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「教訓」

嘘も方便

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「ん……なぜあなたが?」
「私は断ったのですが、彼がどうしてもと聞かなくて」
「見かけによらず大胆」
「なんか違うねそりゃ!」

 確かに傍を離れないと言ったことは紛れもない事実だが、あくまでも彼女の健康を留意してのこと。下心なんて微塵もない。
 翌日の放課後。郁は行きつけの喫茶店で二人の少女と対面していた。

「てか、この子の手伝いしてたなんて俺聞いてないんだけど?」
「すみません。しかし、目の前の問題を見て見ぬふりするのは私のポリシーに反します」

 澄まし顔で答える凜音とは対照的に、オレンジジュースを啜っている火村は我関せずとした様子だ。

「完璧主義は良いけど、さすがに掛け持ちしすぎだろ」
「これくらいできる自負はあります」
「負け惜しみはダサいぞ」

 ドヤ顔で強がる凜音を郁は一蹴する。臍を嚙む凜音を見て、普段の意趣返しができて郁は心中でほくそ笑む。性格が悪い。

「ぐっ……好きにしてください」
「ところで火村、お前応援団やりたいんだよな」
「好きにしてくださいとは言いましたが、無視するんですねそうですか」
「陵が一緒ならやる」
「言ったな? 赤嶺が一緒ならやるんだな?」
「(こくり……)」
「お、お、言質は取ったからな? 後から逃げんのなしだからな」

 安い煽りプレイをかますが、鈍感な火村は素直に頷いただけだった。左隣からの視線がものすごく痛い。正確には、左腕が悲鳴を上げている。

「ちょっと? 俺の半身が苦しんでるんですけど?」
「大袈裟ですよ。時には多少の力の行使も必要です」
「甘いな。前時代的な考え方は今すぐに捨てるべきだ」
「あなたの小賢しい態度が癪に障りました」
「理不尽じゃね!?」

 要約すると、イラついたから殴らせろというジャイアン理論。ただ、郁の煽りも程度の低いものだったので、一概にどちらが悪いとは決められない。

「話が逸れたな。まあ、火村の意志が確認できれば今日の目的は達成されたんだけど」
「その言い草では何か考えがあるようですね」
「まあ、色々準備してきたからな。凜音の下りは苦労したけど」
「タイムリーな事を臆面なくいじれるあなたの大胆さにはもはやお手上げです……」
「あ、俺の魅力に気づいちゃった感じ?」
「調子に乗らないでください」
 
 今度は左足をぐりぐりとやられた。郁としては凜音をいじられキャラとして確立させたいのだが、てんで上手く伝わらない。

「暴力系ヒロインに需要ないって最近よく言われるやつだから!」


 ● ● ●


 凜音が倒れた当日の夜。密会場所御用達の住宅街の公園にて。郁は夜闇から徐々に明るみに出てくる人影をねめつけていた。

「神野から呼び出しなんて珍しいな」

 赤嶺は不審者お馴染みの灰色のパーカーのポケットに手を突っ込み、頭には深くフードを被るという出で立ちで現れた。

「今日はちょっと我慢できなかったからな」
「そんなに急ぐ用?」
「俺はいつも早いからな」
「え……?」
「分かってないならいいよ」

 第三者の前で内輪ネタを出すことほど寒いことはない。

「でも大事な話なんだろ」

 面と向かって話すのが耐えられないのか、赤嶺は軽やかに外灯付近のベンチに飛び乗った。ただでさえ長身の赤嶺が更に郁を見下す構図となって威圧感が割り増しになった。
 しかし、尻込みするどころかあえて強気に出てしまうのが郁の愚かさであって。

「気になるよなあ。ほんとは気になって仕方がないもんなあ」
「何が言いたい」
「火村と直接拘わらず、なおかつ彼女の願いを叶える方法」
「そんな理想論があるなら、教えてくれよ」
「あるぞ」

 郁の答えが予想外だったのか、赤嶺は目を丸くして固まった。彼が正気に戻る前に、郁は間髪入れず畳みかける。

「単純な話だ。余計なプライドを捨てりゃ方法なんていくらでもある」
「俺は応援団に入る気はない。部活でそれどころじゃない」
「はっ、誰が入れって言ったよ」
「どういうことだよ」
「火村はお前と応援団やりたいって言ってんだよ。でも必ずしも一緒にやる必要はない」
「ふざけてんのか?」

 分からないのも無理もない。回りくどい言い方で格好つける郁にも非がある。

「何なら当日体育祭に来なくたっていい。お前が応援団に参加したというその事実さえあればいいんだ」
「そんなのでまほが納得するわけないだろ」
「いや、火村が気にしてるのは過去に応援合戦すらできなかったことだ。だから、予定通り体育祭での応援合戦をお前が行ったと思わせればいい」

 郁が力説すると、赤嶺は考え込むような素振りを見せた。
 火村と直接拘わらずに赤嶺が彼女の蟠りを払拭する。方法は彼に委託するが、双方の我儘を聞き入れるには応援団の構成や規模の縮小が必須だろう。その点を凜音が譲歩してくれたので、上手く機能していない応援団との交渉は容易だろう。

「だって、お前にとって火村と関わることは重くて面倒なことなんだろ?」
「ああ。きれいごとを言うつもりはない。それが紛れもない本音だ」

 高校生。大人への過渡期。赤嶺の意見は最もだ。郁達一般人は奇異なものとの関わりを避けたがるのが標準だ。弱者に寄り添うことを是とする道徳教育も間違っちゃいないが、ひどく酔いしれた一般論だ。ただ、郁は赤嶺よりもお人好しで、赤嶺は自分が大切なそれだけの違い。
 よくよく考えれば、郁の彼らへの働きかけは問題の解決とは少しニュアンスが異なる。問題を問題にするのはいつも外側から眺める人間の方だ。彼らの間に生まれたひずみをどうにかできるのは当人たちの努力次第だ。無理に人の考えを曲げようとする傲慢さを郁は備えていない。

「なら、後は土下座するなりなんなり好きにしろ」
「それやるの神野だけだからな。脳筋はらしい振る舞いをしとくよ」

 赤嶺はよっと声を出すと同時に、椅子から地面に飛び移る。はずみに灰色のフードが頭から外れて、さっぱりした頭が露わになる。

「お前それ……」
「なんつーか? 俺なりのけじめってやつかな」
「ああやだやだ、これだから体育会系は苦手なんだ」
「俺なりの大事な話だったのかもな」
「いや上手くないし、褒めないからな」

 男同士の密会は一夜限りの秘密として霧散する。互いに誰にも口外することもなければ、徐々にこの奇妙な出来事の記憶もやがて消え失せる。この先、郁と赤嶺の距離が近づくことはおそらくない。強面ながらも優しい赤嶺は日の目を見、郁はいつまでも水面下で動き続けるのみだ。
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