美女と岩

平川

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「じゃあさ、受付までで良いからさ。前回外れ引いちゃって今度こそ若くて可愛い子が良いんだよ~頼む!」
「…俺じゃなくても貴族の子息は沢山居るだろ?」
「そうは言っても大体はお高い鼻持ちか、性癖が可笑しな奴で娼館出入り禁止になってる奴しか知らないんだよ。その点お前は身持ち固いし変な噂も無いしさ~。…あ、でも無かったか。お前の噂知ってる?」
「噂?どんなものだ?」

 どうせ岩だ獣だと言われているアレだろうと息を吐き、エールをおかわりして乾燥豆を5、6個口に放り込んだ。

「お前が…『男色』だって噂。結構広がってるぞ?」

 ブーーーッ

「わあぁ!イターッ!」

 口に含んだ豆が対面に座るブルーの顔面に直撃する。

 はあぁぁ?男色?どこのどいつだふざけやがって!男に欲情してる暇なんか無いわ!!
 毎日アンジュの事で精一杯頭を悩ませている俺になんて事を!

「イテテ…はあ、えらい目にあった。豆って攻撃に使えるんだな。ふ…ふふふ……ああ、そうだ。そうなんだよ、そこでだよ、リダリオス君」
「ああ?」
「噂…消し去ろうぜ?」
「あ?」
「希代のホープ第二軍隊隊長リダリオス魔術剣士殿は一度たりとも女の影すら見えない。そう言う所にも行かない。つまりは不能か男色か?って噂をだよ。娼館行こうぜ?一発でそんな噂消えちまうよ」
「……俺には…婚約者が…」

 居ると…ハッキリと言えない。また振り出しに戻った。今1番悩んでる事なのだ。

「え?婚約者!本当かよ?操立ててるって訳?いつ結婚するんだ?」
「…まだ正式には…16にもなって無いからな…」
「ああ、まだ未成年か。流石お貴族だな~。婚約者が居るなんて…でどんな子?岩のお前に耐えられそうか?」

 ……岩…そうだよなぁ…ってサラッと悪口を言いやがって!耐えられるって何をだよ!

「あ、勿論閨事だぞ?女の子が岩にプチッと潰されないかと心配してるんだ。初めてでも騎乗位か、オススメは座位にし『ガシッ』ぶわっ!」

 豆が当たって赤くなっているブルーの顔面を鷲掴みギリギリと握力を込めてやる。

「命知らずだなブルー…俺の閨事の心配よりお前の未来の心配をした方が良いんじゃ無いか?特にこのお綺麗な顔が潰れる心配、とかな?」
「ぎゃーっそれだけはやめて~!顔だけは駄目~っ!」
「じゃあお前の下をプチッと握り潰して役立たずにしてやろうか」
「それも駄目~~!これは俺が生きてる意味だから~っ!」
「魔術剣士にあるまじき志しの低さ…」
「ハーレムが最終目標だから…」

「…はぁ…」

 訂正。騎士になんて一生成れない奴だ。ペイッとブルーを放り投げ、再びエールを流し込む。しかし男色などと噂があるとは失礼極まり無い。いや、その前に軍部に噂が広まれば出世に響くのでは無いか?

「うむ…ブルー。行ってやっても良いぞその店に。但し受付までな」

 床に転がっていたブルーがカッと目を開き飛び起きる。

「本当か!やった!」
「その代わり俺が不能や男色じゃ無いって噂も流しとけよ?それと婚約者が居る事は黙ってろ…色々あるんだよ」
「了解しました隊長!!」
「こんな時だけ上司呼ばわりしゃがって…」

 こうして如何わしい店にあくまで付き添いで赴く事になった俺は無事『男色』の汚名を晴らせた。一気に噂が広まったのだ。
 それどころか岩みたいな俺の相手を誰がしたのか、とか…。おヒレが着きまくり女を侍らせているだとか、密かに未亡人宅に通っているだとか、領地には沢山婚外子を残して来ているだとか…まあ、頭を抱えてしまう様な羞恥内容だ。
 当の本人は純潔そのモノだと言うのに…!スッカリ玩具にされてしまっていた。まあ、噂は噂。その内収まるだろう。

