上 下
48 / 54

48.本当の気持ち

しおりを挟む
「な.................っ!」

 シーラは全身を固くする。

「突然王妃になんてさせられて『聖女』なんて役割押し付けられてしんどかっただろう?俺も自分の事で精一杯でちゃんと考えて来なかった。言い訳したい訳じゃないんだ。いつの間にか君を囲ってしまっていた事に気付いたんだよ。気付けて良かった。《大地の管理者》としては結局何をして良いのか分からなかった。だから側に置くのが当たり前なんだと思っていた。でも違うんだな。俺は勘違いしていたようだ。シーラ。自由に生きて良い。君がしたい事して行きな。世界は広い。これからは.........誰にも縛られず楽しんで生きてくれ。そうだ。鳥に乗って行くのも良いな。術も必要無いし」

 レジンは暖炉の中の火を見つめながらフッと笑った。静かに心に膜を掛ける。




「.........................ち.................違うわ」
「え?」
「違う.........違うわ!違う!そんなの欲しくない!!!」

 シーラはガバリと起き上がり膝を立ててレジンの両肩を鷲掴んだ。

「そんなの欲しくない!違うわ!違うの!私が、私が一番欲しいのは............」


「......................貴方よ」
「.........え?」

「自由が欲しいなんて思った事無いわ。そりゃ移動の制限は有るけど別に良いの。医局にだって私が行きたいと言い出したのよ。何か出来る事をしたかったから。【治療】だって私が巻いた種なんだから当たり前だわ。嫌だなんて思って無い」
「シーラ.........」
「私は貴方に..........貴方に.........あ.........愛して欲しくて....貴方の側にずっと居たくて.........。そんな対価を求める自分が醜くて.........それが辛くて.........でも..........欲しくて苦しい。これが愛する事なの?貴方の声を聴きたいの。名前を呼んで欲しいの。一杯抱きしめて欲しいの。離さないで欲しいの。でも、上手く行かないの。役に立てないの。やり方が判らない.........こんな貪欲で醜い役に立たない私を.........嫌いにならないで.........レジン様.......ぁ..」


 ポタポタと大粒の涙を溢し泣くシーラ。
 まだ少し酔っているのかグラリと身体が揺れてへにゃっとラグに座り込む。

 ちょっと呆然としていたレジンだが、漸く頭の中がハッキリしてきた。


「..........................あーー。本当.........ごめん。何か全然違ったみたい。どこで間違ったんだろ?.........いや.........そうか」

 レジンは泣いて下を向くシーラを抱き起こし優しく胸に抱く。

「本当.........俺達。出会った頃から成長してないな。ふふ。おっかなビックリでさ。お互いを尊重し過ぎて先読みばかりして.........ダメになる所だった。そうか.........そうか。.........もっと素直で良いんだな」
「.................レ.........ジ.........」

 シーラがレジンの顔を見上げる。涙でぐちゃぐちゃになっていた。でも.........煌めき揺れる瞳が美しい。



「.........シーラ行かないで。何処にも。死ぬ最後の一瞬まで側にいてくれ。それだけで良いんだ。俺、死ぬ刻は君の腕の中で死にたいんだ。役に立たないとなんてなんで思ったんだ?」 

 胸のモヤモヤは.........これだった。



 膜を張った.........本当の自分の気持ち。




 シーラの青緑の瞳から涙がポロリと落ちる。弱々しくレジンの首に手を回す。

「.........行かない。行きたくない。側に居たい。レジン様.........」

 レジンはシーラの細く華奢な身体を掻き抱いた。



「愛してる。愛してるよ。君がいればもう何も要らない。過去も.........全て捨て去ろう。君と生きて行くよシーラ。俺がこの世界に来た本当の理由は.........きっとそれなんだ」


 シーラの額にキスを落とす。瞼に唇を着け涙を吸った。
 初めて味わった刻は甘くて驚いた。でも今は当たり前になった。三年半も刻間が掛かった。分かっているつもりで過ごして来た。でも違った。

 彼女の愛はその姿に似合わず深くて強い。醜いと言う彼女にちゃんと言わなければ。


「もっと俺を欲しがって?シーラ。俺を君のモノにしてくれ。二度と離れるなんて考えられない様に」




 そして知って欲しい。自分に向けられる執着が.........堪らなく嬉しい事を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆ 第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます! かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」 なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。 そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。 なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!  しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。 そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる! しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは? それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!  そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。 奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。 ※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」 ※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

絶倫騎士さまが離してくれません!

浅岸 久
恋愛
旧題:拝啓お父さま わたし、奴隷騎士を婿にします! 幼いときからずっと憧れていた騎士さまが、奴隷堕ちしていた。 〈結び〉の魔法使いであるシェリルの実家は商家で、初恋の相手を配偶者にすることを推奨した恋愛結婚至上主義の家だ。当然、シェリルも初恋の彼を探し続け、何年もかけてようやく見つけたのだ。 奴隷堕ちした彼のもとへ辿り着いたシェリルは、9年ぶりに彼と再会する。 下心満載で彼を解放した――はいいけれど、次の瞬間、今度はシェリルの方が抱き込まれ、文字通り、彼にひっついたまま離してもらえなくなってしまった! 憧れの元騎士さまを掴まえるつもりで、自分の方が(物理的に)がっつり掴まえられてしまうおはなし。 ※軽いRシーンには[*]を、濃いRシーンには[**]をつけています。 *第14回恋愛小説大賞にて優秀賞をいただきました* *2021年12月10日 ノーチェブックスより改題のうえ書籍化しました* *2024年4月22日 ノーチェ文庫より文庫化いたしました*

処理中です...