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◇式前30日の記録
40. 地下国へ
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「取り敢えず何があったのか教えてくれるか?」
「ゴアー、ゴアァゴア~ゴア」
テオルドに抱っこされシュンとしながらリリアは天界での出来事を話し始めた。通訳はピンジャーだ。
「父神様がね~。そう言えばえらく風がキツかったわ。あれは父神様だったのね。成る程」
「リリアに父が居たとはな。どんな力があるんだろうか......想像出来ん」
「あたくしもそんなには詳しくないけど女神様を子供の頃から溺愛していたって天華の長老様に聞いた事あるわよ。女神様の存在は全ての偶然と奇跡を集めて漸く出来たとか何とか。だから父神様は創造神に近いかも」
「.........リリア.........お前.........親が凄過ぎるな」
「ゴア。ゴァーーゴア!」うぅっ。怖くなった?捨てないでテオルド!
「馬鹿。お前の事を何も知らない奴になんてやるか!絶対渡さん!と、そう言えば地下国って.........」
「地獄の事ね」
「.........次元って付いてるって事は特殊なんだろうな」
「ゴァ~ゴアッゴアッゴァー」女神様は1日で30日分次元を歪ませるって仰ってたよ。こちらでは実質1日だけ日が変わるだけみたい。
「超越した存在か。なら俺はやるしか無いな。その女神様に望まれ、お前の伴侶になる戦いなんだから。頑張るよ」
「ゴア.........」テオルド.........
テオルドの首に顔を擦り付ける。またキスは出来なくなったがリリアの胸は熱かった。それはリリアがシラサギになっても態度一つ変えないテオルドの姿勢、自分への優しくて力強い愛がヒシヒシ感じられるからだ。
そしてテオルドもまたリリアを信じているのだ。彼女も尊い存在である筈なのに真っ直ぐテオルドに向かって両手を差し伸べて来る。愛しくて堪らない。
お互いがお互いを必要としていた。
****
一刻後
『さて、揃ったわね?あら?貴方達は別に良いわよ?行かなくて』
「いえ。私はテオルド様の側近ですので。主と共に参ります」
シューマはそう固い顔で言った。
「私はテオルド様の騎士。私も共に参ります」
トーザも変わらずそう返す。
『.........ふーん。これも1つの運命か。喰われないようにしなさいよ?地下国で命を落とすともう転生すら出来なくなる。肝に命じときなさい』
「..........賜りました」
「お心遣いありがとうございます」
じっとりとした冷や汗をかきながらシューマは頭を下げる。
悩む時間が余りにも無さ過ぎて。
だが、行かないと言う選択肢は彼の中には無いのだ。行かねばならない理由が沢山ある為だ。おそらくこの中で1番足手纏いになり得るのはシューマだ。唯の人間で異能を授かっている訳でも無く特殊な武器を扱える訳でも無い。トーザの様な力も戦闘センスも無い。
だが主人であるテオルドを見送る事など出来なかった。12年を共に過ごして来た主の姿を見届ける為、この戦いの結末を知り得る為、リリアの《聖》の力の分析、そして、あの意外とそそっかしい蜘蛛にも気を払わねばならない。30日間など拷問でしかない長期の間サポートに徹するつもりであった。
『私の白い娘が《聖》を扱えるのならついでに鍛えましょう。常に自分自身で引き出し扱える様になりなさい。貴女には彼の力が、彼には貴女力が表裏一体だと言う事を忘れないで。貴方達はこの世界で最高の相性よ。さあ、行こう。勝つ為に』
