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第10章

463話

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 アトス様と姉さん、そして先生達が移動速度を上げて私とリガスから離れていくのが見える。

「チル様、絶対に私から離れないで下さい」
「分かった」

 リガスが殿を務め、変異体の相手をする。

「リガス、来た!」
「お任せよ! ──ッカネル!!」

 リガスの第一の盾で変異体の追撃を受け止める。

「ほっほっほ。貴方は少々遠くに行って貰うとしましょう──ッオーハン!」

 続いて、第二の盾で変異体を遠くに飛ばす。

「さぁ、チル様。今のうちに距離を稼ぎますぞ?」
「分かった」

 どうやら、リガスの作戦はこの調子で、変異体から逃げて、再びカネルとオーハンが使用出来る様になったら、同じ行動をして、私達と変異体の距離を稼ぐつもりらしい。

「ふむ。やはりダメージは全く無い様ですな」

 走りながらも後ろを見ると、吹き飛ばされた、変異体は何事も無く起き上がる。
 自身より、何倍も小さい相手に攻撃を受け止められ、吹き飛ばされた事に驚いているのか、リガスの事をジッと見ていた。

「どうやら、少し警戒される様になった見たいですな」

 このまま、私達を警戒し追うのを諦めて欲しかったが、そんなに甘くなかった……

「追い掛けて来る……」

 変異体は先程同様に自身の身体を上手い具合に丸めて、転がる様に私達を追って来た。

「まるで、大岩ですな」
「うん。大岩が転がっている風にしか見えない」

 変異体の防御力が凄いのは、姉さんの雷弾が効かなかった時点で分かっている。
 しかし、攻撃力も中々高いみたいだ……

 変異体が転がり、木に衝突する度に、その木は倒れたり、折れたりしている。

「ふむ。あんなのに潰されたら終わりですな」

 ただ、デカイ事が幸いして少し移動するだけで木々にぶつかり、思った様なスピードは出ない様だ。

「それでも、移動速度は速い……」

 初速は大した事が無いが、少しずつスピードが上がって行き、スピードが出る度に木々にぶつかっても速度が落ちなくなっていき、私達に追いついて来る……

 しかし、その点は大丈夫だった。

「カネルッ!」

 変異体がスピードが上がった状態でも、リガスにより再び止められる。

「オーハン!」

 そして、吹き飛ばされて、振り出しに戻る。

「リガス、このままなら行けそうだね」
「ほっほっほ。ですな!」

 あと、どれくらいで禁止区域を抜けられるか、分からない。だけど、この調子で行けば問題無く禁止区域を出る事は可能だと……思う。

 禁止区域から出た事によって、変異体が諦めてくれれば良いけど……

 それから私達は合計五回程同じ行動をして変異体の攻撃を受け止め、吹き飛ばした。

「チル! リガス! もう少しだから、頑張ってくれ!」

 少し前の方でアトス様の声が聞こえた。

「リガス、あと少しだって!」
「承知致しました」

 リガスの様子を窺うが、疲れた様子は全く無い。流石、リガスだ。

 このまま、逃げ出せると淡い希望を抱いていたが、そう甘くは無かった……

「カネル!」

 六回目の変異体による攻撃を受け止める。

「オーハン!」

 そして、変異体を吹き飛ばす。しかし今回、変異体が別の行動を取り始めた。

「む?! 動きが変わりましたな」
「ん?」

 変異体は、同じ行動しても無駄だと思ったのか、今回は直ぐに追い掛けて来る事は無かった。

 そして……変異体は奇声を上げる。

 ここ最近、聞く機会が多いモンスター達の独特な鳴き声。

「チル様、不味いかもしれません」
「どう言う事?」
「これまでに、モンスターが奇声を上げた場合は決まって仲間を呼ぶ時でした」

 確かに、リガスの言う通りだ。

「なら、これからモンスター達が集まって来るって事?」
「恐らく、その可能性が高いですな」

 一通り、奇声を上げた後、変異体は再度身体を丸めて、こちらに向かって転がって来た。

「む? チル様、やはりモンスター達が集まって来ましたぞ?」
「リガス、どうすれば良いと思う?」

 アトス様が言うにはあと少しで禁止区域を抜ける。

 ここが、モンスター達に取って神聖な場所であるなら、恐らく禁止区域を離れてまで私達を追って来ないだろう。

 だから、そこまで逃げれれば良いけど……

「大変申しにくいですが、私は変異体の相手で手一杯ですな」
「うん。リガスは変異体に集中して」

 リガスが変異体のスピードを削いでいるからこそ、ここまで逃げられている。

 だが、このまま行けば恐らくモンスター達が集まって来て、リガスが変異体に集中出来なくなって、私達は全滅してしまうかもしれない……

「リガス、この事をアトス様に伝えに行ってくる」
「お願いします──ここは私にお任せ下さい」
「ううん、伝えたら直ぐに戻って来る──リガスだけに危ない事はさせない」

 私が居たからと言って、何か出来る訳では無いが、リガスのご主人様として、私は側に居るべきだと思う。

「ほっほっほ。流石、私のご主人様──それではお待ちしております」
「うん。待ってて、直ぐ戻って来るから」

 私は移動速度を上げて少し前に居るアトス様に、変異体の奇声の意味と、モンスター達が近付いて来ている事を伝えに行く……
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