人間三原則

こーぷ

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第2章 ヒューマンバトル

61話 スクエ、金を取られる

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「とりあえず、久しぶりにあそこで飯でも買いに行くか」

 気分転換する為にどうやら、飯を買いに行く様だ。

「ウーヴェ達の事件以降、行って無かったからな、久しぶりだな」

 出店が立ち並ぶ、あの場所にはあまり良い思い出が無いスクエであったが、ヒーローの力を手に入れて、リプレス相手なら、戦いになったとしても、問題無い為、今では恐れずに向かう事が出来る。

 そこまで、遠く無い距離なのであっという間に目的地に到着。

「うんうん、今日も人間族で賑わっているな」

 出店が建ち並ぶ、そこでは大きな声を上げて呼び込む人間達の姿がある。

 そんな人間達を見て、スクエは改めて思う。

──俺が、リプレスから解放してやる

 何か食べる物を買う為に、美味しそうな匂いに釣られながら、見て回る。

「どれも美味そうだな……けど、あの人の料理をもう一度食べたかったぜ……」

 ロメイの奴隷であった人間を思い出し、少し気分が落ちるスクエ。

 そんな風にして見て回っていると、前から来た少年にぶつかってしまう。

「おっと、悪い。大丈夫か?」

 その少年は髪は伸び放題、服装も小汚い所を見ると、とうやらリプレスの奴隷では無くスラム街に居る人間の様だ。

 スクエに声を掛けられた少年は一度コクリと頷き、ぶつかった事を謝っているのか、頭を下げて、その場を立ち去った。

「スラム街か……懐かしいぜ」

 少年の後ろ姿を見守っていると、ちょうどスクエ達の様子を見ていた出店の店員が慌てた様にして声を掛けてくる。

「お、おい兄ちゃん! いいのかい?!」
「ん? 何がだ?」
「そりゃ、お前……あのガキはスリだぜ?」
「──ッ!?」

 スクエはが慌てて財布を入れてたポケットに手を突っ込む。

「無い……俺の金……」

 どうやら、先程の少年にぶつかった際にスラれたみたいだ。

 店員も、頭に手を当てて、スクエの悲惨な姿を見る。

「お、追い掛ける!」
「もう、遅いと思うが、恐らくスラム街のガキだと思うぞ」
「あ、ありがとう!」

 スクエは既に見えなくなった少年の跡を全力で追い掛ける。

──クソ、あんな一瞬で誰が財布盗めるとか思うんだよ!

 元々平和な国から異世界転移をして来たスクエは財布をスラれる可能性など一握りも想像していなかった。

 結局、少年の姿は見付からず、とうとうスラム街まで来てしまったスクエ。

「はぁはぁ──見つけられなかった……」

 呼吸を整える様にして一度止まり、周りを見渡す。

「うーん、少ししか居なかったけど、懐かしい……」

 全体的に建物が老朽化しており、道端には何人もの人間が座り込んで、地面を見る様に俯いている。

「とにかく、一回りして見つけられなかったら諦めるか……」

 そこまで、大金を持ち歩いていた訳では無いが、ご飯三日分は買えるくらいの料金があったのは間違え無い。

 しかし、金を盗んだ少年も、直ぐに住処であるスラム街に戻って来る様なバカでは無かったみたいで、結局見つける事が出来なかった。

「はぁ……まぁいいか……せめて、養分として長生きしてくれ」

 何時間か探しても見つかる気配が無い為、スクエは帰ろうとする。

 すると、とこからか呻き声が聞こえた……

「ゔぅ……」

 どうやら、その声は建物と建物の間にある狭い通路から聞こえる。

「な、なんだ?」

 苦しそうな声が聞こえたスクエは覗き込む様に見ると、そこには一人の女の子が倒れていた。

「お、おい……大丈夫か……?」

 ヒーローとして、助ける事に躊躇しなくなったスクエは直ぐ様近付き、様子を確認する。

「目立った外傷とかは無い様だな……」

 暴行の後が無い事を確認したスクエは女の子に話し掛ける。

「どうしたんだ?」
「ゔぅ……」

 呼び掛けにも反応せずに、女の子はただ、呻いている。

 どうしたのか、悩んでいると女の子のお腹から、物凄い大きな音が鳴るのが聞こえた。

「……はは、もしかして唯、腹減っているだけか?」

 なんだか、拍子抜けしたスクエ。

「いやいや、笑い事では無いよな……えっと……」

 スクエは自身の身体をまさぐり、何か無いかを確認する……

「お?」

 先程盗まれた財布とは逆のポケットに何かが入っていた様で取り出す。

「ラッキー! ちょっと待っとけ!」

 どうやら、スクエは反対側のポケットにお金が入っていた様だ。

「これなら、安い何かなら、買えるだろ!」

 スクエはスラム街を出て適当にご飯を買って直ぐに戻ってきた。

 戻ってみると、相変わらず女の子は倒れている。
 そんな女の子に向かって買って来たばかりの食い物を口の前まで運んであげる。

「ゔぅ……?」

 匂いに気が付いたのか、女の子の目が急に全開に広がり、目の前の食料に飛び付く様にして食べ始めた。

「はは、慌てず食えよ?」

 スクエの言葉など耳に入っていないだろう。

 そして、暫く女の子がご飯を食べ終わるのを待つと……

「ふぅ……」
「落ち着いたか?」
「──ッこ、これは失礼した!」

 女の子はスクエに声を掛けられると勢い良く立ち上がり頭を下げる。

「この度は私の為に、こんな美味しいご飯を分けて頂き感謝する」
「いや、気にするな、当たり前の事をしただけだ」

 スクエの言葉に驚きを隠せない女の子は目を見開いている……
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