『「はい!」』
そうして女神によって次元地下国へと運ばれた5人と一羽。真っ暗な闇の中まるで燃え盛る赤い、炎の様な揺めきが包む。開け放つ事を拒む巨大な赤色の扉の前に降り立つ。異様な大きさと形容がリリアを怯えさせる。
『先ずは赤い扉を攻略しなさい。獄卒は1体。333体亡者を倒せば出て来るわ。でもサクサク倒さないと2日経つと復活しちゃうわよ?強く成りたければ『悪気』を上手く取り込み、呑まれずに勝ち進まなければ到底間に合わない』
ゴクリと喉を鳴らすリリアとシューマ。
『私の白い娘。貴女の想う気持ち見せてもらうわ。忘れないでね。《愛》とは《聖》よ。次の扉の前で待っているわ』
そう言い残し、女神はフワリと消え去った。
シーンと静まり返る闇の空間。するとテオルドが皆に振り向きこう告げた。
「正直、俺は全力で戦った事ないんだ。ビオルテルダの時も『悪気』に呑まれていたが芯では頭は冴えていた。身体は止まらなかったんだけどな。人間相手なら恐らく今が限界だと思ってたんだけど.........良い機会に恵まれたよ。ピンジャー、スパラッシュ。リリアを頼む。シューマ、死ぬなよ?お前にはまだまだ働いてもらわねばならん。良いな?トーザ、巻き込んで済まなかった。後ろを頼む。」
「.........ええ。貴重な体験ですからね、頑張ります」
「いえ、あの場に居た事、幸運に感じています」
テオルドはふふっと笑い、扉に身体を向ける。
「さあ、行こうか。まずは333体。プラス小ボス戦だ。伊達に『悪気』の制御に苦しんで来た訳じゃ無い。俺に【破王】の資格があるのなら、リリアを妻にする資格もある筈だ。絶対負けられん!!」
そう言い放ちテオルドは腰の長剣を鞘から引き抜き、赤く燃える扉に手を付いた。
ゴオオオォォォンッッと扉が音を立てながらゆっくりと内側へ開いて行く。
それから次元地下国、地獄での30日間が始まったのだった。
*********
ここまでご覧頂きありがとうございました。
一旦サブストーリーの第一幕終了とさせて頂きます。
現在別のお話に集中しておりまして完結まで幕間のお話をポツポツ投稿致します。
復活予定では有りますので間は空きますが引き続き宜しくお願い致します。
2021.12.14
「ゴアー、ゴアァゴア~ゴア」
テオルドに抱っこされシュンとしながらリリアは天界での出来事を話し始めた。通訳はピンジャーだ。
「父神様がね~。そう言えばえらく風がキツかったわ。あれは父神様だったのね。成る程」
「リリアに父が居たとはな。どんな力があるんだろうか......想像出来ん」
「あたくしもそんなには詳しくないけど女神様を子供の頃から溺愛していたって天華の長老様に聞いた事あるわよ。女神様の存在は全ての偶然と奇跡を集めて漸く出来たとか何とか。だから父神様は創造神に近いかも」
「.........リリア.........お前.........親が凄過ぎるな」
「ゴア。ゴァーーゴア!」うぅっ。怖くなった?捨てないでテオルド!
「馬鹿。お前の事を何も知らない奴になんてやるか!絶対渡さん!と、そう言えば地下国って.........」
「地獄の事ね」
「.........次元って付いてるって事は特殊なんだろうな」
「ゴァ~ゴアッゴアッゴァー」女神様は1日で30日分次元を歪ませるって仰ってたよ。こちらでは実質1日だけ日が変わるだけみたい。
「超越した存在か。なら俺はやるしか無いな。その女神様に望まれ、お前の伴侶になる戦いなんだから。頑張るよ」
「ゴア.........」テオルド.........