 だがそれは意外にも凶悪で、思いも拠らない誤解を招く事になる。

 ****

「おーい、ダリー」

 あれから2月程経ったある日軍部の会議室前の廊下で声を掛けられた。父だ。今は領地に戻り侯爵当主の執務に専念しているが、たまに情勢報告なんかで参洛して来る。

「父上…お久しぶりです」
「ああ……なんかまたデカくなったな…更に厳つくなって…」
「成長期なので。で、ここまでこられたのは緊急の御用ですか?」
「ああ、次の休暇は領地に戻る様に。理由は解るな?そろそろ式の日取りも決めないと。それからアンジュちゃん女学校を卒業し…『バシッ』っむぐ!」

 父を背後から羽交締めにして廊下の角に持ち上げ持って行く。

「父上…ここでその話はちょっと…。夜に屋敷でお話ししましょう。良いですね?…良いですよね?」
「む、むぐ…」
「では俺は仕事に戻りますので。早めに帰る様にします」

 コクコクと頷く父をポトリと床に下ろし、礼をして第二軍隊執務室へ足を向ける。「…うちの子人間かな?」そんな隊役したとは言え175㌢越えの父の呟きを聴きながら。

 そう、俺はとうに身長は2㍍越えしている。だからこその悩みだ。普通の子女サイズのアンジュにとって俺は巨人で岩なのだ…顔も険しく筋肉達磨。到底20歳には見えない。まあ、実力もあり、こんな見た目だから他の年配の隊長から舐められる事も無いのだが…。

 魔術剣士とは自分の属性を武器に宿らせ威力を上げ攻撃出来る者を言う。俺の属性は火と風と闇。魔力が高い程強く、剣技が鋭い程速くなる。極める程になぜか身体がニョキニョキとデカくなって行った。

「ふう…本当にどうしようか…」

 ****

 夕食を父と屋敷で取る。

「ダリ、アリアンジュちゃんの事大事にしてやれよ?」
「誕生日には花とメッセージを贈っています。年に数回顔も見に行ってますよ」
「結婚してからだよ。プレゼントは勿論、ちゃんと護ってやらないと…お前は知らないだろうがあの子は…もの凄ーーく男にモテる!」
「…え?」
「最近では女学校の男性教諭がちょっかい出して来たり、庭師に小屋に連れ込まれそうになったり、街で彼女を見掛けた貴族にしつこく言い寄られて、危ないからって暫く外出禁止にされちゃったりな。ランザートの奴もあの手この手で防いで来たが…」

 そ、そこまで?知らなかった!

「結婚すればお前の魔力で中から護れるだろ?」
「!!」

 子女が16歳になると結婚出来る。16歳と言うのはこの頃なら大体の身体が出来上がり女性としても機能が充分だと判断されるからだ。つまり性行為も解禁…子を産むのは更に2年後くらいからの方が安定する。出産の際に種を貰った相手の魔力が強ければ安産になるらしい。
 …後、魔力が高い相手の種が体内に入ると魔力が弱い奴からの無体は弾いて防げるらしい。腹に魔力が暫くの間留まるとか何とか。娼館の客は魔力測定されてから女を当てがわれるらしい。ブルーがワイワイ言ってごねてたのは魔力が高いからだ。高過ぎると選択肢が減るのだ。ハーレム作りが夢の奴にとっては選べ無いのはデメリットになる。

「…父上……アンジュはどう思ってるんでしょう?そんなにモテるなら…その、領地に好いた人が居ても可笑しくないのでは?こんな容姿の俺などでは無く、それこそ王子の様な美麗な恋人が居ても…」
「居たとしてお前はどうするんだ?」
「え?」
「身を引くって事か?」
「…ええ…まあ…侯爵家の婚約者が居るって事で貴族からの求婚の虫除けにはなってはいた筈だし」
「なんだ?娼館に良い女でも居たのか?行ったんだろラムズ通りの…」
「グッ!な、なぜそれを!あ、あれは付き添いで…って…え?それどこで…?」
「領地に居る時王都から来る会う奴会う奴に言われた。ご子息『男色』じゃ無くて良かったな~って」

「りょ……領地で!!?」


 嘘だろ…それは洒落にならん!
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