人間三原則

こーぷ

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第1章 ヒーロー見参

45話 状況は劣勢……しかし……

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「くははは──人間よ、よく頑張ったが、どうやらここまでの様だな」

 ウーヴェの魔法により、再度最初の位置まで、戻されてしまったスクエ。

──アイツ、何しやがった?!

 スクエ自身にダメージは無い。

──攻撃が当たったと思ったのに、見えない壁に阻まれたぞ……?

 スクエの頭の中には、何が起きているか分からなかった。

 そこに、片腕が取れたノラが近づいて来る。

「スクエ、大丈夫か?」
「あぁ、けど悪い、倒せなかった──アイツが何をしたか分かるか?」

 スクエの言葉に、ノラはウーヴェを睨み付けながら説明する。

「恐らく、ガード系の風魔法を使用したんだろう……」
「そんなのまで有るのかよ……」
「あぁ──魔法一つインストールするだけで、とんでもない金額が掛かるからな、まさか二個も魔法を所持しているなんて……」

──コイツに勝てるのか……?

 スクエは横目でノラを見る──片腕を壊された為、もう先程の様な作戦は出来ないだろう。

「一人で突っ込んでも、魔法の餌食だよな……」
「バカな真似は止せ──もう一度先程の作戦で行くぞ」
「ダ、ダメに決まっているだろ?!」

 ノラは自身の身体を気遣う必要が無いと判断したのか、再度同じ作戦でウーヴェに近づく提案をスクエにする。

「それしか、アイツに近付けないだろ?」
「それでも、絶対ダメだ!」

──二回もノラを壊されてたまるかよ!

 こうして、再びスクエにピンチが訪れてしまう。
 そんなスクエ達にウーヴェが話し掛ける。

「これで、分かっただろ? お前達では私に勝てん──大人しく私の部下になれ」

 この状況でのウーヴェからの提案。

「お前達、二人は強い──人間は勿論の事だが、そこの女も根性が据わっている──風魔法とは言え中々出来る事では無いぞ?」

 敵だと言うのにウーヴェはノラを褒める。

「お前達二人は良いコンビでは有るが、少々デコボコ感が強い──お互いより良いパートナーと組めば更に強くなれるぞ? それを私が手配する」

 次から次へとスクエ達に魅力的な提案を投げ掛けるウーヴェ。

 しかし……スクエ達は屈しない……

「スクエ、まさか提案に乗るつもりでは無いよな?」
「ッはん! 当たり前だろ?」

 スクエが即答したのに満足したノラは笑みを零す。

「よろしい──では次の作戦だ」
「さっきと同じ事って言うなら却下だぞ?」
「ふふ、安心しろ──次はもっと安全な作戦だ」
「なんだ?」

 ノラは視線だけをウーヴェから外さず、スクエにだけ聞こえる様に呟く。

「逃げるぞ」
「に、逃げる?」

 ノラからの、まさかの作戦に開いた口が塞がらないスクエ。

 そんなスクエを気にした様子も無くノラが話し続ける。

「今の私達ではアイツに勝てる武器が無い……」

 ノラの言葉に反論する余地が無い為黙り込むスクエ。

「だが、ここで逃げ切る事が出来れば──次にアイツと戦う事になった時に私達は勝つ事が出来るだろう」
「なんか、策があるのか?」

 スクエの言葉に頷く。

「あぁ、アイツから逃げ切る事さえ出来ればスクエにスキルをインストールする事が出来る」
「スキルか……」
「スキルも値段は相当高いが、魔法と比べれば全然安いからな──アイツを倒すためのスキルさえインストール出来れば、今のスクエであれば倒せると思う……」

──成る程……スキルか……

「分かった──でも、どうする?」

 ウーヴェを倒す為に逃げる必要を理解したスクエであったが、そもそも逃げ切れるかが問題の様だ。

「さて、そろそろ最後だ。話し合う時間はタップリと与えた筈だ──答えを聞かせて貰おうか?」

 強者の余裕か、ウーヴェはスクエとノラが何やら話し合っていても、特に咎める事をせず待っていた。

 そこで、ノラがウーヴェに意志を伝える。

「好待遇の条件は有難いが、私もスクエも辞退させて頂こう」

 ノラの言葉に、やれやれと言う様に首を左右に数回振る。

「いいのか? そこの人間は殺す気、無いがお前は破壊するぞ?」

 ウーヴェから再び殺意を向けられるノラ。

「破壊されるのは勘弁して貰いたいものだな」
「ふむ。ではどうする? ──このままでは、勝てる見込みが無いと思うが?」
「あぁ──お前の言う通り勝つ事は出来ない……だが──」 

 ノラがスクエの方に視線だけ動かすとスクエも意図を汲み取ったのか小さく頷く。

「──ッこうするまでだ!」

 ノラとスクエは一斉に後ろに向き全力で走り出す。

「はぁ……何かと思えば……」

 ここまで、ウーヴェ自身と戦う事が出来た二人を心の中で尊敬すらしていたが、まさか最後は逃げるとは──ウーヴェ自身二人にガッカリした様子である。

「もう、良い。人間だけ頂くぞ」

 ウーヴェの足元から魔法陣が浮かび上がる。

「風よ──ウィンドジェイル」

 ウーヴェが魔法を唱えると、不可視の鎖が物凄いスピードで二人を追い掛けて脚に絡み付いた。

「「──ッな?!」」

 いきなり、脚に何か巻き付けられ拘束されてしまい、二人の足は止まってしまった……

「ノラ、どうなっている?!」
「風魔法の一種だ! ──アイツここまで魔法を使用できるのか?!」

 拘束したのを確認したウーヴェはゆっくりと歩き二人の目の前までやって来た。

「まさか、逃げるとはな──興醒めだぞ?」

 少し詰まらなそうにノラとスクエを見る。

「あにいく、お前の流儀に付き合っている暇は無いんでね……」
「ほぅ、この状況でまだ、その様な口を聞くか、なら──」 

 ウーヴェから魔法陣が浮かび上がる。

──コイツ、何するつもりだ?!

「風よ──ウィンドショット」

 ウーヴェは拘束されているノラに向けて近距離で風の弾丸を当てる。

「──ッ!!」
「ノラ!?」

 ウーヴェは敢えて、ノラを壊さず、更にもう一つの腕を破壊した。

 それによって、ノラの両腕が無くなってしまう。

「テ、テメェ!」 

 鉄パイプを握りしめてウーヴェに向かって走るが、脚に絡み付く不可視の鎖の影響でギリギリ、ウーヴェに鉄パイプが届かない様だ。

「ふはは、人間よこの女を助けたいので有れば分かるな?」

 更にウーヴェから魔法陣が浮かぶ。

「スクエ、絶対にソイツの言う事を聞くんじゃ無いぞ!」

 ノラの言葉にどうすれば良いか迷うスクエ。

「まだ、足りない様だな」
「や、やめろ!」
「風よ──ウィンドショット」

 ウーヴェの次に狙った箇所は足であった。

「ははは、人間よ後撃つ所が残り一つしか無いがどうする?」

──と、どうすればいい……俺に何が出来る?

 スクエは自分の無力さを感じる。

──折角、こんな凄い力を手に入れたのに結局、俺は守れないのか……?

 この世界に来て、一体何度、この様な自問自答をしただろうか。
 だが、その度にスクエは……

──いや、俺はノラを守る!

 前向きに考え、突破口を開く。

──俺は誰だっけか……?

 スクエは笑みを浮かべる。


──俺は……ヒーローだ!

 すると、又もやスクエが白い光に包まれるのであった……
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