テオルドの首に顔を擦り付ける。またキスは出来なくなったがリリアの胸は熱かった。それはリリアがシラサギになっても態度一つ変えないテオルドの姿勢、自分への優しくて力強い愛がヒシヒシ感じられるからだ。
そしてテオルドもまたリリアを信じているのだ。彼女も尊い存在である筈なのに真っ直ぐテオルドに向かって両手を差し伸べて来る。愛しくて堪らない。
お互いがお互いを必要としていた。
****
一刻後
『さて、揃ったわね?あら?貴方達は別に良いわよ?行かなくて』
「いえ。私はテオルド様の側近ですので。主と共に参ります」
シューマはそう固い顔で言った。
「私はテオルド様の騎士。私も共に参ります」
トーザも変わらずそう返す。
『.........ふーん。これも1つの運命か。喰われないようにしなさいよ?地下国で命を落とすともう転生すら出来なくなる。肝に命じときなさい』
「..........賜りました」
「お心遣いありがとうございます」
じっとりとした冷や汗をかきながらシューマは頭を下げる。
悩む時間が余りにも無さ過ぎて。
だが、行かないと言う選択肢は彼の中には無いのだ。行かねばならない理由が沢山ある為だ。おそらくこの中で1番足手纏いになり得るのはシューマだ。唯の人間で異能を授かっている訳でも無く特殊な武器を扱える訳でも無い。トーザの様な力も戦闘センスも無い。
だが主人であるテオルドを見送る事など出来なかった。12年を共に過ごして来た主の姿を見届ける為、この戦いの結末を知り得る為、リリアの《聖》の力の分析、そして、あの意外とそそっかしい蜘蛛にも気を払わねばならない。30日間など拷問でしかない長期の間サポートに徹するつもりであった。
『私の白い娘が《聖》を扱えるのならついでに鍛えましょう。常に自分自身で引き出し扱える様になりなさい。貴女には彼の力が、彼には貴女力が表裏一体だと言う事を忘れないで。貴方達はこの世界で最高の相性よ。さあ、行こう。勝つ為に』
『「はい!」』
そうして女神によって次元地下国へと運ばれた5人と一羽。真っ暗な闇の中まるで燃え盛る赤い、炎の様な揺めきが包む。開け放つ事を拒む巨大な赤色の扉の前に降り立つ。異様な大きさと形容がリリアを怯えさせる。
『先ずは赤い扉を攻略しなさい。獄卒は1体。333体亡者を倒せば出て来るわ。でもサクサク倒さないと2日経つと復活しちゃうわよ?強く成りたければ『悪気』を上手く取り込み、呑まれずに勝ち進まなければ到底間に合わない』
ゴクリと喉を鳴らすリリアとシューマ。
『私の白い娘。貴女の想う気持ち見せてもらうわ。忘れないでね。《愛》とは《聖》よ。次の扉の前で待っているわ』
そう言い残し、女神はフワリと消え去った。
シーンと静まり返る闇の空間。するとテオルドが皆に振り向きこう告げた。
「正直、俺は全力で戦った事ないんだ。ビオルテルダの時も『悪気』に呑まれていたが芯では頭は冴えていた。身体は止まらなかったんだけどな。人間相手なら恐らく今が限界だと思ってたんだけど.........良い機会に恵まれたよ。ピンジャー、スパラッシュ。リリアを頼む。シューマ、死ぬなよ?お前にはまだまだ働いてもらわねばならん。良いな?トーザ、巻き込んで済まなかった。後ろを頼む。」
「.........ええ。貴重な体験ですからね、頑張ります」
「いえ、あの場に居た事、幸運に感じています」
テオルドはふふっと笑い、扉に身体を向ける。
「さあ、行こうか。まずは333体。プラス小ボス戦だ。伊達に『悪気』の制御に苦しんで来た訳じゃ無い。俺に【破王】の資格があるのなら、リリアを妻にする資格もある筈だ。絶対負けられん!!」
そう言い放ちテオルドは腰の長剣を鞘から引き抜き、赤く燃える扉に手を付いた。
ゴオオオォォォンッッと扉が音を立てながらゆっくりと内側へ開いて行く。
それから次元地下国、地獄での30日間が始まったのだった。
*********
ここまでご覧頂きありがとうございました。
一旦サブストーリーの第一幕終了とさせて頂きます。
現在別のお話に集中しておりまして完結まで幕間のお話をポツポツ投稿致します。
復活予定では有りますので間は空きますが引き続き宜しくお願い致します。
2021.12.14
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