢い良く顔を上げて、ルンルンが言った。「貴女も私と同じなんだな」

 片手を地面について、シロップは立ち上がろうとする。腹部から漏れ出る体液が勿体なくて、必死で傷口を塞ごうとしたが、無駄だった。

 声にならない声が出る。

 透明だった彼女の肌は、今や真っ赤に染まり上がっていた。

 呻き声。

 血液が溢れる口もとを、温かい何かで塞がれる。ルンルンの息遣いがすぐそこにあった。いや、すぐそこにあるというよりも、それは一時的に彼女と同化していた。

 シロップは黙って目を閉じた。

 これが、生きているということだろうか。
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